知的財産ニュース 中小企業の成長の妨げになる営業秘密流出の平均被害額が13.2億ウォン

2014年1月23日
出所: 韓国特許庁

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韓国特許庁で「韓国企業の営業秘密被害についての実態調査」の結果を発表

事例1:
乳酸菌製造会社のA社で理事兼工場長を務める甲は、在職中に知り得た乳酸菌配合割合などの営業秘密を流出しB社を設立したことにより1年6ヶ月の実刑宣告を受けた。
事例2:
中国でセキュリティカメラを生産するC社は、現地雇用人が製品の回路図を窃取した後、他の都市で類似製品を生産し安価な製品を流通してC社に被害を与えた。

韓国特許庁は韓国企業の営業秘密管理、被害状況、隘路事項などを調査・分析した「韓国企業の営業秘密被害についての実態調査(以下、実態調査)」の結果を発表した。

実態調査は韓国企業1000社を標本にアンケート調査を実施した結果と、過去3年間(2010~12年)の営業秘密に関する判例538件(民事274件、刑事264件)を分析した結果である。
※標本集団:国内所在の中小企業800社、海外進出企業200社(大企業含む)

アンケート調査の結果によると、アンケート調査企業の67.2%が営業秘密を保有しており、保有している営業秘密の種類は研究開発ノート、新製品アイデア(52.8%)、生産・製造方法(51.9% )などが最も多かった。

管理基準については過半数が(57.3%)営業秘密流出に脆弱であり危険に露出されていると答えており、これは技術が流出される危険が高いだけではなく、流出されても営業秘密の成立要件である秘密管理性を認めてもらうことが容易ではないと予想される。
※営業秘密の成立要件:非公知性、経済的流用性、秘密管理性

被害状況については韓国国内所在の中小企業9.4%、海外進出企業14.6%が営業秘密の流出経験があると答えた。

平均被害額は営業秘密の種類により差があるものの、設計図の場合は国内が13.2億ウォン、海外は7.0億ウォンであった。

営業秘密を流出した者は、国内の場合は退職職員(78.7%)が最も多く、海外の場合は協力及び競合会社の従事者(76.7%)と雇用外国人(60.0%)による流出が多かった。

流出時に何らかの処置を取ってない企業の割合は、国内外とも30%以上(31.1%、33.3%)と示され、事由は「流出事実の立証が難しかったから」との答えが一番多かった。

判例分析の結果においても退職者による流出の割合(75.2%)が一番高く、中小企業間での営業秘密流出事件が一番多かったが(88.8%)、大・中小企業間(8.6%)の事件も少なくなかった。

営業秘密の民事事件(36%)の場合、一般事件(5%)に比べ仮処分決定の割合が高く、損害賠償に関する認容決定件数及び割合は過去3年間で増加している。
※認容決定件数/割合(%):(2010年)10件/18.2% → (2011年)15件/30% → (2012年)24件/49%

刑事事件の有罪率は76.9%であり、一般事件(2011年80.6%)に比べ多少低いが、過去3年間で増加傾向を見せており、量刑の場合は執行猶予、罰金型の順であった。
※営業秘密事件の有罪率(%):(2010年)71.6% → (2011年)71.1% → (2012年)83.5%

営業秘密事件(16.0%)の場合は、一般事件(44.0%)に比べ罰金型の割合が低く、現行「不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律」で財産上の利益額がない場合は罰金型を賦課できないためであると分析される。

ただし2014年1月31日から施行される改正法では、財産上の利益額がない場合も罰金型を賦課でき、営業秘密流出関連の罰金型の割合が高くなるもとを見込まれる。
※(不競法第18条)10年以下の懲役または財産上の利益額の2倍以上10倍以下 → 10年以下の懲役または1億ウォン以下の罰金に処する。

今回の調査結果をもとに韓国特許庁は、中小企業が現場で感じる隘路事項を聞いて弁護士、弁理士などの専門家の意見を収取し、「中小企業の営業秘密保護に関する方策」をつくる予定である。

