知的財産ニュース 特許審判院、バイアグラ勃起不全治療の用途特許無効決定

2012年5月31日
出所: 韓国特許庁HP

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バイアグラの主成分である「シルデナフィル」に対する勃起不全治療の用途特許は無効

韓国特許庁の所属機関である特許審判院は、多国籍製薬会社のファイザー(特許権者)のバイアグラ(主成分「シルデナフィル」)勃起不全治療の用途特許(特許第262926号)に対する無効審判の審決で、審判請求人のCJ第一製糖(株)および韓美(ハンミ)薬品(株)の無効主張を認め、バイアグラの用途特許を無効と決定したと5月30日明らかにした。

「ファイザー」は、バイアグラの主成分である「シルデナフィル」に対する物質特許と勃起不全治療の用途特許※※の特許権者として、これまで独占的にバイアグラを販売してきた。物質特許の特許権存続期間が今年5月17日に満了になったが、バイアグラの勃起不全治療の用途特許は、その特許権が2014年5月13日まで残っており、勃起不全治療用バイアグラの独占権は引き続き「ファイザー」が持っている。
※物質特許は、化合物のような新規物質自体に付与する特許で、ファイザーは1990年初め、狭心症患者のための薬剤としてシルデナフィルを開発し、物質特許を取得した(国内登録日:1994年11月7日)。
※※用途特許は、ある物質の新規用途を発見した場合、その物質の用途に対して付与する特許で、ファイザーは臨床実験中にシルデナフィルが勃起不全治療に有用だということを発見し、物質特許とは別に勃起不全治療の用途に限定して用途特許を受けた(国内登録日:2000年5月9日)。

バイアグラの勃起不全治療の用途特許は、これまで国内製薬会社がバイアグラの複製薬を発売するのに最大の障害だっただけに、今回の特許審判院の無効審決で国内バイアグラ複製薬の発売に弾みがつくと見られる。

バイアグラの用途特許の無効理由は、特許明細書への記載不十分と進歩性否定

特許審判院は審決で、バイアグラの用途特許は「シルデナフィル」を有効成分とする男性の勃起不全治療のための経口投与用製薬組成物に関する医薬用途の発明として、次のような2つの理由から登録無効とした。

(1)初めに、バイアグラの用途特許は、その出願日以前に「シルデナフィル」の勃起不全治療と関連した薬理機転が明確になっておらず※※、明細書には「シルデナフィル」が勃起不全治療に医薬的効果を有するものなのかに対する具体的な実験結果などの記載が不十分だということだ。(明細書記載不備)。
※薬理機転は、医薬としての効果を現わす生体内での一連の作用課程を意味する。
※※医薬用途発明は、薬理効果に対する薬理機転が明確にされていない場合、明細書に特定物質にそのような薬理効果があるということを薬理データなどが示された試験例として記載しなければならない。

(2)次に、バイアグラの用途特許の構成要素中、有効成分である「シルデナフィル」、「男性勃起不全治療用」という医薬用途、そして「経口投与用」という投与経路はその出願日以前の先行技術を結合して容易に導出することができ、用途特許は先行技術からその進歩性が否定されるということだ。(進歩性欠如)

特許審判院は、今回の無効審判事件は勃起不全治療の用途特許の無効可否に対する国内初の技術的・法理的判断であり、審決結果によって今後特許法院と侵害法院で有利な立場に立てる機会であることから、権利存続を通じてバイアグラ複製薬の発売を阻止しようとするファイザーと複製薬の早期発売を望む国内製薬会社間に熾烈な無効可否攻防が続いたと明らかにした。

無効審判の当事者以外に、国内の製薬会社4社が審判参加人資格で審判に参加し、両当事者間で14回に及ぶ意見書および答弁書をやり取りし、関係証拠資料も73件も提出された。
※一洋(イルヤン)薬品(株),(株)BCワールド製薬,サンア製薬(株),保寧(ボリョン)製薬等4社

特許審判院の金・ソンホ審判長は「バイアグラの用途特許が有効な状況で、国内製薬会社がバイアグラ複製薬を発売または発売する予定であり、今後複製薬を発売する製薬会社に対するファイザーの特許侵害訴訟などが生じると思われる。このような事案の重要性を勘案して、事件の迅速な進行のために口述審理を行ない、両者の主張と関連する証拠を入念に調べ、今回無効審決をした」と述べた。

特許審判院の無効審決により、バイアグラ複製薬の発売が大幅増加

現在、バイアグラ勃起不全治療の用途特許に対する無効審判が進行中だが、国内製薬会社18社,計33個のバイアグラ複製薬に対し、食品医薬品安全庁の市販許可を受け(2012年5月24日基準)、既にバイアグラ複製薬を発売した製薬会社も6社ある。
※CJ第一製糖(株),一洋(イルヤン)薬品(株),韓美(ハンミ)薬品,大熊(デウン)製薬(株),槿花製薬(グンファ)(株),ソウル製薬(株)

特許審判院による今回のバイアグラ勃起不全治療の用途特許の無効審決によって、今後国内製薬会社のバイアグラ複製薬発売はさらに増えると見られ、国内の勃起不全治療剤市場の競争も一層激しくなると予測される。
※国内における勃起不全治療剤市場の規模は2011年基準約1,000億ウォン、バイアグラはこのうち約40%(約400億ウォン)を占める。

バイアグラの用途特許の無効可否確定までは、今後1年前後かかる見込み

今回、特許審判院の無効審決であったが、バイアグラ勃起不全資料の用途特許の特許権者であるファイザーは、特許法院に無効審決の取り消し訴訟を提起することができるため、特許法院と大法院で無効可否が最終確定するまでは通常1年前後必要となり、それまでバイアグラの用途特許は、そのままファイザーの有効な権利として残ることになる。

ファイザーは、今後特許法院に審決取り消し訴訟を提起するとともに、国内製薬会社を相手に法院にバイアグラ複製薬販売禁止の仮処分申請および特許侵害による損害賠償請求訴訟などを提起するもと見られる。

特許審判院の無効審決があるだけに、国内製薬会社が関連訴訟で有利な位置にいるように見えるが、国内製薬会社が何ら制約なくバイアグラ複製薬を販売できるかは、無効審決に対する特許法院と大法院の判断を注意深く見守らなければならない。

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