知的財産ニュース 生命体から電気エネルギーを作る

2012年10月9日
出所: 韓国特許庁

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映画のワンシーンが現実のものとなる

SF映画『マトリックス』で最も記憶に残るシーンは、黒いレザージャケットを着た主人公「ネオ」が空中浮揚をして敵と戦うシーンだ。しかし、最も衝撃的だったシーンは、人間が「電池」になって電気エネルギーを供給する「人間電池工場」のシーンではないか。

映画『マトリックス』のワンシーンのように生命体を利用した電気の生産が現実味を帯びてきた。最近注目されている生物電池(Bio fuel cell)技術は、生物の代謝を利用して微生物や酵素から電気を生産する技術だ。生物電池は、有機物を利用するため、廃水・土壌・植物・動物、さらには、映画『マトリックス』のように人間から電気を生産できるため、応用できる分野が広範囲に及ぶ。

生物電池に関する研究は、1960年代に宇宙開発をリードしていた米国から始まった。宇宙ゴミを宇宙に捨てたり、地球に持ってきたりすることができないため、その問題を解決しようと研究に乗り出したが、微生物や酵素の媒体が持っている問題や電池の出力の限界により、研究が進んでいなかった。

しかし、最近では、環境にやさしく多様な応用ができる生物電池のメリットが注目されている。生物電池は、電気エネルギーを自主生産し、廃水など有機廃棄物を処理できるため、コストが低く、環境問題の解決に貢献できる。

生物電池のもう一つのメリットは、一般的な燃料電池に使用されている管理が容易でない水素や最近の資源戦争の原因となっているレアアース、高価な貴金属などの無機物を使用せず、有機の生体物質を利用することだ。そのため、韓国科学技術企画評価院(KISTEP)は今年3月、微生物燃料電池を10年後の韓国経済における10大有望技術の一つとして選定した。

生物電池は、どのような生体物質が使われているかによって、微生物燃料電池(MFC、Microbial Fuel Cell)と酵素触媒反応燃料電池(ECFC、Enzyme Catalyst Fuel Cell)に分けられる。微生物燃料電池(MFC)は、生ゴミや廃水などの有機性汚染物質を燃料とし、低コストで環境にやさしく汚染物質を処理する。一方、酵素触媒反応燃料電池(ECFC)は、生命体の血液の中にある糖分を燃料にして電気を生産するため、人体に挿入される小型医療機器から昆虫やマウスと融合したサイボーグ型生体ロボットに至るまで応用できる分野が広い。

韓国特許庁のデータによると、日・米・欧・韓など主要国における微生物燃料電池の分野の特許出願件数は、2005年まで57件に過ぎなかったが、2006年以降343件へと増加し、酵素触媒反応燃料電池の特許出願件数も2004年までの47件から、2005年以降は135件へと増加し、各国が生物電池の開発に力を入れていることがうかがえる。

国別には、米国が微生物燃料電池の特許出願件数が210件と最も多く、韓国は82件と、欧州(29件)や日本(21件)に比べて多くなっている。特に、韓国は、微生物燃料電池技術を実用化するにおいてネックとなっている単位出力向上のモジュール化技術など、構造体に関する出願件数が多い。一方、酵素触媒反応燃料電池では、日本が82件とこの分野をリードしており、その次が米国(66件)、韓国(26件)の順とされている。

生物電池分野では、まだ技術的に絶対的な優位を占めている国はおらず、研究開発の初期段階にあるだけに、産官学の有効な提携や他国に先駆けた投資などを行なえば、今後、韓国経済の一つの軸を担う産業として育成できると期待されている。環境エネルギー審査課パク・ギルチェ課長は、「生物電池は、今や映画の中の話ではなく、実現できる産業として浮上している。そのため、今後の利益創出産業として育成するために、ロボット技術や薬物伝達装置技術などと融合して応用分野を先取りし、技術を巡って争う時代に備えた特許の確保が必要だ」と述べた。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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