知的財産ニュース 人工知能発明者を否定した韓国特許庁の無効処分に行政訴訟を提起
2023年1月5日
出所: 韓国特許庁
「人工知能も発明者になれるのか?」…裁判所がカギを握っている
韓国特許庁は、人工知能を発明者として記載した特許出願を無効処分(※)した決定について、出願人(スティーブン・テイラー、人工知能専門家)が人工知能も発明者になれると主張し、行政訴訟を起こした(2022年12月20日)ことを明らかにした。人工知能を発明者として認めない処分に不服する訴訟は、米国・欧州・ドイツ・英国・豪州などの知的財産分野の主要国に次いでアジアでは韓国で初めて提起され、今後が注目されている。
※出願が無効処分された場合、当該出願は最初からなかったものとみなす(2022年9月28日無効処分)
人工知能発明の国際特許出願(2021年5月17日韓国出願)
米国の人工知能開発者スティーブン・テイラーが「DABUS(※)」という名前の人工知能を発明者として表示した国際特許出願(※※)である。韓国をはじめ、16か国に出願した。出願人はこの発明に関する知識がなく、自ら開発した「DABUS」が一般的な知識を学習した後、食品容器などの2つの異なる発明を自ら創作したと主張している。
※DABUS:Device for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience
※※一つの出願で複数の国に同時に出願した効果が発生、その後各国で審査
韓国をはじめとする米国・欧州・英国などの主要国の特許庁と裁判所は、特許法または判例によって発明者として自然人だけを認め、人工知能は認めていない。ただし、2022年3月、ドイツの連邦特許裁判所では、自然人だけを発明者として認めるものの、発明者を記載する際に人工知能に関する情報を一緒に記載(※)することまでは許容されるとの判決もあった。
※発明者:人工知能DABUSを活用して発明したスティーブン・テイラー
国 | AI発明者の認否 | 進行状況 | 国 | AI発明者の認否 | 進行状況 |
---|---|---|---|---|---|
韓国 | (特許庁)不認定 | 行政訴訟の提起 | 英国 | (控訴裁判所)不認定 | 最高裁判所に係属中 |
米国 | (控訴裁判所)不認定 | 最高裁判所に係属中 | ドイツ | (控訴裁判所)不認定 | 最高裁判所に係属中 |
欧州 | (最終裁判所)不認定 | 不認定の確定 | 豪州 | (最高裁判所)不認定 | 不認定の確定 |
一方、韓国特許庁は2022年9月、世界知的所有権機関(WIPO)で人工知能発明者問題に関する主題討論を引き出し、12月にはドイツ・英国・フランスの特許庁と今後人工知能関連知的財産制度の定着に緊密に協力することで合意した。主要国は、まだ人間の介入なしに人工知能単独で発明をする技術水準には至っておらず、法制度の改善時に国家間での不一致は人工知能産業の発展に障害要因となり得るため、国際的に調和が必須であるということで意見が一致した。英国・ドイツでは、DABUSの特許出願に対して最高裁判所で審理が行われる予定であり、韓国特許庁は今後国別に最高裁判所の判決が下されれば、当該国の特許庁と共に判決に対する対応策を協議することにした。
人工知能発明者問題について韓国が主導してきた結果、2022年12月には、韓国特許庁から世界知的所有権機関(WIPO)に人工知能関連知的財産問題を専担する専門家を新しく派遣することもあった。
特許庁長は、「現在、人工知能技術が急速に発展していることを考慮すれば、人工知能発明者などの関連知的財産問題に対して先行的な備えが必要な状況だ」とし、「今後韓国の行政訴訟や主要国の最高裁判所の判決結果などをまとめ、国際的に調和するように人工知能関連知的財産制度を確立していきたい」と述べた。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、李(イ)、半田(いずれも日本語可)
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195