知的財産ニュース 韓国特許庁、「知的財産基盤ダイナミック経済の実現戦略」を発表

2024年11月5日
出所: 韓国特許庁

2027年まで企業の産業財産権200万件確保、ダイナミック経済の実現を目指す

半導体・二次電池に次ぎバイオ分野の技術についても優先審査制度を導入する。人工知能(AI)技術を活用してオンライン上の模倣品販売を24時間体制でモニタリング・取り締まる。

韓国特許庁は11月5日火曜日、ダイナミックな経済の実現に向けて知財の好循環を促進する「知的財産基盤ダイナミック経済の実現戦略」を発表した。

知財は、企業を成長させ雇用を創出し、スタートアップにとっては資金調達の可能性を高めて資本の流入を促進する一方、技術革新による韓国経済の生産性を高める。つまり、知財は生産要素(労働・資本)の投入と生産性の向上を図り、経済成長をけん引するカギとなる。

[知財とダイナミック経済]
■産業財産権(特許・意匠・商標など)を保有規模が1%増加すると売上高が0.35%増(2023年、知識財産研究院)
■産業財産権を保有する企業は保有してない企業に比べて売上高7.2%、輸出39.6%増(2023年、知識財産研究院)
■特許出願したことのあるスタートアップは資金調達の可能性が6.4倍増(2023年、欧州特許庁)
■生産性の増加には研究開発より特許権の増加が有意なプラス効果(2020年、通商情報学会)

ユン・ソンニョル政権に入り特許庁は先端戦略産業分野において民間専門家105名を特許審査官に採用し、専担審査組織である半導体審査推進団、二次電池審査課3つを立ち上げるなど、特許審査体制を大きく拡充した。

これにより、今年7月に韓国出願人の特許保有件数が100万件を超え、年間の特許審査処理件数も大幅に増え2021年18万件から今年は約20万件水準に達するとみられる。

今年8月にはIP金融※市場規模10兆ウォンの時代をひらく意義のある成果がみられた。2021年6兆ウォンから2年8か月で1.7倍成長している。
※企業が特許など知財権を活用して融資・保証・投資により資金を調達する金融のこと

一方、「軽い処罰」と大きく批判されていた国内先端技術の海外流出への対応問題において、営業秘密の海外流出罪に対する懲役刑を最長9年から12年に引き上げ、初犯に対しても実刑判決になるよう執行猶予基準を強化するなど、裁判所における量刑基準の改正(2024年3月)を関係部処が力を合わせて進めた。また、世界で最高水準といわれる営業秘密侵害の5倍賠償制度を導入した(2024年8月)。

今回発表した「知的財産基盤ダイナミック経済の実現戦略」は、ユン・ソンニョル政権発足後2年半が経ち人気の折り返し点を迎えて策定した知財総合戦略であり、経済の主体となる革新を権利化・収益化して再び革新に投資するという「知財の好循環」を強化させ、韓国企業が保有する産業財産権の規模を2021年153万件から2027年299万件まで拡大する計画だ。

半導体・二次電池に次ぎ「バイオ」も「特許優先審査」…先端戦略産業の迅速な権利確保を支える

来年1月にバイオ(35名)・先端ロボット(16名)・人工知能(9名)の3つの分野で民間専門家60名を特許審査官に採用する。バイオ分野の専担審査組織を立ち上げ優先審査制度を導入することで、全ての先端戦略産業分野(半導体・ディスプレイ・二次電池・バイオ)について「特許審査パッケージ※」の支援体系を整える。
※民間分野で経験の豊富な専門家を審査官に採用、専担審査組織の立ち上げ、優先審査への支援など

「先端技術の道しるべ」となる6億件の特許ビッグデータにより国家戦略の確立を支援する

今年8月施行された「産業財産情報法」を基に6億件の先端技術情報である特許ビッグデータを本格的に活用することにした。特許ビッグデータは、技術保有企業(出願人)、研究者(発明者)、技術分野(特許分類コード)、技術情報(発明の詳細な説明)などが盛り込まれた品質の高い技術情報の集約であり、これを活用することで産業や技術の競争力について国・企業別に比較・分析し、最新の動向を把握することができる。

特許庁は、人工知能(AI)、量子、先端バイオなどゲームチェンジャーとなる技術に対しデータを基にした国家戦略を策定するよう、当該技術に関係する国家委員会などに特許ビッグデータの分析結果を積極的に提供していく方針だ。また、AI産業などで特許ビッグデータの活用を促すよう産業財産情報法に基づいた5か年基本計画を年内に策定する計画だ。

革新技術のある企業が市場で適切な評価を受けられるよう知財情報を公開する環境づくり

米国、日本など主要国は企業の技術が知財情報を投資者に提供することで投資の活性化を図っているが、韓国では関連制度が設けられていない。それを受けて「コリアバリューアップ」の一環として、企業の知財情報公開に関するガイドラインの確立など企業の知財保有状況、投資・活用戦略など市場に情報を積極的に提供する環境づくりに取り組む。

知財の事業化への支援の拡大…技術革新の促進

企業と大学・公共研究機関が保有する特許が起業、新事業の展開などの際により多く活用されるよう支援を拡大する。関係部処・自治体・民間投資機関などと連携してスタートアップの育成や中小企業による知財の事業化への支援を強化する一方、民間分野主導の知財取引市場を活性化するために民間取引機関の育成を進める。また、知財の事業化への租税支援強化策についても検討する考えだ。

輸出の妨げ、海外知財紛争から韓国企業を守る

海外で特許侵害訴訟に巻き込まれると莫大な損害賠償や輸出禁止といったリスクにさらされる。韓国経済は輸出の影響力が非常に大きい環境にあることから韓国企業が海外で起こる知財紛争に予め対応できるよう手厚く支援する。来年から輸出の初期段階・予定のある企業を対象に知財紛争リスクを事前にチェックできるコンサルティングサービスを提供する計画だ。

AI技術により24時間体制でモニタリング…オンライン上の模倣品流出を防ぐ

デジタル化の進展によりECサイト、海外個人輸入などさまざまなルートを通した模倣品流出の増加※により、中小企業のブランドの生存はもちろん、子ども用品・自動車部品など国民の安全に直接影響を与える分野においても被害が相次いでいる。これを受けて、国内外のプラットフォームを対象に模倣品販売の投稿を24時間体制でモニタリング・通報するAIモニタリング制度を導入する。今年は11の商標に対し実装実験を行い、来年には対象を160の商標に大幅拡大するなど、中長期に拡大していく。
※オンライン上の模倣品流通への取締実績(万件):(2020年)13.7→(2021年)18.8→(2022年)20.6→(2023年)23.8

キム・ワンギ庁長は「知財はイノベーションであり、ダイナミックな経済成長のカギとなる」と強調し、「韓国出願人の保有特許100万件、IP金融10兆ウォン突破、知財犯罪に対する量刑基準の引き上げなど、ユン・ソンニョル政権発足後積み上げてきた成果を基に、とどまることなく、今回策定した戦略を円滑に進めてダイナミック経済の実現に一助する」と述べた。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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