知的財産ニュース 「韓国知財実務セミナー」(特許庁委託事業)を開催しました。

2013年3月27日

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韓国企業の技術力向上や第三次ピークとも呼べる日本企業の韓国進出ラッシュに伴い、韓国における知的財産の確実な保護が喫緊の課題となっています。一方、日韓の知的財産制度の違いや実務上の違いにより、必要な発明が特許として認められなかったなどトラブルが少なくありません。そこで、去る2月26日、27日に、韓国の金・張法律事務所の特許専門家である金鎭伯(キム・ジンベク)弁理士と、デザイン(意匠)・商標専門家である柳昌吾(リュウ・チャンオ)弁理士をお招きし、東京と大阪にて、韓国における特許・デザイン・商標に関する実務上のコツと、今後の法改正動向をご紹介する「韓国知財実務セミナー」を開催致しました。

本セミナーは、東京、大阪あわせて165名の方にご参加をいただき、盛況のうちに開催することができました。そこで、ご参加いただいた企業の方に御礼申し上げるとともに、本セミナーの概要について、以下のとおりご報告いします。

セッション1:「韓国における知財実務のコツと最新法改正状況(特許編)」

講師:金・張法律事務所 金鎭伯弁理士

1. 特許法改正状況の紹介

現在、2014年1月1日施行を目標に、特許法条約(PLT)の趣旨を反映した特許法改正案が国会で審議中であることをご紹介いただきました。現在予定されている主な改正のポイントは、以下のとおりです。韓国IPGが韓国政府に建議を行ってきた内容もあり、法改正を歓迎したいと思います。

  1. 願書とともに、論文など発明の内容が記載されたものとみられる「外観上明細書」の提出により、特許出願日を認定
  2. 明細書の外国語(当面は英語)による出願の許容
  3. 明細書を請求範囲と発明の説明に区分
  4. 医薬許可等による特許権存続期間の延長を1回に限ることを明文化
  5. 新規性喪失の例外適用を主張することが可能な期間を拡大

2. 特許における実務上のコツ

適切な権利設定を受け、また不要なコストを削減する方法について、実務者の立場としてご説明いただきました。その中から、主なものをご紹介いたします。

(1)明細書の翻訳

日本語と韓国語は、比較的翻訳が容易ですが、それでも明細書の翻訳に注意が必要とのことです。原文に基づく補正が認められていないため、誤訳により本来権利化可能な発明が権利化できなかったり、意図したものとは別の発明として権利化されてしまうなどの弊害が生じる可能性があります。そのため、1)主語を省略しない、2)韓国の代理人に和文と英文の両方を提供する、3)翻訳期間を確保する、4)因果関係などの構文を明確にする、5)カタカナの専門用語は対応する英語を併記するなどが重要であるとのことです。

(2)「・・・からなる」クレームに注意

韓国では、これをいわゆるクローズクレームとして限定解釈することが多いようです。そのため、「~を含む」という表現に変更するか、現地代理人と相談すべきです。

(3)マルチのマルチクレームが認められない

韓国では、日本と異なり、多数項を引用した請求項をさらに多数引用するいわゆるマルチのマルチクレームが認められていません。そのため、韓国に出願する際には、必要な請求項に限定したり、マルチのマルチとならないようにクレームを展開するなどの必要があるとのことです。

(4)プログラムクレームのカテゴリー

日本ではプログラムクレームが認められていますが、韓国ではプログラムクレームを「コンピュータ読取り可能な記録媒体」という表現に変更する必要があります。その際、そのような記録媒体が明細書に記載されているか否か、いわゆるサポート要件が問題になるケースが少なくないとのことです。

その他にも、1)クレームの任意的な記載の適否、2)請求項ごとに通知される拒絶理由、3)オフィスアクション応答期間(通常2ケ月で、原則4ヶ月まで延長可)、4)最後の拒絶理由通知での補正適否、5)再審査請求制度の導入、6)分割の時期的要件などについて、日本と韓国の相違を挙げながら具体例にご説明いただきました。

最後に、出願人が必要に応じて審査ペースを選択できる3トラック審査システムの活用、審査官との面接の活用など、すぐに役に立つ実務的な工夫をご説明いただき、セッション1を終えました。

セッション2:「韓国における知財実務のコツと最新法改正状況(デザイン(意匠)・商標編)」

講師:金・張法律事務所 柳昌吾弁理士

1. デザイン保護法改正状況の紹介

セッション2では、デザイン(意匠)と商標についてご説明いただきました。まず、デザイン保護法の改正動向について、2010年ごろよりデザイン保護制度の根本的改正が予定されていましたが、多くの反対があり見送られることになったとのことです。この改正案に対しては、韓国IPGも反対の建議を行っておりました。

