知的財産ニュース 韓国特許庁、「グローバル産業競争力強化に向けた技術流出の対応策」を発表
2024年10月17日
出所: 韓国特許庁
特許ビッグデータの活用と関連法律の強化により技術流出行為を先制的に防ぐ
韓国特許庁は10月17日木曜日、政府ソウル庁舎にて開かれた第224次対外経済長官会合において「グローバル産業競争力の強化に向けた技術流出の対応策」を案件として上程・議決した。今後、韓国企業の生存、さらには経済安全保障に影響を与えかねない先端技術の保護網が一層細かくなるとみられる。
今回の方策は、半導体、二次電池など先端産業分野における技術流出の増加により、国レベルで被害※が懸念される現状を克服し、中小・ベンチャー企業の成長を遮る技術奪取行為を防ぐために国家技術保護体系を確立することで、グローバル産業の競争力を強化し、ダイナミックな経済を実現するために進められた。同方策には、営業秘密保護※※および不正競争防止制度、特許ビッグデータ分析など核心的な技術保護手法を活用して技術流出への対応を強化する対策が盛り込まれた。
※この5年間(2020年~2024年8月)、海外へ技術流出を試みた件数だけで97件に達し、流出された際の被害額は約23兆ウォンと推定
※※1.営業秘密侵害時の損害賠償(5倍可能)・禁止請求、懲役・罰金可能、2.2024年上半期、警察に送致された技術流出事件のうち70.3%が営業秘密の流出→技術流出対策の主な手段
1. 特許ビッグデータを基にした技術流出行為の取締、ピンポイント型制度の改善など先端技術流出防止の強化へ
まず、特許ビッグデータの分析により技術流出行為を取り締まり、防諜機関に共有して即時に捜査を進めるなど先制的な技術流出防止体系を構築する。特許庁が保有している5.8億件の特許ビッグデータは、世界の企業、研究所、大学などが生成した高級な技術情報の集約であり、世界のR&Dの動向、専門人材、技術動向などが読み取れるため、技術流出を把握する上で欠かせないデータである。特許庁は、防諜情報としての特許ビッグデータの価値を認められ、今年4月に国家防諜機関に指定されている。国家コア技術の新規指定や変更時に活用できる特許動向の情報、権利移転、人材情報を関係部処に提供するなど、国家コア技術の保護に万全を期す考えだ。
特許庁の技術専門人材を活用した部処横断型技術流出捜査の高度化を図る。技術流出に捜査には技術の類似性判断が欠かせないため、特許庁に在籍する、各技術分野にわたる約1,400名の審査・審判の専門家を活用して情報・捜査機関から諜報・捜査の段階で要請があった際には技術犯罪の成立の有無を判断する技術諮問体系を構築する考えだ。そのために不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律(以下、不競法)には関連根拠を設ける。
また、ますます巧妙化する技術流出犯罪のさまざまな手法にピンポイント型対応ができるよう、営業秘密保護制度を細かく改善する不競法の改正を進める。技術流出を目的にする転職の斡旋など営業秘密侵害を斡旋するような行為に対しても民・刑事的対応ができるよう制度を見直し、営業秘密流出行為に対する通報補償金制度の導入を推進する。海外企業が韓国にある子会社を介して営業秘密を海外に流出するなど新しい技術流出手法に効果的に対応できるよう営業秘密再流出行為に係る処罰※制度も新設する。
※(現行)不法取得した介入営業秘密の取得・使用に係る処罰規定のみ対象となる→(改善)漏洩も含む
2. 技術侵害被害に対する救済に向けた韓国型証拠収集制、訴訟管轄集中などを推進
技術侵害訴訟の方式・体系の先進化を図ることで被害救済を強化し、研究人材に対する待遇を改善するなど、技術流出を防ぐための環境づくりを重点的に進める。まず、証拠の確保が十分ではないため技術侵害訴訟の勝訴率と損害賠償額が非常に低い現状※を改善するために韓国型証拠収集制度を導入する。同制度が導入されれば、裁判官が指定した専門家が技術侵害現場で資料を収集・調査することと裁判所職員の主宰の下、当事者間で証人を尋問することが可能になるため、証拠の収集が非常に有効に行われるとみられる。
※この5年間の原告側の勝訴率:営業秘密侵害訴訟25.6%、全体の民事訴訟55.6%
特許侵害訴訟における損害賠償額の中央値(1997年~2017年):(韓国)0.6億ウォン
VS(米国)65.7億ウォン
高度な技術的判断が求められる技術侵害訴訟において専門性を高めるために技術侵害事件に対し管轄集中を進める。訴訟管轄集中※は、現在は特許権・実用新案権・意匠権・商標権・品種保護権に係る事件の民事本案のみに適用されていたが、今後は営業秘密、産業技術保護、不正競争行為に係る事件などの民事本案および仮処分、刑事まで拡大して適用される。
※第一審は6大地方裁判所(ソウル・水原(スウォン)・大田(テジョン)・大邱(テグ)・光州(クァンジュ)・釜山(プサン))を中心に、第二審は知財高裁に集中されることを意味する
また、特許審査官の採用(135名)と大韓民国産業現場教授の選定(雇用労働部、約100名)により技術人材を韓国内で採用する範囲を拡大し、職務発明補償制度の適用範囲を広げることで、韓国内の専門研究人材が海外に転職している現状を改善していくという方針だ。
3. 技術保護相談、アイデアの原本証明制度など中小企業向け技術奪取行為の対策を拡大
企業、大学、研究所などを対象に技術流出への対応力を高めることにも力を入れる考えだ。予防の観点から国家戦略・コア技術を保有する中小・中堅企業を対象に技術保護相談を新しく提供(年間40社)し、大学・研究所を対象に各組織の状況に応じた技術保護に関する相談を提供する。
中小企業向け技術奪取防止および対応支援制度も強化する。中小企業が取引や交渉を進める際に相手側に共有しているアイデア(技術情報・経営情報)を簡単に立証できるようアイデア原本証明制度※を導入し、既存の「公益弁理士センター」を「産業財産法律救助センター」に拡大して運用することで、営業秘密侵害の被害を受けた中小企業を対象に民事訴訟の費用の支援、法律諮問の提供などを支援する。技術奪取紛争の早期解決のためには裁判所および検・警察が連携する紛争調停の拡大、意図的な不応案件に係る捜査の連携など、産業財産権紛争調停委員会の機能を拡大する。
※証拠資料の電子指紋登録→証明書の発行→原本認定の効力発生
特許庁長は「ますます高度化・巧妙化している海外技術流出行為に対抗するためには対応方法もより科学的で緻密なものにならなければならない」とし、「特許庁が保有している主要資産である特許ビッグデータと技術専門人材を活用して技術流出行為の早期把握や迅速な捜査が行われるようにし、さまざまな技術流出手法が法律の抜け穴から逃げられることが内容に緻密な技術保護制度を構築する先制的な技術保護体系を強化することで、産業競争力の強化によるダイナミックな経済のけん引に取り組んでいく」と述べた。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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