知的財産ニュース 韓国政府の2021年度業務報告、「回復・包容・跳躍の大韓民国2021」
2021年3月11日
出所: 韓国特許庁
ポストコロナ時代における経済回復、知的財産で早める
2021年の重要な推進課題
- AI創作物・データ保護など、デジタル新技術の先制確保に向けた知的財産制度の整備
- 特許ビッグデータプラットフォームの構築、世界の動向を把握して技術開発・事業戦略の策定を支援
- IP投資ファンドの組成(500億ウォン)、紛争対応のワンストップ支援(知的財産権の紛争対応センター)などイノベーション企業の成長も支援
直近4年間における政策成果の事例
信用格付けが低くても技術力(特許)だけで資金調達が可能
TVセットトップボックスメーカーのA社は、海外バイヤーからの納品依頼にもかかわらず、原材料の仕入れ資金が不足していたため困難な状況であった。企業の信用格付けが低く融資を受けることができず、不動産などの担保余力もなかったからである。しかし、IP担保融資を開始したB銀行から特許を担保に低金利の事業運営資金の融資を受け、遅れず海外に納品することができた。IP金融の規模は、ここ4年間で約3.5倍に成長し(2016年5,774億→2020年2万486億ウォン)、技術力さえあれば資金を調達することができる確実な資金調達の通路として位置づけられた結果である。(IP担保融資を受けた企業の88%が信用格付けBB以下の非優良企業)
2021年に期待される変化の事例
誰でも簡単に知的財産のデータを分析・活用できる時代
研究所企業のC社は、従来、数週間以上を要していたグローバル技術・市場の分析期間を大幅に短縮し、正確度の高いR&Dおよび事業戦略を策定できるものと期待している。各種の産業・経済・特許データが体系的にDB化され、さまざまな基準で簡単に分析することができる「特許ビッグデータプラットフォーム」がまもなく提供される予定であるからだ。C社は、「専門家の経験にのみ依存する従来の方式に比べて、知的財産のデータを活用する新たな方式を活用すれば、より迅速かつ効率的な意思決定が可能になる」と期待感を示した。
韓国特許庁は3月11日(木曜)に、デジタル経済に合わせて知的財産システムを整備し、イノベーション企業の成長によるグローバル技術大国を実現するための「2021年度の業務計画」を発表した。
今回の業務計画は、ここ4年間の知的財産分野における政策の成果を点検し、デジタルトランスフォーメーションに対応する制度・企業・産業の観点から立てた計画が盛り込まれている。
I. 直近4年間の推進成果および評価
知的財産を通じて日本の対韓輸出規制、新型コロナウイルスなどによる危機の克服を支援し、知的財産をイノベーション成長に導く「知的財産イノベーション体系」の基盤を作る。
1. 知的財産を通じた国家危機の克服を支援
- 日本の対韓輸出規制に対応し、素材・部品・設備の主要品目のR&D(506件)に特許観点からのR&D戦略(IP-R&D)を支援、ワンストップの紛争支援など、技術の国産化を支援した。
- 新型コロナウイルスのワクチン・治療薬を開発するために、候補物質の特許DB(671件)を提供するなど、新型コロナウイルスの危機克服に積極的に対応した。
2. 審査の正確性・信頼性のための審査システムの拡大および国際協力の強化
- 第四次産業革命に関する技術の専門担当審査組織を新設(2019)、審査品質の管理方向の転換(※)、AIを活用した審査システムの構築などにより、審査・審判の品質を向上させる。
※不備・間違いの防止→疎通・協議による品質改善
- 米韓、日韓による特許共同審査の実施、ASEAN諸国を対象に特許認定協約(※)を拡大するなど、国際審査協力を一層強化した。
※韓国特許庁に登録された特許は、海外で無審査登録ができる。(カンボジア、ラオス、ブルネイ)
3. 知的財産データ活用の基盤作りと知的財産活用の本格化
- 中核産業の特許ビッグデータを分析(2019~2020年、10分野)してR&Dに連携(※)し、素材・部品・設備のR&Dに特許観点からのR&D戦略(IP-R&D)を確立することを制度化することで、国家R&Dに知的財産のデータを活用する基盤を整えた。
※2019年、次世代電池などの5つの産業、75の有望技術を選定→2020年の政府部処R&D課題に反映(100件)
- IP担保融資を取り扱う銀行の拡大(※)、担保IPの回収支援機構の発足(2020年2月)など、多方面からの取り組みによりIP金融も2兆ウォン台に急成長した。
