知的財産ニュース 未来市場の先取りのための知的財産エコシステムのイノベーションに乗り出す

2019年3月27日
出所: 韓国特許庁

第1回「知的財産戦略協議会」、4大IPイノベーション戦略の発表

  • 特許ビッグデータ基盤の未来予測・先導戦略の提示(38産業分野)、IP基盤スタートアップ・ベンチャー投資(1兆1,000億ウォン)などによる産業・技術競争力の強化
  • IP審査品質の引上げおよび保護強化(39位→20位)による知的財産の価値向上
  • 知的財産の取引・金融(4,500億ウォン→2兆9,000億ウォン)の拡大による知的財産市場の活性化
  • 韓国型IPシステムの輸出(3万7,000ドル)、海外特許の拡大などによるグローバル市場の開拓

産業・技術イノベーション能力を引上げ、国家未来競争力の強化に向けて知的財産エコシステムのイノベーション戦略が推進される。

3月27日(水曜)、朝鮮ホテルで開催された第1回知的財産戦略協議会では、「国家イノベーション成長に向けた知的財産エコシステムのイノベーション戦略」を発表・議論を行った。

知的財産戦略協議会は、知的財産を通じて産業競争力を強化していくための国家・企業の戦略を議論するために工学翰林院と韓国特許庁が共同で構成・運営する協議体であり、主要企業CEOおよび大学総長・学長、研究機関長、知的財産専門家など、40名が委員として参加する。

この日の協議会では、工学翰林院会長、LG化学理事会議長、JUSUNGエンジニアリング代表理事(以 上が共同委員長)、漢陽大学総長、特許庁長、大韓弁理士会長、KIST院長、STEPI院長など、協議会の委員と知的財産専門家など、100名余りが参加し、知的財産エコシステムのイノベーション戦略について深度ある議論を行った。

知的財産は、革新的技術とアイデアの産業的活用を拡散させ、競争優位を強化することによって持続可能な経済成長を実現する。

※内生的な成長理論(ポールローマ、2018年ノーベル経済学賞):労働力・資本の投入以外に内部的な因である技術・知識が蓄積され、活用されるほど、限界生産性が改善して持続成長が可能

G7国家の特許増加率が1ポイント上向け時に1人当たりのGDP成長率が0.65%増加するという実証の 研究結果(MPRA Paper、2011年)があり、実際に韓国の特許出願件数とGDPもはっきりした量の相関関係を見せている。

特許を保有したスタートアップの売上げと雇用が卓越であることが調査されるなど、第四次産業革命を主導するスタートアップの成長のためにも知的財産の確保が必修的である。

※スタートアップの初の特許出願が登録された場合は、拒絶された場合に比べ5年後の雇用増加率が4.1倍(登録71.9%、拒絶17.4%)および売上げ増加率29倍(登録120.4%、拒絶40.9%)高い。(全米経済研究所、2017年) ※スタートアップの成長可能性は、特許保有時が未保有時に比べ35倍も増加(MIT Innovation Initiative、2016年)

韓国経済が低成長の局面を克服し、持続成長していくためには、唯一の資源である知識・技術、アイデアなど知的財産を基盤にイノベーション能力を引き上げることが必ず必要であるが、国内の状況はそれほど良くない。

※金融危機前後の経済成長率(%):(2001年-2007年)4.9%→(2012年-2018年平均)2.9%

知的財産が産業・技術の戦略と流離され、効果的に活用されておらず、世界4位の特許出願強国であるにも関わらず知的財産の審査品質と保護水準が低く、知的財産の価値がまともに認められていない。

知的財産の価値低下は、知的財産を売買する取引市場の萎縮と知的財産担保貸出の忌避などの知的財産の金融低調に繋がる。

終局的には知的財産の産業的活用が隔てられグローバル市場において韓国企業の製品・サービスの競争力が弱化する悪循環的の流れが発生している状況である。

この日の協議会で発表・議論された「国家イノベーション成長に向けた知的財産エコシステムのイノベーション戦略」は、このような問題を改善して知的財産エコシステムの力動性を回復し、未来競争力を強化することに焦点を合わせている。