資料:営業秘密被害の実態調査結果(要約)

1. 調査概要

国内及び海外進出した中小企業を対象に、営業秘密侵害関連のアンケート調査及び営業秘密関連の国内判例に関する分析を実施

  • アンケート調査

    国内の中小企業800社(海外200社)を標本※として営業秘密の管理現状侵害現状隘路事項などに関するアンケート調査を実施
    ※母集団:2013年イノビズメインビズに登録されている15,585社(中国など海外に進出した中小企業5,952社)

  • 判例

    最近の3年間(2010~2012)の営業秘密に関する判例538件(民事274件、刑事264件)を対象に、流出者営業秘密の種類処理機関などを分析

2. アンケート調査を通じた韓国企業の営業秘密の現状

管理現状

調査企業の 67.2%(538社)が営業秘密を保有していると回答

  • 種類

    有している営業秘密としては、研究開発ノート、新製品アイデア(52.8%、284社)、生産製造方法(51.9%、279社)など

  • 管理水準

    過半数以上(57.3%、458社)が営業秘密の流出に脆弱であり、リスクに露出されていて、11.3%(90社)だけが、管理体制を整えていると回答。
    積極的な管理ができない理由として、必要性の認識が不足(41.0%)、実現方法が分からない(1.7%)、予算不足(25.1%)

分析1

中小企業の営業秘密管理水準

  • KIPOと中小企業庁の調査結果、中小企業の技術保護インフラが非常に脆弱であることが把握
  • これは、技術流出のリスクが高いだけでなく、トラブルが発生したとき、営業秘密管理体制の不十分が理由に、営業秘密の要件である秘密管理性が認められがたくなると予想

侵害の現状

調査企業の 9.4%(75社)が営業秘密の流出を経験、平均 2.9回

  • 種類

    流出された営業秘密は、営業情報(38.7%)と開発製品の設計図(37.3%)が最も多く、主に退職者(78.7%)によって流出されている。

流出された営業秘密の種類

営業秘密の流出者

分析2

退職者に対する措置
主に退職者により営業秘密が流出されていて、これに対する集中的な措置が求められるが、60.9%(487社)が別途の措置を取っていないため、この部分の支援が必要

  • 被害額

    流出時に被害額が最も多い営業秘密は、開発製品の設計図

    営業秘密の種類

    事例数(名)

    分からない(名)

    平均被害額(億ウォン)

    営業情報

    29

    9

    4.0

    開発製品の設計図など

    28

    11

    13.2

    生産・製造方法

    23

    10

    11.3

    研究開発ノート・
    新製品のアイデア

    14

    6

    5.2

    会計情報

    5

    3

    0.3

    経営戦略情報

    3

    1

    5.8

対応現状

営業秘密が流出したとき、「これといった措置は取らなかった」という答えが31.1%(23社)で最も多く、警告状の発送(27.0%)、システム整備(20.3%)

  • 未措置の理由

    流出事実の立証が難しい(47.8%)、被害が小額であったため(21.7%)、現在の取引関係を維持するため(13.0%)

  • 隘路事項

    営業秘密の保護に関する隘路事項としては、関連法律の熟知の困難さ(27.6%)、専門人材の不足(20.1%)、管理方法が分からない(19.6%)

3. 国内企業と海外進出企業の営業秘密被害の実態調査結果を比較

営業秘密保有及び管理水準

国内企業(67.2%)と海外進出企業(68.4%)が類似な水準で営業秘密を保有していると回答したが、
海外進出企業(67.5%)が国内企業(57.3%)より「法的な保護が受けられにくく、営業秘密の流出リスクがより高い」と認識している。

営業秘密の侵害現状

侵害経験の割合は、海外進出企業(14.6%)が国内企業(9.4%)より高いが、
流出の頻度は、国内企業(2.9回)が海外進出企業(2.6回)よりやや高い。
海外進出企業の営業秘密の主な流出者は、協力・競合メーカー従事者と雇用した外国人で、国内企業の場合(退職者)とは異なっている。