※(2018)産業・企業→(2020)5大市中銀行(国民・新韓・ハナ・ウリ・農協)および地方銀行(釜山)
4.知的財産の正当な価値を認めてもらえる保護体系の構築
- 営業秘密侵害に対する刑事罰の上方調整(2018)、知財権の故意侵害時における3倍賠償の導入、特許侵害損害賠償の現実化(※)(2020年)など民・刑事責任を高めた。
※(従前)特許権者の生産能力限度による賠償→(改善)侵害者の販売量全体を基準に賠償 - 不正競争行為調査・是正勧告の実施(2017)、特許・営業秘密・デザインに関する特許司法警察の発足(2019年)など、侵害行為に対する執行を強化した。
- 模倣品のオンラインモニタリングを拡大(※)し、韓流便乗企業、商標ブローカーなどによるK-ブランドの侵害対応(※※)を強化して韓国企業の被害を最小化にした。
※オンラインモニタリング取締り(販売掲示物の遮断、サイト閉鎖など):(2016年)6,000件→(2020年)14万6,000件
※※韓流便乗企業の国内法人の解散、ブローカーの商標先取りに対する無効審判の支援など
Ⅱ.2021年の重要な政策方向
デジタル経済への移行とグローバル技術覇権の競争に対応し、経済回復を支援するための4つの戦略、10の重点課題を確立した。
「戦略および対策」
Ⅲ.2021年の主要業務計画
1.デジタル観点から知的財産制度を先制的に整備
(新技術の保護)AI創作物、データなどのデジタル新技術を保護し、新たな侵害類型に対応するために関連法令を整備する。
- (AI)専門家・関係部処との協議を通じてAI創作行為に関するイシュー(発明者・創作者の認定、所有権など)に対する制度化の方策を模索する。
- (データなど)データの不正取得・使用を不正競争行為の類型として具体化し、パブリシティー権の法的保護策を設ける。
- (新たな侵害類型)デジタル商品(E-BOOK,APPなど)のオンライン伝送、仮想現実における商標価値の毀損など、新しい侵害への対応策も検討する。
(審査・審判)デジタル、融複合技術の拡大による産業環境の変化を適時に審査・審判に反映できるように制度を改善する。
- (特許)AI、自律走行などデジタル融複合産業(5つ)の審査ガイドを設け、デジタル融複合技術基盤のサ*ビス製品群として一括審査(※)対象に拡大する。
※一つの製品に関する特許・商標・デザインなどの知財権を一度に確保できる制度 - (商標)色彩、ホログラムなど非典型商品の類型別審査ガイドを設ける。
- (デザイン)オンラインで模倣し易い製品※を一部審査対象に含める。
※(2020年)衣類、事務用品など3分類→(2021年)食品、包装容器など7分類に拡大 - (審判)デジタル・融複合技術分野の審判に専門審理委員制度を導入する。
- (システム)AI特許・デザインの検索、機械翻訳などの審査システムを高度化する。
(通商)これとともに、デジタル時代の通商環境の変化に対応し、主要通商交渉(USMCA、CPTPPなど)内容を基に知的財産通商戦略を策定し、個別のカスタマイズ型の協力により知的財産の国際規範を主導する。
2.R&Dおよび産業活動全般における知的財産データ活用の拡大
(国家R&D)R&D全段階において知的財産データの活用を拡大し、大型R&D事業団にIP活動を総括する特許専担官の派遣を推進する。
- (R&D)デジタル、炭素中立など国家中核政策・産業を中心に(R&D企画)特許ビッグデータ分析(※)、(R&D遂行)IP-R&D支援(526件)を強化する。
※(2021年)7分野→(~2024年)計35分野、分析結果は国家R&D事業の課題に反映 - (標準)次世代標準特許の先制獲得のために6Gなどの標準特許戦略マップの構築、5G分野の標準特許の必須性(※)検証など標準化支援も並行する。
※企業が標準特許だと宣言した特許(宣言標準特許)の標準規格の適合検証 - (民間の産業活動)知的財産のデータと民間保有のデータを連携(※)、商標・デザインデータの分析を通じた事業戦略の提供により産業活動全般における知的財産データの活用を促進して産業競争力を強化する。
※(例)特許情報(実験データ)を素材DBと連携、AI基盤の新素材研究用産業データを生成
(インフラ)このために、産業-経済-特許データを連携・分析できる「特許ビッグデータイノベーションプラットフォーム」を構築して開放する。
3.知的財産を通じたイノベーション企業の成長支援拡大
(スケールアップ)資金、技術などの企業成長に必要な諸般要素を知的財産に連携できるようにIP金融、IP取引などの支援を強化する。