イノベーション戦略は、(1)知的財産基盤の産業・技術競争力の強化、(2)知的財産行政高度化による知的財産価値の引上げ、(3)知的財産市場の活性化による知的財産活用の拡散、(4)知的財産の通商戦略を通じたグローバル市場の開拓など、知的財産基盤のイノベーション成長のための4大戦略で構成されている。

「戦略1」第一に知的財産を基盤に産業・技術競争力を強化する。
目標 As-is To-be(~2023年)
特許ビッグデータ基盤産業戦略樹立 1分野
(ディスプレイ)
38分野
(2019~2023、累積)
IP基盤のスタートアップ投資 5,000億ウォン
(2014~2018、累積)
1兆1,000億ウォン
(2019~2023、累積)

まず、全世界の4億件余りの特許ビッグデータを分析し、産業分野別に未来予測と先導戦略を提示する「特許ビッグデータ基盤の未来産業競争力確保戦略」を樹立・拡散する。

特許ビッグデータは技術だけではなく、産業・市場トレンドと産・学・研などの経済主体活動などに関する情報がすべて含まれ、未来産業を予測し、国家・企業の投資方向を定めることにおいて最も有効であり、検証されたツール(tool)である。

米国、日本などの主要国は、新産業分野の特許ビッグデータを分析し、産業競争力の診断と市場の見通しを提示しているが、韓国は専門家の主観的な判断に基づく定性的方式で産業戦略を策定するなど、特許ビッグデータの活用が不十分な状況である。

産業別市場・産業調査と特許ビッグデータを活用した定量診断を通じて有望技術を導出し、政府・民間R&D戦略とともに人材育成、規制緩和などの産業育成戦略も策定する計画である。

最近、模範事業としてディスプレイ産業に特許ビッグデータ分析を施行した結果、企業およびR&D関連部処で、その効用性を認めたことがあり、2023年まで38産業分野に拡大して適用する計画である。

有望なスタートアップアップ・ベンチャー企業が知的財産を基盤に成長していけるよう、集中支援する。

マザーファンド(特許勘定)と民間資金を活用し、2023年まで計1兆1,000億ウォン規模の知的財産基盤の中小・ベンチャー企業の投資ファンドを造成・投資する。

AI、ビッグデータなどの有望分野の革新的なビジネスモデルと技術力を備えたスタートアップを毎年10社選定し、パッケージ(※)として集中支援する「スタートアップ業界IPビックバンプロジェクト」も推進する。

※IPポートフォリオの構築、IP価値評価、IP紛争対応、特許技術移転、マザーファンドの投資など

スタートアップを対象に特許優先審査申込料を70%(20万ウォン→6万ウォン)減免し、中小企業の特許費用の負担を緩和するための税制改善も推進する。

*特許出願・登録費用税額控除、技術移転所得の税額減免などの関連部処との協議を推進

「戦略2」第二に知的財産の行政高度化を通じて知的財産の価値を引上げる。
目標 As-is To-be(~2023年)
特許審査1件投入時間 11.9時間 20時間
IMD保護水準 39位 20位

特許審査の投入時間の適正化、審査方式のイノベーションなどを通じて高品質の知的財産審査システムを構築する。

韓国の特許審査の処理期間は、約10カ月で世界的な水準であるが、特許審査1件当たりの投入時間は、11.9時間として、米国25.3時間、欧州35.1時間、中国26.3時間などの主要国に比べ、極めて少なく、審査の品質が不十分である。これを改善すべく、段階的に審査官の増員を推進し、1件当たりの投入時間を2023年まで20時間に拡大していくこととした。

※特許の審査品質に対する認識度調査(2018、英国IAMマガジン):欧州>日本>米国>韓国>中国

同時に特許審査の処理期間も、ともかく早く処理するよりは、需要者のニーズに合致するよう、決定していく計画である。限られた特許審査の人材で早い審査処理とともに品質まで高めることが難しい現実を鑑み、出願人を対象とした設問調査、インタビューなどを通じて、社会的要求に合致する審査処理期間および品質目標を設定していく方針である。

