知的財産ニュース 商標の善意による先使用者は商取引の慣行により保護される

2024年5月8日
出所: 韓国特許庁

紛争予防のためには事業のスタート段階から商標登録することが大事!


(事例)「△△」町で「△△」の文字を商号に入れた名前でお店を営んでいるA氏に、ある日見知らぬ人のB氏から送られた警告状が届いた。B氏が「△△」を入れた名前で商標を登録しているので、A氏が商号の使用をやめて示談金を払わないと損害賠償を請求するとのこと。A氏は、ほかにも警告状を受けた町の事業主と共同で対応することにしたが、B氏が商標を登録しているので、示談するしかないのか、心配するばかりだ。

広く知られていない行政区域の名称(町の名前)を商標として登録※している者が、当該の地名が入った商号※※を使用している善意による先使用者に警告状を送ることが発生している。
※誰もが知っているような地理的名称(ソウル、プサンなど)は商標として登録できない
※※会社・個人事業主が営業を行うに当たって、自己を表示するために使用する名称

韓国特許庁は、警告状が届いても商標権侵害に該当しないケースもあるので、簡単に諦めず、商号を継続して使用できる状況なのか確かめる必要があると強調した。

商標法によると、登録されている商標と同一・類似の商号を商標権者より先に善意で使用していた者は保護を受けられる。これを先使用権者保護といい、特定地域のみで小規模事業を営む個人事業主に効果のある制度である。(商標法第99条)

また、登録商標権者は商取引慣行により、使用されている同一・類似の他人による商号については権利を主張することができない。(商標法第90条第1項第1号)

これに関連して、広く知られていない(昔)地名を商号として使用する場合、商取引慣行による商号使用に該当するため、警告状が送られたとしても必ず、商標権の侵害に該当するものではないとの判例がある。

【関連判例】
判例番号:特許裁判所2022年11月25日宣告2022허2042判決
裁判所は2014年に先登録した「ハスルラ(하슬라、何瑟羅)」の商標権が、2020年から商号として使用されている「ハスルラガベ※」によって侵害されているとの主張に対し、「ハスルラガベ」が商取引慣行により商号として使用されているとの理由で商標権を侵害していないと判断した経緯がある。
※「ハスルラ(하슬라、何瑟羅)」はカンヌン(강릉、江陵)の昔の地名、「ガベ」はコーヒーの漢字表記のハングル発音

ただし、他人による商標登録以降、当該商標の知名度に便乗する意図で当該商標と同一・類似の商号を商品・サービスの出所表示として使用(不正競争の目的)する場合には、商標権侵害に該当する。(商標法第90条第3項)

しかし、先使用権は、商標権者から訴訟を提起された際に防御できる手段であって、先に商標権者を攻撃できる権利ではなく、商標権の効力の制限についても裁判所で争うことになる。つまり、紛争を予防し、安定した事業を営むためには、事業を始める段階から予め商標を登録しておくことが大事である。

特許庁の商標デザイン審査局長は「悔しい状況であったとしても訴訟を起こされたら、裁判所で判決が出るまで莫大な時間・コストがかかってしまう」とし、「警告状が送られたとしても、商標を継続して使用できる方法があるので、必ず調べてみることと、紛争が起こる前に自分の商号を安全に保護できるよう商標権の登録に進むことが大事だ」と述べた。

商標権をめぐる紛争が起こった場合には、韓国知識財産保護院の公益弁理士特許相談センター(電話:02-6006-4300)、または、産業財産権紛争調停委員会(電話:1670-9779)で相談できる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195