知的財産ニュース 特許庁、知的財産基盤の技術自立および産業競争力の強化対策を発表

2019年11月14日
出所: 韓国特許庁

約4億3,000万件の特許ビッグデータを活用した素材・部品・設備の技術自立を加速化

(1)特許ビッグデータの分析で素材・部品・設備など国家研究開発を支援
(2)AI基盤の「国家特許ビッグデータセンター」を構築…民間における特許ビッグデータの活用を拡散
(3)技術基盤中小企業の競争力の向上に向けた知的財産金融を拡大
(4)特許侵害の損害賠償額の現実化、融合複合技術審査の強化など公正経済・未来の先取りを支援

知的財産基盤の素材・部品・設備の技術自立を加速化し、韓国独自の技術でグローバル市場をリードするための産業競争力の強化戦略を進める。

特許庁は、「素材・部品・設備の競争力の強化対策(2019年8月5日)」と、「素材・部品・設備の研究開発投資戦略およびイノベーション対策(2019年8月28日)」に次ぐ後続措置として、「知的財産基盤の技術自立および産業競争力の強化対策」を、11月14日第93回国政懸案点検調整会議(国務総理主宰)にて、関係部処と合同で発表した。

韓国政府は最近、「素材・部品・設備産業の競争力の強化に向けた特別措置法」の改正を進め、官民合同で「素材・部品・設備の競争力委員会」を新設するなど、韓国の素材・部品・設備産業の競争力の強化と技術自立のために力を入れている。

推進背景

7月以降、対外依存度が高い中核素材の輸出規制により、韓国企業の現場では困難が予想され、国際的にも米中貿易紛争など未来の技術覇権の先取りに向けた経済戦争が深化しており、各国における輸出環境の悪化が懸念されている。

※輸出額(2019年1月から6月)の増加率:(米国)0.8%減少、(中国)0.1%減少、(韓国)8.6%減少

このような技術覇権の源泉は、無形の知的財産である。これを反映するかのように、主要国では知的財産を武器に産業支配力を強化し、未来市場で優位に立つために全力を尽くしている。

特に、半導体・ディスプレイなど韓国の主力産業において大きな影響力を持っている素材・部品・設備分野では、先進の外国企業が関連技術を特許で先取りし、生産・工程に関するノウハウを営業秘密(非公開)で保護することで、堅固な技術障壁を構築し供給網を確保しており、韓国企業など後発企業の追い上げがさらに難しくなっている。

※輸出規制3大品目別の特許出願のシェア(2019年7月):(フォトレジスト)日本 65.1%、韓国 9.1%、(フッ化水素)日本 33.1%、韓国 5.2%、(透明ポリイミドフィルム)日本 55.3%、韓国 38.4%

主要国の知的財産政策の現状

(1)米国:米中貿易紛争で、知的財産の保護を重要イシューとして提起
*米国は貿易交渉において、知的財産権の保護および技術移転の強要禁止の法制化を強く要求
(2)日本:特許・営業秘密など知的財産を活用した独占的な市場支配力を確保
*3極特許(日本・米国・欧州の同時登録)件数(2016年):(日本)1万7,397件、(韓国)2,599件
(3)中国:第四次産業革命分野の特許確保による未来産業の先取りに全力
*第四次産業革命の特許蓄積を主要目標(売上1億元当たり1.1件)に設定し、製造2025戦略を推進
*AI特許出願量(2007年から2016年、件):(中国)12,110>(米国)11,757>(日本)7,847>(韓国)5,754

技術・産業戦争の勝敗は迅速な特許の先取りに左右されるため、韓国が技術覇権時代を切り拓き、未来産業・市場をリードするためには、国レベルの知的財産戦略が急務である。

今回の対策は、「グローバル市場を先導する知的財産基盤の技術強国」の実現をビジョンに、 (1)特許基盤の素材・部品・設備の技術自立、(2)知的財産中心の国家R&Dシステムのイノベーション、(3)中小・ベンチャー企業の知的財産の競争力を向上、(4)公正経済および未来の先取りに向けた知的財産インフラのイノベーションなど、知的財産基盤の技術自立および産業競争力の強化に向けた4大戦略で構成されている。

革新課題

【戦略1】特許を基に素材・部品・設備の技術自立を実現する。

素材・部品・設備に関する100+αの重要品目に対する研究開発(R&D)を進める際に、特許ビッグデータを活用した研究開発(IP-R&D)(※)戦略を適用(約500課題、2020年)し、中小企業などが独自の技術を確保することができるよう集中支援する。

※特許ビッグデータを分析し、特許の先取り領域および空白領域の確認、源泉・中核特許の先取り、他分野の特許技術との融合など、最適な研究開発戦略の樹立を支援

特許ビッグデータは世界のあらゆる企業・研究所などのR&Dの動向、産業・市場のトレンドなどが集約された4億3,000万件余りの技術情報であり、これを分析し、競争会社の特許を回避したり、決定的な技術ノウハウの手がかりを探し、研究方向を提示することで、R&Dの成功率を高め、期間を減らすことができる。

