知的財産ニュース 韓国の製薬会社 ソリフェナシン敗訴、改良新薬開発企業は「非常事態」

2019年1月17日
出所: 電子新聞

韓国の製薬会社が1・2審とも勝訴した改良新薬をめぐる特許権侵害差止訴訟が3審で覆った。これで、塩(触媒)を変更して改良新薬を開発する製薬業界に波紋が広がると予想される。

韓国の大法院(最高裁)民事1部は1月17日、日系多国籍製薬会社であるアステラス製薬が、韓国の製薬会社であるコアファームバイオ(COREPHARM BIO)を相手取って提訴した特許権侵害差止訴訟でコアファームバイオが勝訴した原審を破棄し、事件を特許法院に差し戻した。

アステラス製薬は自社が開発した過活動膀胱治療剤「ベシケア錠(一般名:ソリフェナシンコハク酸塩)」の特許権存続期間が切れる前、コアファームバイオが塩変更した改良新薬「エイケア錠(一般名:フマル酸ソリフェナシンベシケア)」を発売し、2016年にソウル中央地方法院(地裁)に提訴した。コアファームバイオはオリジナル医薬品のベシケアの特許権侵害を回避するために、塩変更医薬品を発売した。

アステラス製薬は、ソリフェナシンを主成分とする医薬品をコアファームバイオが発売したのは特許権侵害だと主張した。これに対し、コアファームバイオはソリフェナシンに使用する塩と異なる成分を使って医薬品を開発したため、特許侵害ではないと主張した。ソウル中央地法は1審でアステラス製薬に対し、原告敗訴の判決を下した。その後、アステラス製薬は特許法院に控訴した。控訴審でも棄却され、最高裁に上告した。

1月17日、大法院は判決を覆した。大法院はソリフェナシン塩変更に関する特許権侵害差止訴訟で1、2審とは異なる判決を下した。大法院は両社による特許権侵害訴訟で破棄差し戻しの判決を下した。

今回の判決により、特許を回避して塩変更した改良新薬を発売する韓国の製薬会社は大きな打撃を受ける見通しである。特許を回避して開発される塩変更医薬品は180以上に及ぶ。

大法院の判決を受けて、後発医薬品(ジェネリック医薬品)への依存度が高い韓国の製薬業界は生存の危機に追い込まれた。塩を変更したことで、オリジナル特許を回避した韓国の製薬企業による代表的な塩変更医薬品は、禁煙補助薬「チャンピックス」の後発医薬品である。オリジナル医薬品であるチャンピックスはバレニクリンという有効成分に酒石酸塩をつけたが、韓国の製薬会社の多くはバレニクリンにベシル酸塩・サリチル酸塩などの異なる塩をつけることで、塩を変更して特許を回避し、製品を発売した。

韓国の製薬会社には赤信号が灯った。全体の売上高に占める後発医薬品・改良新薬の割合は50~60%となる。韓国の製薬会社では従来の特許戦略それ自体が無力化するのではないかという危機感が広がっている。

韓国製薬バイオ協会の医薬品政策室長は、「塩変更した改良新薬はオリジナル医薬品の単なるコピー薬ではない」とし、「安全性と有効性について十分に検証して改良した新薬で、ジェネリックとは差別化された医薬品だ」と述べた。続いて「特許権侵害の判定が下されれば、韓国の製薬業界は危機にさらされるだろう」と付け加えた。

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