現在予定されている改正内容は、1)2014年1月1日発効を目指したヘーグ協定加入および国際意匠出願制度の導入、2)創作性判断基準の国際主義採択、3)デザイン権存続期間の延長、4)類似デザイン制度廃止と関連デザイン制度の導入、5)同一出願人に対する拡大先願の適用の排除、6)複数デザイン出願範囲の拡大、7)新規性喪失の例外主張可能な期間の拡大などであり、2013年9月施行を目途に国会で審議が進められております。

2. デザインに関する実務上のコツ

多くの日本企業は、特許出願を重視しており、残念ながら意匠をあまり重視していない傾向にあります。しかし、韓国では、例えば中小企業などがデザイン権を取得し知財紛争に至るケースも少なくないため、日本企業が韓国に進出する以上、デザイン権の取得が必須とのご説明いただきました。デザイン出願に関する実務上のポイントは、以下のとおりです。

(1)韓国進出前に権利侵害有無の調査を!

韓国ではデザイン侵害訴訟が少なくない上、包装用具や身の回り品など、無審査登録の分類もあるため、韓国進出の前に、権利侵害の可能背について調査をしておく必要があるとのことです。

(2)デザインの説明、図面の提出などに注意!

デザインの保護対象は、デザインの説明、図面によるところが大きいため、日本での出願をそのまま漫然と韓国に出願せず、現地弁理士などに相談をすべきとのことです。

(3)全体意匠と部分意匠の出願日に注意!

韓国では、先願の地位が同一出願人にも及ぶため、全体意匠の後に部分意匠を出願すると、拒絶されてしまいます。先願後願を日本などでの優先日を基準に判断しますので、韓国に出願予定の場合、第1国での出願順位も考慮が必要とのことです。

(4)デザインの説明などの審査が厳しい!

韓国のデザイン審査は、工業上の利用可能性、材質、用途などの審査が厳しい傾向にあります。現地代理人は、日本語が通じる場合が多いため、メール等ではなく、電話等により密に直接相談し、適切な出願書を作成しましょう。

その他、無審査デザインに対する異議申立、書体に関するデザイン、審査期間など、さまざまな注意点をご説明いただきました。

3. 商標法改正状況の紹介

商標法も、2014年1月施行を目指し、国会で審議が行われており、不使用取消審判の改善、商号とサービスマークとの調整などが予定されています。特に、不使用取消審判で取り消された登録商標については、当該商標との類否判断時期を出願日ではなく審査決定時に行うとの改正内容が含まれております。こちらも長年韓国IPGが建議を行ってきた内容であり、改正の帰すうを見守りたいと思います。

4. 商標における実務上のコツ

韓国では、中国などに比して模倣品の被害が少なくなってきたものの、韓国特許庁によるとアパレル関係の商標異議申立の70%に模倣商標の疑いがあり、模倣出願に注意すべきとのご説明がありました。その他、以下のような実務上のコツを説明いただきました。

(1)ホログラム・動作商標・業務標章、音・におい商標、位置商標などに注意!

昨年改正された音・におい商標や、先般大法院で認められた位置商標など、日本にはない商標があるため、その出願方法や権利化・活用に留意すべきとのことです。

(2)使用意思確認制度、指定商品手数料加算制度に注意!

使用意思確認制度の趣旨は、日本と同様ですが、許容される範囲が日本と異なり、また、事業計画書や商標使用の計画書の提出など審査の運用が厳密とのことです。指定商品手数料加算制度と合わせて、必要な商品等に絞って出願する必要があります。

(3)特許事務所の商標調査の質に注意!

出願時や事業展開時などに、他人の登録商標を調査する必要がありますが、漢字やローマ字表記など、日本語と韓国語の違いを理解したうえで商標調査を行う必要があります。また、商品の名称も日韓で異なる場合が少なくないため、特許事務所の経験と実力が重要になってくるとのことです。

(4)商標ポートフォリオを再点検!

多類出願や分割出願、追加出願などをうまく使い分けると、商標管理の負担軽減や、権利維持費用などを軽減させることが可能とのことです。特に、商品を後から追加する追加出願を活用したり、韓国分類からニース分類移行に伴い商品分類が多数にまたがってしまう場合などには、商標更新出願ではなくあえて新規出願にするなど、日本と異なる戦略が必要であるとのことです。

その他にも、知的財産をめぐる日韓のビジネス習慣の違い、韓国特許庁の審査の特徴(結合商標の審査が厳しく、また、類似範囲が広いなど)などについて簡単にご説明いただきました。

今回のセミナーでは、制度、法律といった観点だけではなく、実務上のちょっとした工夫により、不要な拒絶を回避したり、権利の維持・管理を容易にするコツをご教示いただき、最前線で活躍される実務家の方に非常に有益なものとなりました。紙面を借りて、両講師の方に謝辞を述べたいと思います。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
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