特許ビッグデータの分析による技術自立の事例(韓国の電子部品企業V社)

外国企業D社など3大会社が市場の90%以上を占めているキャパシター分野で、韓国内外特許の構成要素別の分析と空白領域の導出を通じて、独自の新技術および特許を確保→該当キャパシターの売り上げを基準に世界1位を達成(2016年)

現在、一定規模以上の素材・部品・設備分野の応用・開発研究課題について、IP-R&Dを遂行するよう政府R&D管理規定の改正を進めており、今後、他分野のR&D課題に拡大するために検討・推進する予定である。

重要品目に対する特許分析により、韓国内外の代替技術の情報(※)を迅速に把握し、該当情報を必要とする企業に提供することで、供給先の多辺化による素材・部品・設備の受給安定性を向上させる。

※代替技術の特許権者(企業・機関・研究所・個人)および発明者の情報など

早期の技術自立が不可能な品目については、特許分析で発掘した海外の代替技術の情報を企業に提供し、M&Aまたは技術移転(特許の買い入れ、ライセンシング)への連携を支援する。

※韓国半導体設会社であるA社は、IP-R&Dを通じて韓国内外の特許を分析し、中核技術を迅速に確保するために外国企業B社を買収(2014年)→該当品目で世界1位を達成(2015年~)

それと共に、AI基盤の「国家特許ビッグデータセンター」を発足し、世界から4億3,000万件余りの特許ビッグデータを収集・加工・分析し、有望技術の発掘、産業別トレンドおよびリスク信号の探知などの情報を中小企業に提供し、民間の特許ビッグデータの活用を拡散させる計画である。

※特許DBの加工・管理、特許基盤の産業イノベーション戦略および社会問題対策の導出などを並行

【戦略2】知的財産を中心に国家R&Dシステムを革新する。

特許ビッグデータ基盤の定量的・客観的R&D戦略による投資成果を向上

特許ビッグデータ基盤の定量的・客観的R&D戦略による投資成果を向上

特許ビッグデータを通じて、未来市場をリードするイノベーション技術の発掘を支援する。

バイオヘルス・二次電池など5大分野の特許ビッグデータの分析結果(※)を民間およびR&D部処に提供し、R&D企画に反映するようにし、今後、新産業および主力産業27大分野(※※)に拡大する。

※新産業(バイオヘルス・水素産業)、主力産業(ディスプレイ・システム半導体・二次電池)など75新規R&D課題を導出
※※AI・ビッグデータ・VRなど17大新産業分野および家電・石油化学など10大主力産業分野

また、微細粉塵・消防・生活放射線・生活用品・感染症疾患など5大社会懸案についても、特許ビッグデータの分析で技術的な解決方法を整える。

社会イシューの解決に向けた特許分析の例示:微細粉塵

区分 特許ビッグデータの分析結果
事業場用排出ガスの浄化 韓国で出願されていない米国の特許技術である湿式電気集塵機を通じて、微小粒子状物質の99%以上、硫黄酸化物95%以上を除去することができる
車両用排出ガスの浄化 米国企業により韓国で登録されてあるものの、特許権が消滅されたディーゼル微粒子捕集フィルター技術を活用し、車の排出ガスを浄化する

民間のR&D結果が源泉・中核特許の確保に繋がり、強く保護されるようIP-R&D戦略を拡大する。

AI・バイオヘルスなど新産業分野のスタートアップ・ベンチャー企業および大学・公共研究機関にIP-R&Dを集中支援(2019年に191件)し、半導体・ディスプレイ・自動車・造船・鉄鋼など、主力産業分野の中小企業を対象にするIP-R&Dを拡大(2019年に30件→2020年に60件)し支援する。

韓国政府R&Dの全周期(企画-選定-遂行-評価)に、特許ビッグデータの活用体系を構築し、R&Dの効率および成果を極大化する。

R&D課題の企画方式を少数の専門家による主観的方式から、特許ビッグデータの分析による市場需要中心の客観的・効率的方式へと全面的に再編する。

R&D課題の選定段階での特許専門家の参加を義務化し、同様の主題についてのR&D課題ではあるものの、従来とは異なる特許開発が予測される場合には、相違な課題として判断するよう重複性の判断基準を補完する。

また、R&D課題の遂行段階において、IP-R&Dの遂行により優秀な技術を選別し、韓国内外の特許出願を集中支援する。

それと同時に、R&D課題評価が課題の特性を考慮した質中心の特許成果指標に基づいて行われるよう、評価体系を整備する。

※特許価値評価システム(K-PEG、SMART3など)による質的評価

【戦略3】中小・ベンチャー企業の知的財産の競争力を向上させる。

中小企業などが知的財産を担保に融資し、投資を受けるのが日常化になるよう、知的財産金融を2019年の7,000億ウォンから2022年には2兆ウォンへと大幅に拡大する。

債務不履行による銀行のリスクを軽減させるために、回収専門機構を新設し、無形資産の担保活用を高めた一括担保制度(※)を導入し、技術イノベーション型中小企業の円滑な資金調達を支援する。