対面審査の活性化、産業界‐審査官の打ち合わせの定例化などを通じて出願人‐審査官間の疎通を強化し、討論型共同審査方式(※)の導入、人工知能基盤審査システム(※※)の構築など、働く方式のイノベーションも推進する。

※審査官6~8人で構成された審査チームが個別件(商標・デザイン)に対する討論形式の共同審査
※※AIを活用した機械翻訳、文章またはイメージを利用した先行文献の検索システムなど

知的財産保護のための制度および執行力を強化し、第四次産業革命に先制対応するための知的財産制度の整備も推進する。

知的財産の侵害者の利益の全額を損害としてみなし、侵害者の利益額の算定時、費用に対する立証の責任を侵害者にへと切り替える特許法の改正を推進する。故意・悪意的な知的財産の侵害時の3倍懲罰賠償制度を特許法から商標法・デザイン保護法にも拡大する。

アイデア奪取に対する政府の是正勧告の執行力を強化するために不履行時の是正命令・不履行罪の導入を推進し、特許庁所属の特別司法警察の捜査範囲を商標から特許・デザイン・営業秘密まで拡大し、産業財産特別司法警察を発足・運営(2019年3月~)する。

ビッグデータ保護強化、増強・仮想現実におけるデザイン保護、3Dプリンティングデータの無断転送防止など、第四次産業革命の対応のための先制的知的財産制度の改善も検討・推進する。

「戦略3」第三に知的財産市場の活性化により、知的財産活用を拡散する。
目標 As-is To-be(~2023年)
知的財産金融規模 4,500億ウォン 2兆9,000億ウォン
知的財産サービス市場規模 1兆7,000億ウォン 3兆ウォン

停滞された知的財産の取引市場を活性化して知的財産の産業的活用を促進していくこととした。

韓国企業の知的財産の購買比率が低いと調査(※)されるなど、企業イノベーション活動が不十分な状況を改善すべく、官民共同の知的財産取引フラットフォームの構築・運営を推進する。

※企業の特許などの外部知識の購買割合:(韓国)4.9%(2013~2015年)、(日本)29%(2012~2014年)

知的財産取引イノベーション本部を韓国発明振興会に設立し、イノベーション本部が能力のある民間取引機関を選定し、公共ブランド使用を許可し、取引需要の発掘・提供などの取引全過程を支援する体系を構築する。

海外技術移転ロードショー、韓国・アセアンIPフェア開催などを通じて韓国の優秀知的財産の海外ライセンスも拡大する。

イノベーション企業が特許などの知的財産を基盤に事業資金を調達し、ビジネスで成功を収めるよう、知的財産の金融市場を4,500億ウォンから2兆9,000億ウォン規模まで拡大する。

少数の銀行だけが取り扱う知的財産担保貸付を全銀行圏に拡散(※)し、債務不履行時に担保知的財産を買入れ、収益化する回収専門機構の申請・運営(政府・銀行共同)を推進する。無形資産の担保活用度を高めるべく、金融委員会と協力し、債権、知的財産権、その他の動産などの企業資産を束ねて担保として提供する一括担保制の導入も推進する。

※(2018)産業・企業・国民→(2019)ウリ・新韓・ハナなどを追加→(~2023)全市中銀行

知的財産金融の基盤となる知的財産価値評価のための費用支援を年間1,000件から3,000件まで拡大し、価値評価の支援対象を「国内登録特許」から「出願中特許」、「海外特許」に拡大する計画である。

民間知的財産サービス市場の拡大(1兆7,000億ウォン→3兆ウォン)および競争力強化のための対策も推進する。

知的財産のサービス業は、研究開発の成果を知的財産として創出・保護・活用するために知的財産の調査・分析(IP情報分析企業)、知的財産法律代理(弁理士)、知的財産評価・取引(技術取引士)などのサービスを提供する業種や市場の規模も小さく、売上げの規模も零細な実情である。

