知的財産ニュース 技術流出防止対策を強化した不正競争防止法の改正案が国会で成立され

2024年1月26日
出所: 韓国特許庁

損害賠償5倍引き上げ、法人の罰金刑3倍引き上げ、アイデア奪取などに対する是正命令および罰金賦課、侵害品や製造設備の没収規定などを導入


営業秘密侵害の防止:B社は数十年間研究開発に取り組んだ結果、特定の技術分野に強みを持つ企業になったが、最近、ライバル会社であるC社がB社の重要人材のア氏に転職を勧めるなど組織ぐるみで営業秘密を流出したことがわかり、刑事処罰が科された。
ところが、B社が数十年間培ってきた技術が一瞬で奪われてしまうことに至ったにもC社は個人(ア氏)と同じ水準の罰金を科されるだけだった。
しかし、今回の不正競争防止法の改正により、法人に対する罰金刑が個人より3倍引き上げられるため、今後、法人などによる組織的な営業秘密の流出行為に対し、重い処罰を科すことができる。
アイデア奪取など不正競争行為に対する是正命令および罰金制度の導入:イ氏はA社が主催したコンペティションに参加し事業提案書を提出したが、選ばれなかった。ところが、数日後、イ氏が提案したものとほぼ同じ内容でA社がビジネスを展開していることがわかった。
イ氏はA社のアイデア奪取行為は不正競争防止法に違反すると特許庁に通報したが、特許庁が下す是正勧告には法的強制力がないため、A社が是正勧告に従わなかった場合、ほかに処罰する方法がないことがわかった。
しかし、今回の不正競争防止法の改正により、特許庁が不正競争行為に対し、是正命令を下すか、不履行した場合に罰金を科すことができるため、実効的な権利救済を図ることができる。

技術奪取防止に向けた強化対策が不正競争防止法に適用される。特許庁は、懲罰的損害賠償の5倍引き上げや法人による組織的な営業秘密流出行為に対する罰金の3倍引き上げ、アイデア奪取行為などの不正競争行為に対する是正命令制度を導入するなど、技術奪取防止に向けたさまざまな対策が盛り込まれた「不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律(以下、「不正競争防止法」)」の改正案が25日、国会で成立したと発表した。

世界で技術覇権争いが激化する中、韓国企業の優秀な技術に対する海外ライバル会社による営業秘密流出の事件が相次いでいる。さらに、犯罪行為の手法が多様化・高度化しつつあるため、適切な対応を迫られている。

今回、成立した技術奪取防止法(以下、「不正競争防止法」)は、こうした現状を改善するため、政府と与野党が協力して立法※を進めた。韓国産業の競争力向上におけるリスクを解消し、健全な技術革新のエコシステムを実現する上で必要なさまざまな対策が盛り込まれている。
※計10件の法律案をキム・ソンウォン議員、キム・ヨンミ議員、ヤン・グミ議員、ジョン・テホ議員、ハン・ムギョン議員、ファン・ウナ議員がそれぞれ代表して提案

<今回の改正案に盛り込まれた技術奪取防止対策の主要内容について>
改正事項 主要内容
犯罪行為に対する抑制・処罰強化  -
Ο懲罰的損害賠償の強化 代表的な技術奪取行為である営業秘密侵害及びアイデア奪取に対し損害賠償の限度を3倍から5倍に引き上げる
Ο法人に対する罰金刑の強化 不正競争行為又は営業秘密侵害罪に対する法人の罰金刑を行為者の最大3倍に引き上げ、法人による組織的な犯罪行為を抑制する
Ο営業秘密侵害品の製造設備等の没収に関する規定の新設 不正競争行為又は営業秘密侵害品のみならず、製造設備まで完全に没収することで侵害物品の流通等による二次被害を事前に防止する
Ο法人に対する公訴時効の延長 公訴時効期間の徒過により法人は処罰を受けず、行為者のみ処罰される不合理を改善するため、営業秘密侵害罪に対する法人の公訴時効を行為者と同じ水準に延長する(5年→10年)
不法行為に対する行政的救済手段の強化  -
Ο不正競争行為に関する行政調査時の是正命令、罰金賦課 特許庁が行政調査の遂行後、不正競争行為者に対し是正勧告のみならず、是正命令及び罰金賦課ができるよう見直す
Ο裁判所へ行政調査記録の送付手続きに関する規制の見直し 被害者が不正競争行為等の損害賠償訴訟において特許庁が遂行した行政調査記録を円滑に活用できるよう、営業秘密が含まれた行政調査記録も裁判所に提出できるように関連規定を見直す
Ο行政調査記録の閲覧、コピーに関する規制の新設 行政調査記録(営業秘密及びその他非公開資料を除く)を当事者が必要に応じて活用できるよう、特許庁長等に対し閲覧、コピーを要求できる規定を新設する
保護における法律の抜け穴解消  -
Ο営業秘密の毀損、滅失、変更行為に関する規定 現行の不競法では処罰ができなかったハッキング等による営業秘密の毀損、滅失、変更の行為まで処罰できるよう定める(10年以下の懲役又は5億ウォン以下の罰金)
Ο相当量蓄積されたデータの保護範囲の拡大 秘密管理性の有無にかかわらず、相当量蓄積されたデータを全て保護するようデータの保護範囲を拡大する
※(保護対象)特定人との取引のために相当量蓄積されたデータ