※不動産を除く知的財産権‧債券‧その他の動産など、企業資産の全体を担保として設定することができるようにし、知的財産担保および価値評価を活性化

知的財産金融の活性化のために、ベンチャーキャピタルファンドが知的財産権を直接所有することを許容し、知的財産価値評価の支援対象を拡大(※)するなど、知的財産投資を阻害する規定を整備する。

※価値評価の支援対象を拡大 : 登録特許→登録または出願中の特許

創意的アイデア・技術基盤のイノベーション創業を活性化し、海外特許の確保などを支援することで、知的財産基盤のグローバル強小企業を育成する。

特許審査官‧市場専門家の協業により、イノベーション特許の創業企業(※)を発掘し、事業化コンサルティング、投資誘致の機会などを提供(年間100件)し、地域知識財産センターおよび担当保育機関(※※)を通じて、理工系大学院生創業チームの知的財産経営‧アイテムの検証‧製品開発を支援するなど、知的財産によるイノベーション創業の支援を拡大する。

※技術成果の事業性が優秀な特許を有する7年以内の創業企業
※※首都圏・江原(高麗大・成均館大)、忠清・湖南(KAIST)、慶尚・済州(POSTECH)、女性特化(新規選定)

手続き

グローバル強小企業を育成するために、スタートアップ・中小企業に対する海外特許の確保に関する支援を段階的に拡大(2019年に1,040件→2020年に1,800件)し、IP出願・収益化支援ファンド(※)およびIP創出・保護のファンド(※※)を造成し、市場価値の高い海外特許への民間投資を誘導する。

※プロジェクト方式で海外出願とIP収益化に投資(2019年 125億ウォン)
※※投資金の義務使用:投資金の最小5%をIPに使用(2019年 500億ウォン)

8月末に商品が公開された以降、51日(営業日基準)で2019年の加入企業目標(1,040社)を100%達成した特許共済事業(※)を通じて、中小企業の海外特許の出願および紛争費用などに対する負担を緩和する。

※一定の金額を積み立てした後、海外出願、 韓国内外の審判・訴訟、韓国内外の知的財産イノベーション企業の訴訟などの費用を融資して活用した後、事後分割償還(2023年まで1万6,140社の加入が目標)

海外においての中小企業の技術保護と韓流の不当な便乗を防ぐために、「政府レベルの対応協議体(※)」および被害企業TF運営による国家別実態調査、現地の対応(取締の要請など)および外交的な協力活動を展開し、海外知的財産センターを拡大するなど強力な知的財産保護体系を構築する。

※産業部・特許庁・外交部など9部処およびKOTRA(大韓貿易投資振興公社)など4公共機関が参加

【戦略 4】公正経済‧未来の先取りに向けた知的財産インフラを革新する。

技術奪取を根絶し、イノベーション企業の知的財産保護を大幅に強化するなど、創意的アイデアおよび技術の価値が認められる公正な経済秩序を確立する。

中小企業の技術奪取を根絶するために、商標およびデザインを含む知的財産全体に3倍懲罰賠償制度を拡大(※)し、特許侵害に対する損害賠償額の上限も侵害者の利益全額へと現実化(※※)する。

※(現行)特許‧営業秘密、2019年7月に施行→(改善)商標・デザインに拡大、2019年に発議
※※(現行)特許権者の生産能力内の損害のみを認定→(改善)侵害者の利益全額

未来新技術の開発を加速させる知的財産イノベーションのインフラを構築する。

AI‧ビッグデータなど融合複合技術の担当審査組織を新設(2019年11月1日)し、審査の投入時間を先進国並み(※)に拡大し、適正化するなど第四次産業革命の先取りに向けた審査システムを整える。

※国家別1件当たりの審査投入時間(2017年、時間):(韓国)11.9、(米国)25.3、(日本)17.5、(欧州)35.1、(中国)26.3

また、特許‧営業秘密関連のイノベーション企業訴訟の初期に、侵害者と被侵害者が証拠資料を相互交換するディスカバリー制度の導入を進め、イノベーション技術に対する知的財産保護を強化し、紛争の早期解決を促す一方、弁護士‧弁理士‧証拠分析専門家など、知的財産関連の専門職業群の雇用創出を図る。

最後に、韓国の知的財産基盤の技術自立への意志を韓国内外に発信し、知的財産イノベーションの推進力を確保するために、特許庁の名称‧機能などの改編に関する協議を進める。

特許庁長は、「知的財産制度が発展した英国と米国が、過去3回の産業革命をリードしたように、強力な知的財産政策でAI‧ビッグデータなど、新技術を先取りする国が第四次産業革命をリードし、技術覇権も確保すると予想される」としつつ、「今回の対策を順調に実行し、国民1人当たり特許出願世界1位である韓国が、知的財産を基に成長潜在力を発揮し、技術と産業を革新し、グローバル市場を先導する技術強国に跳躍するよう最善を尽くしていきたい」と強調した。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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