※韓国市場(1兆7,000億ウォン)は、米国(16兆7,000億ウォン)の10分の1、日本(4兆1,000億ウォン)の3分の1水準
※年売上げ10億ウォン未満の企業が約70%

これを改善すべく、知的財産のサービス企業の新規サービス開発および投資を支援するインキュべーティング事業を推進し、海外市場進出も支援して新市場開拓を支援する計画である。

国家機関を対象として適正代理費用の勧告(※)を通じて知的財産サービスの価格も正常化していく。

※特許出願1件当たりの代理費用の引き上げ:74万ウォン(公共水準)→138万ウォン(民間水準)

一定規模以上の政府R&D事業および公共建設事業に対し、IP専門家が事業と特許間の連関性などを検証する特許監理制度の導入も推進する計画である。

「戦略4」第四に知的財産通商戦略を通じてグローバル市場を開拓する。
目標 As-is To-be(~2023年)
IP行政サービスの輸出額 1億3,000万ドル
(~2018、累積)
3億7,000万ドル
(~2023、累積)
年間海外特許出願件数 7万件 11万件

韓国企業が海外特許を円滑に確保し、海外市場に進出できるよう、韓国型知的財産システム(IP審査方式・体系、IP制度、IP情報システムなど)のグローバル拡散を推進する。

知的財産システムが不十分な新興国、低開発国を中心に知的財産教育・コンサルティング支援などを通じて友好的な関係を形成しつつ、知的財産審査の代行および情報システム構築などの輸出または韓国特許権を自動認定する協約の締結など、韓国企業の知財権を現地で保護するための協力活動を展開する。

(サウジアラビア)知財権専門家の派遣を含めるIP戦略の樹立、情報システム開発などの有償事業の推進(2019)
(アセアン)知財権保護分野における協力を強化する一方で韓国の特許権を現地で自動認定するなどの協約締結の推進(2019)

輸出企業のグローバル市場進出に必修的な海外知的財産の確保のための政策支援事業を拡大し、知財権の侵害発生時にも積極的に支援する。

IP出願・収益化支援ファンド(※)およびIP創出・保護ファンド(※※)造成、特許共済事業運営(※※※)などを通じて輸出中小企業の海外特許創出・保護に対する投資を拡大する。

※IP出願支援ファンド(億ウォン):(2019)125 →(2023)200
※※投資金一部を企業のIP創出・補強・紛争対応に活用、(2019)500億ウォン→(2023)5,000億ウォン
※※※海外出願費用、紛争対応費用などを貸与して活用し、事後分割償還、加入企業数:(2019)1,040社 →(2023)16,120社

模倣商品流通など、韓流に便乗する外国企業に対する現地対応支援体系(※)を構築し、海外知識財産センター(IP-DESK)を拡大(※※)し、海外現地における知財権保護支援も強化する。

※国家別実態調査および対応法律検討、現地取締りの要請およびモニタリングなど
※※海外知識財産センター設置:(2019)8カ国15カ所→(2023)16カ国23カ所

工学翰林院会長は、この日に開催された協議会で、「知的財産が経済成長に大きく寄与してきており、頭脳が、まさに資源である韓国では今後も知的財産が必ず重要となる」としつつ、「本日提案されたイノベーション課題を政府だけではなく、民間が一緒に推進して知的財産を通じた国家競争力強化を遂げていこう」と述べた。

特許庁長は、「米中貿易紛争、内需不振などで対内外経済環境が良好ではなく、イノベーションエコシステムの造成と持続成長のための知的財産の役割がいつもよりも重要な局面を迎えている」としつつ、「今年を知的財産エコシステムのイノベーションの元年とみなし、本日提案された課題を支障なく推進し、未来市場の先取りをしていく」と強調した。

特許庁と工学翰林院会は、今後も知的財産戦略協議会を四半期毎に開催し、国家知的財産の能力を強化するための政策課題を発掘・議論して推進していく予定である。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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