流出被害額(単位:億ウォン)

営業秘密の種類

国内企業

海外進出企業

営業情報

4.0

2.2

開発製品の設計図など

13.2

7.0

生産・製造方法

11.3

5.5

研究開発ノート・新製品のアイデア

5.2

5.3

会計情報

0.3

経営戦略情報

5.8

1.1

営業秘密侵害への対応現状

流出のとき、未措置の割合は類似(31.1%、33.3%)していて、主な理由として国内・海外企業ともに「流出事実の立証の困難さ」を挙げた。(国内47.8%、海外 60.0%)

4. 判例の分析を通じた韓国企業の営業秘密現状

一般現状

  • 民事

    民事事件の場合、本案事件と仮処分がそれぞれ64%と36%で一般事件(本案 95%、仮処分 5%)に比べて仮処分決定の割合が高め

分析3

仮処分決定の割合が高いことに対する分析
これは、転職禁止関連事件(88件)の大半が仮処分事件に処理されるという傾向と、営業秘密の民事事件は、迅速な権利救済が必要とされることに起因した現状だと分析される。

  • 刑事

    営業秘密事件の有罪率は、76.9%と、一般事件(2011年80.6%)に比べてやや低いほうだが、この3年間増加※傾向にある。
    ※営業秘密事件の有罪率(%) : (2010) 71.6% → (2011) 71.1% → (2012) 83.5%

事件当事者・営業秘密の内容・流出者・流出経路

区分

民事

刑事

当事者

中小 VS中小(88.7%)

中小 VS 大手企業 (8.0%)

中小 VS 中小 (89.0%)

中小VS 大手企業 (9.1%)

営業秘密の内容

設計図面 (47.0%)

営業情報 (23.0%)

設計図面(47.0%)

営業情報(17.0%)

流出者

退職者 (80.0%)

競合メーカー従事者(15.0%)

退職者(68.7%)

競合メーカー従事者(11.3%)

雇用外国人 (4.6%)

流出経路

競合会社に就職 (84.2%)

競合会社に就職(78.4%)

分析4

実態調査の結果及び判例分析の比較
判例と実態調査の結果に照らし合わせたとき、営業秘密流出の当事者は、中小企業と中小企業の間で最も多く発生しており、主に退職者が競合会社に就職するなどの形で流出していることがうかがえる。
中小企業に競業禁止約定書のガイドなどを積極的に普及し、退職者による営業秘密の流出を防止対応できるよう支援する必要がある。

損害賠償及び量刑の比較

  • 民事

    損害賠償の請求件数は、この3年間減少※しているが、認容決定件数及び比率は増加※※しており、
    ※損害賠償請求件数(件) : (2010) 55 → (2011) 50 → (2012) 49
    ※※認容決定件数及び割合(%) : (2010)10件/18.2% → (2011)15件/30% → (2012)24件/49%
    請求金額の平均は 13.0億ウォン、認容金額平均は2.4億ウォンの水準

  • 刑事

    量刑は、営業秘密事件は執行猶予、罰金刑、1年未満の順に多く、3年以上の刑を言い渡したことはない。

2011年における一般事件との量刑の比較

区分

営業秘密

一般事件

宣告猶予

2.0%

2.4%

罰金刑

16.0%

44.0%

執行猶予

66.0%

32.0%

1年未満

6.0%

9.1%

1年以上~3年未満

10.0%

9.0%

3年以上

0.0%

3.5%

分析5

量刑の分析
営業秘密事件が一般事件に比べて罰金刑の割合が低いのは、現行の法律上、財産上利得額がない場合は、罰金刑を課せられないことが原因となっており、2014年の改正法の施行により、今後は、罰金刑の割合が高い可能性がある。

確定機関

民事・刑事事件の場合、1年内に確定される場合が47.2%、41.6%だが、無罪事件の場合、1年以上長期化事例が多数発生(79.7%)

民事

刑事

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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