新しい法律では、①犯罪行為に対する抑制及び処罰強化、②不法行為に対する行政的救済手段の強化および③保護における法律の抜け穴解消を柱としている。

まず、民事上の救済を強化するために、現在の不正競争防止法で導入されている懲罰的損害賠償を3倍から5倍に引き上げる。これは技術流出に対し注意を喚起し、被害救済の実効性を確保するためである。

また、法人により組織的に行われる営業秘密侵害行為を抑制するよう、法人に対する罰金刑を現行規定の最大3倍まで引き上げる。これは、営業秘密侵害犯罪の場合、法人による組織的な犯罪の割合が多いことを反映している。

法人による営業秘密侵害行為の現況(2017年~2021年)
区分 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年
全体の犯罪                
検挙件数(件) 1,556,963 1,466,406 1,479,904 1,399,428 1,228,452
検挙された法人数(社) 23,850 23,441 26,095 22,048 19,747
法人の割合(%) 1.5 1.6 1.8 1.6 1.6
不正競争防止法に違反する犯罪                
検挙件数(件) 401 540 487 592 387
検挙された法人数(社) 136 163 204 215 113
法人の割合(%) 33.9 30.2 41.9 36.3 29.2

さらに、営業秘密侵害だけではなくその製造設備まで没収する規定を新しく定めることで侵害品の流通による二次被害を事前に防ぐことができる。

次に、不正競争行為に対する行政救済を強化するために、アイデア奪取など不正競争行為に対し特許庁が行政調査を行った後、是正命令及び罰金賦課ができるよう規定を定める。現在は、行政調査後、是正勧告および公布のみ可能であったため、行政調査だけでは不正競争行為が相次ぐ状況を抑制することが難しい※問題を解消する目的である。
※計15件の是正勧告のうち5件(約33%)が未履行(2023年12月末時点)

また、不正競争行為の被害者が特許庁の行政調査資料を損害賠償など民事訴訟での証拠としてより円滑に活用できるよう裁判所から要請があった場合、証左記録の一切を裁判所に提供できる手続が設けられ、当事者が特許庁の行政調査記録を閲覧・コピーできるようになる。

これにより、これまで民事訴訟で行政調査の結果を活用できず、証拠確保に苦労していた被害者の利便性を向上できると思われる。

最後に、不正取得・使用・漏洩など伝統的な営業秘密侵害行為の範囲を超えるハッキングなどによる営業秘密の毀損・削除に対しても不正競争防止法による処罰が可能になる。これは最近、ハッキング被害が増えている現状※を踏まえて営業秘密に対する保護を以前より強化したことである。これにより、営業秘密を不正な目的で毀損・削除した者は10年以下の懲役又は5億ウォン以下の罰金が科される。

<ここ5年間(2018年~2023年8月)ハッキングによる資料の流出・毀損の被害状況(警察庁の統計)>
区分 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年8月 合計
資料流出※(ハッキング) 114 114 130 110 103 110 681
資料毀損(ハッキング) 340 341 358 248 216 154 1,657

※ハッキングによる資料流出は営業秘密の不正取得に当たり、現行の規定でも処罰可能

特許庁の産業財産保護協力局長は「最近、相次ぐ営業秘密の海外流出、アイデア奪取など不正競争行為事件は、従前の制度では全て対応ができない限界があった」とし、「今後も特許庁は、技術奪取、営業秘密侵害などを防ぎ、技術保護の強化に取り組む」と述べた。

アイデア奪取などの不正競争行為・営業秘密侵害などにより困難を抱えている場合は、特許庁の「知的財産侵害ワンストップ申告相談センター外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます、電話:1666-6464)にて不正競争調査チームによる行政調査、技術・商標警察による捜査の手続きを申請できる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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