知的財産ニュース 人工知能は、エジソンになれるのか。特許審査の初事例
2021年6月3日
出所: 韓国特許庁
人工知能を発明者に記載した韓国初の特許出願の審査を開始
特許庁、「人工知能は、発明者になれない」と補正(修正)要求書を通知
人工知能(以下AI)も、人間のように特許法上の発明者になれるだろうか。
韓国特許庁は、AIが発明したと主張している特許出願に対する一次審査の結果、「自然人ではないAIを発明者に記載することは特許法に違反するため、発明者を自然人に修正しなければならない」という、補正要求書を通知(5月27日)した。
補正要求に応じなければ、特許出願は無効となる。出願人はその無効処分に不服し、行政審判や行政訴訟を起こすことができる。
「米国のAI開発者、AI発明の国際特許出願(2021年5月17日、韓国内出願完了)」
特許庁によると、米国のAI開発者(スティーブン・テイラー、出願人)がAIを発明者として表示した国際特許出願(※)を韓国に出願(進入)し、韓国の歴史上初めてAIが発明者になれるのかに対する最初の特許審査事例が発生した。出願人が最初のAI発明者だと主張するAIプログラムの名前は「DABUS(※※)」である。
※PCT出願:一つの出願で複数の国に同時に出願した効果が発生、その後に各国に進入して審査を受ける。
※※DABUS:Device for the Autonomous Bootstrapping of Unified Sentience
該当の出願人は、本人はこの発明に関する知識がなく、自分が開発した「DABUS」が一般的な知識を学習した後、食品容器など2種類の発明を自ら創作したと主張している。
組み合わせやすく、表面積が広くて熱伝達の効率の良い食品容器と神経動作のパターンを模倣して、点滅するランプというのが、それぞれの発明における主要内容である。
「特許庁による1次審査の結果:補正(修正)要求通知(2021年5月27日)」
最近、特許庁はその特許出願に対する一次審査を行い、「自然人ではないAIを発明者に記載することは特許法に違反するため、発明者を自然人に修正しなければならない」という、補正要求書を通知した。 AIがその発明を直接発明したのかを判断する前に、AIを発明者として記載した形式上の欠陥を先に指摘したのである。
韓国特許法および関連判例は自然人のみを発明者に認めており、自然人ではない会社や法人、装置などは、発明者に表示することができないためである。つまり、プログラムの一種であるAIは、自然人ではないため、発明者になることはできない。このような原則は、米、英、独をはじめとする全ての国が採択している最も基本的、共通的な概念でもある。
今後、出願人が発明者の補正をせず特許出願が無効処分になれば、行政審判や行政訴訟を提訴することができる。
「米国、英国、欧州特許庁も拒絶」
韓国より先に欧州特許庁(EPO)や米国、英国特許庁でも、すでに特許審査を受けている。各国の特許庁はいずれも発明者は自然人のみ可能であるため、AIは発明者になれないという理由で特許を受けることができないと決定した。
「技術発展に合わせて制度の見直しが必要、AI発明に関する議論が活発」
まだ、AIは単純なツールだという認識が国内外の大部分を占めている意見であるが、これから技術の発展によりAIが人のように発明を創作した場合、発明は存在するが人もAIも発明者や権利者になれない奇妙な状況になる可能性があり、それに関連する議論が盛り上がっている。
AI発明をめぐるいくつかの争点があり、その中で代表的なものとして、1.AIを発明者として認められるか、2.AI発明の権利者は誰にするか、3.AI発明の権利存続期間はどうすべきかなどである。
- AIを共同発明者や単独発明者と認めることができるか。
- AI開発者、所有者、使用者のうち、誰を権利者にするか。
- AIは、人よりも発明が容易にできるため、AI発明の権利存続期間を人の発明よりも短くすべきか。
それについて特許庁は、法制諮問委員会を立ち上げて産・学・研の意見を収集し、さらには世界知的所有権機関(WIPO)と五庁(IP5)との会合を通じた国際的な議論にも積極的に参加する予定である。
特許庁の特許審査企画局長は、「AIが進化すれば、いずれはAIを発明者として認めざるを得ない 時代がくるかもしれない。それに備えて、韓国特許庁はAI発明をめぐる争点について学界および産業界と議論を重ねてきている」とし、「特許庁は、今回の事例を契機にAI発明に対する議論のスピードを上げて、これからの第四次産業革命時代にしっかりと対応することができる知的財産制度を確立するように取り組んでいきたい」と述べた。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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