知的財産ニュース 韓国知財セミナー「韓国商標法、デザイン保護法の最新状況」(特許庁委託事業)を開催しました。

2014年3月24日

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韓国では、朴クネ大統領の主要施策である「創造経済」の実現に向け、知的財産の重要性がますます向上している中、ヘーグ協定への加盟を前提としたデザイン保護法の全面改正や、公正な権利者保護の強化等を図った商標法の全面改正案の立法予告など、意欲的な制度整備が進められております。また、本改正等は、実務面からも日本企業等出願人に大きな影響を与えるものとなっております。

そこで、韓国商標法、デザイン保護法の改正状況を中心に、最近の重要判例なども含め、最新状況について去る2月25日(大阪)と26日(東京)にて、韓国最大法律事務所である金・張法律事務所の先生方を招いてセミナーを開催いたしました。

第1セッションでは、「韓国デザイン保護法の改正状況と最近の重要判例」について金・張法律事務所の柳 昌吾弁理士にご説明いただき、第2セッションでは、「韓国商標法の改正状況と最近の重要判例」について金・張法律事務所の高 利化弁理士にご説明いただきました。

本セミナーは、約200名の方に参加いただき、また、アンケート調査によると参加者の満足度も極めて高いものとなりました。この紙面を借りてお礼を申し上げるとともに、セミナー概要についてご報告いたします。

セッション1:韓国デザイン保護法の改正状況と最近の重要判例

金・張法律事務所 柳昌吾弁理士

セッション1では、2014年7月1日から施行予定のデザイン保護法の全面改正についてご説明いただきました。今般の法改正は、韓国特許庁が2010年から推進してきた制度改革の総仕上げともいうべきものであり、主な内容はヘーグ協定の加入を前提とした国際出願の導入、ロカルノ協定による国際分類の導入(2011年4月17日発効)、デザイン創作性要件の強化、関連デザイン制度の導入などのほか、韓国IPGがあい路事項として改善を要望していた、拡大先願規定の同一人適用の排除(自分が先に出願した全体デザインにより、後に出願した部分デザインが拒絶となる事例の排除)規定の導入などが盛り込まれており、旧法の枝条文などを含む88条文を整理し、最終的に229条文に全面改正されたということです。

さらに、本改正においては、反対の声が多かったいわゆるデザインの物品性の廃止(商品にかかわらずコンセプトが共通するデザインに対する権利行使を可能にするもの)や、グラフィックデザインの保護対象化などは、見送られております。なお、これらについても、韓国IPGは、あい路事項を提出し反対を表明しておりました。

改正沿革

また、本ご講演では、法改正の状況のみならず、出願デザインが登録を受けることが可能か否か、その類否判断についての判例ご紹介や、各知財訴訟などに見るデザイン権の侵害訴訟の事例のほか、デザインと商標、あるいは、著作権や不正競争防止法などといった関連法で保護する最近の企業の知財戦略など、非常に幅広くご紹介いただきました。

デザインをめぐる知財訴訟の例

最後に、本日の発表内容のポイントとして、(1)韓国には意匠の模倣製品が多いため、意匠登録の有効性が日本より高い、(2)サムスン電子も自国において訴訟で完敗していることからわかるように、知財をめぐる訴訟ではいわゆるホームデシジョンなどはなく、その意味で日本企業が権利行使に消極的になる理由はない、(3)日韓両国の意匠制度は類似しているため、かえって誤解が生じやすく、また、法改正や実務変更も頻繁であるため、現地代理人のアシストが必要などの点について説明いただき、講演を終えました。

セッション2:韓国商標法の改正状況と最近の重要判例

金・張法律事務所 高利化弁理士

次のセッション2では、最近の韓国商標法改正の状況ということで、2012年改正、2013年改正についてまずご紹介いただきました。

韓国の商標法は、2012年に韓米FTAの締結による法改正が行われ、音・匂い商標、証明標章制度、法定損害賠償制度などが導入されたほか、秘密保持命令制度の導入、専用使用権登録の効力発生要件の第三者対抗要件化など、重要な法改正がなされております。 

また、注目された音・匂い商標ですが、2014年1月現在の音商標の出願件数は、47件(うち公告は24件)、匂い商標の出願件数は2件であり、特に匂い商標については、日本企業の出願であるということです。

また、2013年度の法改正については、実務的に重要な改正がなされ、まず、不使用取消審判制度が改善されました。これにより、不使用取消審判によって取り消された商標について、審判請求人に優先出願期間を付与していた制度が廃止されるとともに、当該取り消された先登録商標と出願商標との類否判断時期が出願時点から審査時点に変更されました。先登録商標と出願商標の類否判断時期は、日本をはじめ多くの国で審査時点を基準にしているところ、韓国では出願時点を基準としていることから、韓国IPGにおいてその変更をあい路事項により要望しておりましたが、今般の改正により、不使用取消審判に限定されるものの、一歩前進した感があります。なお、この点については、後述のとおり、2015年改正を目途とした法改正の中でさらに議論されております。

さらに、特に零細企業をターゲットとしたいわゆる商標ブローカを根絶すべく、商号の先使用権を従前より幅広く認める改正などもなされたとのご説明をいただきました。

従前、商号の先使用権が認められなかった例

次に、2014年1月1日から施行された審査基準の主な改正内容についてご説明いただいたのち、2013年11月24日に立法予告され、2015年7月を目途に議論されている時期改正案についてもご説明いただきました。その主な内容は、(1)使用による識別力認定要件の緩和、(2)同日出願の競合時における先使用者の優先、(3)商標権の不使用者に対する損害賠償請求権の制限、(4)著名商標の希釈化防止規定の導入、(5)不使用取消審判の請求人適格緩和といわゆる駆込み使用の禁止、(6)商標不登録事由の判断時点を審査時に変更、(7)信義則に反する商標の登録等防止、(8)意匠共同同意制度の導入、(9)商標消滅後1年間の出願禁止規定の廃止など、まさに全面改正の名のとおり大幅な改正が予定されていることをご紹介いただきました。

韓国の商標制度は、ご案内のとおりもちろん登録主義ですが、これらの改正により、使用主義的な色合いが強くなり、同じく登録主義である日本の商標制度への影響も注目されます。

また、これらの法改正以外にも、韓国においての商標業務時の一般的な留意点についてご紹介いただきました。特に、日韓で商品名の呼び名が異なる例があり、注意を要すること、また、日韓で商標の類似範囲や正当な使用とされる範囲に実務上相違があること等について詳しくご説明いただきました。

日韓実務の主な相違点

その他、バイアグラをめぐる商標権侵害事件のほか、位置商標や結合商標の使用に関する判例など、注目すべき裁判例をご紹介いただき、全体で3時間のご講演を盛会裏のうちに終了いたしました。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
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