- (IP金融) IP担保融資を扱う銀行を地方銀行圏に拡大(※)し、地方企業のアクセシビリティーを高め、IP投資ファンドの新規組成(500憶ウォン)、民間IP投資商品の販売などを通じて市場のIP直接投資活性化を誘導する。[※IP担保融資を扱う銀行:(2020年)国策(2)・市中(5)・地方(1)銀行→(2021年)地方銀行(4)を追加
- (IP取引)民間取引機関をコンサルティング基盤の専門機関に育成(12機関)し、大学・公共研および国有特許の活用を妨げる規制も大幅に緩和(※)する。
※大学・公共研による放棄特許の発明者への譲渡許容、国有特許使用契約の制限を緩和(最大5年、1回だけ更新可能→反復更新許容)など - (税制)さらに、特許出願・登録、技術取得費用などに対する税制優遇の拡大を推進し、知的財産を通じて発生した収益に対し、法人税を減免する特許ボックス(Patent Box)制度の導入も検討する。
(海外進出)海外知財権獲得費用の支援を拡大し、知財権紛争ワンストップ支援体系の構築、海外商標ブローカー・模倣品の監視強化などを通じて有望中小企業の海外市場への進出を支援する。
- (権利獲得)IP出願ファンドを新規に組成(60億ウォン)するなど、グローバル競争に必須的な海外知財権獲得を支援する(3,500件、2017~2020年は年間約2,600件)。
- (紛争支援)「知財権紛争対応センター」を通じて海外紛争動向を随時モニタリングし、紛争発生時にワンストップ支援するとともに、ロシア・メキシコIP-DESKを新設(計11ヵ国17ヵ所)して海外支援拠点も増やす。
- (K-ブランド)海外商標の無断先取りおよび模倣品のモニタリングを拡大(※)し、警察庁・インターポール・新南北方取締り機関との合同取締りなどの共助を強化する。
※モニタリング対象国:(商標の無断先取り)(2020年)中国、ベトナム、タイ→(2021年)インドネシアを追加(模倣品)(2020年)中国、アセアン6ヵ国、台湾→(2021年)インドを追加
(専門人材)これとともに、圏域別IP重点大学(※)を指定し、IPビッグデータ、IP金融などの新IP需要に特化された現場専門人材を集中的に育成する。
※教育部の地域プラットフォーム事業と連携して拡大(2021年)3大学→(2025)年10大学
4.公正競争とイノベーションを促進する知的財産保護・執行の強化
(法・制度)営業秘密・アイデア奪取行為に対する法的責任を強化し、韓国型証拠収集制度の導入を業界とともに推進する。
- (営業秘密侵害) 計画的な人材の流出などに対する法人加重処罰、侵害利益の没収など営業秘密侵害による罰則を強化
- (アイデア奪取)アイデア奪取など不正競争行為に対する是正命令・是正命令違反罪の導入を推進(現在は是正勧告のみ可能)
- (韓国型の証拠収集制度)業種別の協・団体、法曹界などと幅広い疎通・協議を行い、企業の意見を基に制度の導入案を模索
- (調査・捜査)技術奪取・侵害に対応する専担体系の構築、デジタルフォレンジックの人材・設備の拡充などを通じて捜査力を強化する。
重要事件(※)は、先制的に捜査・調査して早期解決を図る。
※半導体・ディスプレーなどの国家中核技術、国民の健康・安全関連およびアイデア奪取事件など
(模倣品)増加するオンラインによる模倣品の流通(※)を遮断するため、オンライン模倣品の在宅モニタリング団を通じた取締りを強化する。
※国内におけるオンライン模倣品の申告件数:(2019年)6,661件→(2020年)1万6,693件(150%の増加)
- 模倣品の流通に対するオンライン事業者の責任を強化し、一部のオンライン事業者が導入した消費者先補償制(※)を業界全般に拡散する。
※オンライン事業者が模倣品を購買した消費者に被害補償を先に行い、その後に販売者に求償権を請求する方式(現在11番街、Gmarketなどに制限的に導入)
特許庁次長は、「急速なデジタル転換とグローバル技術競争に対応して、知的財産政策の能動的変化が必要な時点である」とし、「今年度の一年間はデジタル・ニューディールなど、国家政策に歩調を合わせて知的財産システムをデジタル転換に合わせてイノベーションする」一方、「知的財産の戦略的活用と実効的保護を強化し、ポストコロナ時代の本格的な経済回復に寄与する」と述べた。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
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