知的財産ニュース 技術流出防止に向けた「技術保護4重安全装置」を稼働

2024年5月13日
出所: 韓国特許庁

7年間摘発された海外流出被害額は33兆ウォンに達し…「4重安全装置」で根絶を目指す!

韓国特許庁は技術流出防止に向けた「技術保護4重安全装置」を本格稼働させると発表した。今後、韓国企業の生存を左右する技術保護網がさらに細かくなるとみられる。

<技術保護4重安全装置の主要内容>
主要内容 施行日
❶「防諜業務規定」(大統領令)改正により、特許庁を7番目の防諜機関に指定 2024年4月23日
❷「司法警察職務法」改正により、技術警察による捜査範囲が全ての営業秘密犯罪に拡大
※営業秘密の不正取得・使用・漏洩のみ捜査→予備・陰謀、不当保有・無断流出までを捜査
2024年1月16日
❸「知的財産・技術侵害犯罪に係る量刑基準※(以下、「量刑基準」)改正により、処罰強化
※量刑基準:裁判官が刑量及び執行猶予を決める際に参考にする基準
2024年7月1日
❹「不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律」改正により、最大5倍の懲罰賠償 2024年8月21日

❶特許庁を「防諜機関」に指定…国家情報院などと産業スパイの取り締まりに協力

「防諜業務規定」(大統領令)改正案が公布・施行される(2024年4月23日)ことにより、特許庁が同規定に基づく「防諜機関」に新しく指定される。これまで指定されている6つの防諜機関※と産業スパイの取り締まりに協力していく。
※国家情報院、法務部、関税庁、警察庁、海洋警察庁、国軍防諜司令部

特許庁は、特許審査業務の特性上、全ての技術分野において工学博士、弁理士、技術士など約1,300名の専門人材を保有しており、約5.8億件に至る世界の先端技術情報である特許ビッグデータを確保している。これを基に、世界各地で開発されている最新技術に関する情報を常時調べ、専門的な分析を行っている。つまり、海外から狙われている韓国のコア技術を把握していることである。

特許庁は、このような分析情報を国家情報院参加の「防諜情報共有センター」に提供し、ほかの防諜機関が把握している技術流出に関わる諜報と連携するなどして産業スパイの取り締まり活動に緊密に協力していく方針だ。

❷流出謀議、不当保有の行為でも技術警察が捜査する…被害防止の役割も期待

特許庁の技術専門家からなる「技術警察」は、特許・営業秘密侵害など技術流出犯罪に対応する専門捜査組織として国家情報院、検察庁と三角共助により、半導体など国家コア技術の海外流出を遮断するなど、成果※を上げている。
※(2019年~2023年)技術警察による刑事事件の立件数:計1,855名(営業秘密侵害犯罪326名)

技術警察は大きな成果を上げているにもかかわらず、これまでの捜査範囲が営業秘密侵害に関わる全ての犯罪に至らない限界があった。営業秘密を競合他社など他人に実際に漏洩しない限り、流出を謀っていた行為が発覚されても、このような行為に対する捜査権が与えられていなかった。

しかし、「司法警察職務法」改正(2024年1月)により、技術警察の捜査範囲が予備・陰謀行為および不当保有を含める営業秘密侵害犯罪の全体にまで拡大※され、営業秘密流出行為に対する事後的処罰だけではなく、これを防止する機能に強化されるなど、韓国技術を抜け穴のない捜査により、しっかり保護する効果が期待される。
※(従前)営業秘密の不正取得・使用・漏洩のみを捜査→(拡大)予備・陰謀、不当保有・無断流出までを捜査

❸7月1日から海外流出犯罪の懲役最長9年→12年、初犯でも実刑に

今年7月1日から営業秘密流出犯罪に対する量刑基準が、海外への流出犯罪の場合は懲役最長9年から12年に延長され(韓国国内での流出犯罪は6年から7年6月へ)、初犯でも実刑判決が下されるよう執行猶予の基準が強化される。

ここ最近、世界の技術覇権争いが激化する中で、韓国企業が持つコア技術を狙う海外企業による技術流出行為が相次いでいる※。しかし、技術流出の犯罪が深刻化している現状とは裏腹に処罰は軽い※※との指摘が多い。
※(2017年~2023年)産業技術の海外流出の摘発件数計140件、被害金額約33兆ウォン(国家情報院)
※※(営業秘密の海外流出)法定刑上限:15年>>2023年に宣告された懲役期間の平均:15.6月(検察庁)

