知的財産ニュース 韓国特許庁、技術奪取防止策を発表

2023年6月28日
出所: 韓国特許庁

韓国型証拠収集、アイデア原本証明制度を導入…被害立証を簡単に

これからは韓国特許庁の行政調査、産業財産権紛争調停、技術警察捜査をワンストップに利用することで、技術奪取被害にあった場合、迅速に救済されることができるようになる。

特許庁の行政調査段階で、技術奪取に対して即時に是正命令を下すことができ、未履行の際には過料を科すことも可能になる。また、被害立証の便宜を図るためにアイデア原本証明制度を導入される。

韓国特許庁は、6月28日にワンストップ紛争解決体系の構築、軽い処罰問題の解決、死角の解消などを主な内容とする「技術奪取防止策」を発表した。

企業間取引・交渉の過程で提供されたアイデアの奪取問題、内部の従業員または競合他社による技術流出など、技術紛争の状況で簡単に支援を受けられる総合的な解決策を提供するためである。今回の対策は、与党政策調整委員長との党政協議(6月16日)、企業家と専門家が共にする討論会(6月20日)などを経て策定されたものであり、詳細は以下のとおりである。

ワンストップ紛争解決体系の構築

技術奪取紛争の際、迅速な被害救済を行うためにワンストップ解決体系を構築する。そのために、特許庁の行政調査、紛争調停、技術警察捜査間の連携および機能を強化する。ワンストップ紛争解決体系のために「産業財産紛争解決総合支援センター」を設置し、紛争調停、行政調査、技術警察捜査を統合的に管理・支援する。中長期的には「産業財産紛争調停法(仮称)」を制定し、「産業財産紛争調停院」を設立する案まで検討する予定である。

行政調査:現行のアイデア奪取に対する行政調査は是正勧告、未履行の際に公表のみが可能であったため、強制力がないという限界があった。実際、6件のアイデア奪取事例(2018年~2023年5月)に対して是正勧告が行われたが、履行に至ったのは2件のみであった。これからは、是正命令制度と不履行の際に過料を課する制度を新たに導入する。また、技術分野別の専門調査官体系やアイデア奪取事件を優先的に処理する迅速調査体系も講じる予定である。アイデア奪取に対する行政調査期間も現行の11か月から6か月に大幅に短縮する。被害企業が証拠不十分などにより敗訴することを最小限に抑えるため、裁判所の訴訟証拠として行政調査および紛争調停の資料が積極的に活用されるよう、記録送付要請制度も改善する。

紛争調停:特許、営業秘密、アイデアなどに対する紛争調停の事実調査機能を強化する。特許庁の技術専門家が現場調査などの技術調査まで行うことができるようにする。また、効率的な紛争調停を行うために、専門性と経験が豊富な常任紛争調停委員を置くよう、法的根拠を設ける。この5年間産業財産の紛争調停に失敗した件のうち、調停不応が54%(※)と最も多かった。今後は、意図的な調停不応の場合、特許庁の行政調査や捜査と連携できるようにし、紛争調停の資料も行政調査または技術警察に移管できる法的根拠を定める。2か月(2022年基準)の紛争調停期間は維持しつつ、成立率を75%(2022年64%)まで引き上げる計画である。
※最近5年間(2018~2022)の調停不成立件(177件)のうち、「調停不応」は54.2%(96件)

技術警察:特許と営業秘密侵害にのみ限定されている技術警察の捜査範囲を産業技術の海外流出などに拡大する案を関連政府機関と協議し、推進する。

軽い処罰問題の解決

営業秘密流出犯罪に対して厳重な処罰を与えるため、最高検察庁・司法部と共に裁判所の量刑基準(※)を改正する。昨年(2022年)言い渡された営業秘密海外流出犯罪の刑量は平均14.9か月と、法定刑最長の15年より短く、75.3%が執行猶予判決を受けるなど、軽い処罰という批判が多かった。
※量刑基準:裁判官が量刑および執行猶予の可否を判断する上で参考にする基準

特許庁と最高検察庁は、2023年4月に営業秘密流出犯罪に対する量刑基準の引き上げを主な内容とする基準整備提案書を量刑委員会に提出した。2023年6月には量刑委員会で「知的財産権犯罪」が整備対象に選定され、来年(2024年)4月まで量刑基準を見直す予定である。

被害企業が適切な損害賠償を受けるには、侵害の立証と損害額の算定に必要な証拠収集が肝要であるだけに、より容易に証拠を集めることができるよう、裁判官が指定した専門家が侵害現場で直接資料を調査するなどの「韓国型証拠収集制度」の導入も推進する。

法人による組織的な営業秘密流出行為に対する罰金刑を自然人の3倍まで強化し、二次被害を防ぐために製造設備を没収する制度も改善する。

死角の解消

事業提案や取引交渉の過程で発生するアイデア奪取問題を解消するため、アイデアの具体的な内容と取引交渉の際に交換した資料を電子文書化し、被害発生時に最も確実な証拠として活用できるよう、アイデア原本証明制度を導入する。

アイデア取引の交渉など本契約を締結する前も、秘密保持契約(NDA(※))の締結を義務付ける案も検討する。現行は受託・委託など本契約を締結した後のみに秘密保持契約(NDA)締結の義務条項があり、交渉の過程で事前に秘密保持契約(NDA)の締結を要請することが困難であるという現実を反映したものである。
※Non-Disclosure Agreement(秘密保持契約)

韓国のみならず海外でもコア技術が保護されるには、アイデア奪取などの補助的な保護措置に先立ち、特許で自分の権利を確実に確保し、営業秘密として強固に保護することが何よりも重要であるだけに、知的財産に対する意識を高める取り組みも継続する。

特許庁長は、「被害企業が技術奪取紛争に対する特許庁の行政調査、紛争調停、技術警察の捜査をより簡単かつ便利に利用できるよう、実効性のあるワンストップ解決体系を構築していきたい」とし、「特許庁は、これからも約1,400名の特許審査・審判官(※)などの技術専門性を基に、技術審判の役割を引き続き強化し、技術奪取紛争が迅速かつ公正に解決されるよう最善を尽くしていきたい」と述べた。
※特許審査・審判官約1,400名(博士450名、弁理士・弁護士365名、技術士29名等)

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