知的財産ニュース 「遺伝資源の出所開示」に関するWIPO条約が採択…韓国特許庁、先進国と協力して積極対応へ

2024年5月29日
出所: 韓国特許庁

日米韓の緊密な連携により特許制度に与える悪影響を最小化

韓国特許庁は、5月13日月曜日から24日金曜日まで、スイス・ジュネーブにあるWIPO(世界知的所有権機関)の本部で開かれた会合により、「知的財産、遺伝資源および関連する伝統的知識に関するWIPO条約※※」(以下、「条約」)が締結したと発表した。
※遺伝資源:植物、微生物、動物など遺伝の機能的な単位を有する生物のうち、現実の、または潜在的な価値を持つもの
※※(英文)’WIPO Treaty on IP, Genetic Resources and Associated Traditional Knowledge’

同条約の主な内容は以下である。

【知的財産、遺伝資源および関連する伝統的知識に関するWIPO条約】
遺伝資源・伝統的知識の出所の開示義務:遺伝資源および関連する伝統的知識を基にした特許出願の際に、出願人は遺伝資源の原産国、または入手元、関連する伝統的知識を提供した先住民、地域社会などに関する出所情報を開示しなければならない。
義務不遵守の場合の制裁:出所開示義務を不遵守した理由のみで特許が拒絶されるか、登録が取り消されることはないが、不遵守に欺罔の意図がある場合、加盟国の国内法に基づく制裁が科される。

日米韓が緊密に連携して特許制度に与えかねない悪影響を最小化する

韓国政府は、今回の会合に外交部と特許庁、韓国知識財産研究院の職員からなる代表団(首席代表:在ジュネーブ代表部ユン・ソンドク大使)を派遣し、韓国の国益と整合する国際ルールづくりに向けて、韓国と認識を共有する米国、日本、カナダ、英国など先進国と緊密に連携して積極的に対応してきた。

同条約は、全体の内容にわたって先進国と開発途上国の立場をバランスよく反映していると評価されている。①韓国と主要先進国側で争点となっている特許出願の際の遺伝資源の「出所開示の対象と範囲(デジタル配列情報(DSI)を除く)」を明確化し、②「制裁の限界※」の立場を貫き、③今後の交渉に向けた外交会合の参加範囲を、締約国に限らず、WIPOの全加盟国にするなど、成果を上げた。
※遺伝資源の出所開示を不遵守しているとの理由のみで特許を無効にするなど制裁を科すことができない

同条約は、今後1年間、スイス・ジュネーブにあるWIPOの本部で署名することができ、15か国が批准書を寄託してから3月後に発効される。韓国は出願人に不要な義務を課すとの判断の下、米国や日本などと同じく条約に署名しておらず、今後も条約の署名には慎重を期す考えである。

また、中国、EU、ブラジル、インドなど40か国余りが既に出所開示制度を運用しているため、条約が発効されても当面は企業側に大きな変化や影響を与えることはないと思われる。

特許庁、韓国企業の負担解消に向けて説明会の開催などサポートしていく

ブラジル、インド、アフリカなど遺伝資源の豊富な国を中心に開発途上国側は、2010年締結した名古屋議定書上の義務条項である遺伝資源へのアクセスおよび利益共有(ABS)を達成する手段として出所開示義務制度を運営し、この制度を拡散するための国際ルールづくりを主張してきた。

一方で先進国側は、遺伝資源などの出所開示は特許要件とは関係がなく、出所開示義務は遺伝資源に関わる研究開発のモチベーションを下げ、特許出願人の負担になるとの理由により、ルールづくりには強く反対してきた。

特許庁は、遺伝資源の出所開示に関する動向を共有し、関連業界・機関の意見を取りまとめるための懇談会を開き(2023年8月、12月)、今年初旬、韓国バイオ企業を対象に遺伝資源の出所開示に関するアンケート調査※を実施するなど、韓国企業の対応策を考えるために取り組んでいる。
※韓国バイオ企業10社のうち9社は、遺伝資源の出所開示義務制度に負担を感じていると回答

今後も特許庁は、同条約の締結により、韓国の製薬・バイオ企業が抱く負担や恐れを解消するために関連する説明会を開き、条約の加盟国および各国の出所開示制度に関する情報を引き続き分析して提供する考えだ。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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