これを受けて、特許庁は検察庁と共に営業秘密侵害など技術流出犯罪に対する軽い処罰を見直すために取り組んでおり※、国民やメディアからの関心を受けて最高裁の量刑委員会で量刑基準の改正(2024年3月25日)を進めた。
※(2023年4月)営業秘密侵害犯罪など技術流出犯罪に対する量刑基準見直し案を量刑委員会に提出
 (2023年5月)特許庁-検察庁、技術流出犯罪の量刑基準に関するセミナーを共同主催

量刑基準の主な改正内容には、営業秘密侵害犯罪に対する勧告する量刑基準の引き上げ※、初犯でも実刑判決になるよう執行猶予の判断基準の見直しなどがある。
※(量刑基準における最大刑量)海外流出:従前9年→12年、国内流出:従前6年→7年6月

改正された量刑基準は今年7月1日から施行され、施行日以降、控訴提起された事件から新しい量刑基準が適用される。

❹8月21日から営業秘密侵害行為に対する懲罰的損害賠償の限度3倍→5倍に引き上げ

今年8月21日から営業秘密侵害行為に対する懲罰的損害賠償の限度が損害額の3倍から世界で最高レベルの5倍まで引き上げられる。

特許庁は今年2月、不正競争防止法の改正により、技術流出防止に向けた強化対策を打ち出した。

技術流出行為である営業秘密侵害に対し、注意喚起を徹底する目的で懲罰的損害賠償の限度を3倍から5倍に引き上げた。5倍の賠償は世界各国と比べてみても最も高い水準である。技術保護に強い米国の場合も最大2倍までの懲罰賠償を請求しており、5倍賠償の水準は現在、中国が唯一である。

また、営業秘密侵害犯罪は、法人による組織的な犯罪※が多いことを踏まえて、法人に対する罰金刑を行為者に科す罰金の最大3倍に引き上げる。行為者に対する罰金が、海外流出行為の場合、最大15億ウォンまたは財産上の利益の10倍以下であるため、法人に対しては45億ウォンまたは財産上の利益の30倍以下を科すことになる。(国内流出の場合、最大15億ウォンまたは財産上の利益の30倍以下)。
※(2017年~2021年)法人が加担した犯罪の現況:営業秘密侵害犯罪(34.3%)>>全体犯罪(1.6%)

技術保護4重安全装置を稼働する異議と今後の方針

今回完成された技術保護4重安全装置は、韓国技術に対し、流出リスクに関する情報収取・分析→流出行為への捜査→流出犯罪に対する処罰につながる技術流出への対応活動というサイクルを漏れなく強化した行政措置として、総合的な対応力が向上すると期待される。

この取り組みにより、昨年、スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した知的財産権保護ランキングにおいて韓国は前年比9ランク上昇し、8年で最高ランクである28位※となった。今後、特許庁は上位10位内を目指してより高度化した技術保護政策を進めていく考えだ。
※韓国の知的財産保護ランキング:(2019年)37→(2020年)38→(2021年)36→(2022年)37→(2023年)28

今後、技術流出犯罪による被害規模に応じて適切な判決が下されるよう、裁判所・検察・国家情報院・警察など関係機関と学界・法曹界・産業界の専門家からなる協議体を運営して被害規模の算定方策に関する研究を行う考えだ。

さらに、営業秘密の特性上、退職者による流出が多く発生※している現状を踏まえ、営業秘密の流出を紹介・斡旋・誘引するブローカーの行為を侵害行為に定めて処罰できるようにする法改正を進める方針だ。
※営業秘密の流出主体:1位退職者(42.9%)(2023年企業の営業秘密保護の実態調査、韓国特許庁)

特許庁長職務代理は「先端技術は国を挙げて重要な戦略資産の一つであり、技術流出は国家経済安全保障を脅かす重大な犯罪だ」とし、「技術流出を試みる行為自体を根絶するよう、今回完成させた4重の安全装置を基に、技術保護を徹底していく」と述べた。

営業秘密侵害など技術流出に関して相談のある企業や個人は、知的財産侵害ワンストップ通報相談センター(電話:1666-6464)にて技術警察に捜査を依頼できる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
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