知的財産ニュース MP3プレヤ-、世界で初めて開発したのに3兆ウォン損害

2012年7月17日
出所: 国家知識財産委員会

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国家知識財産委員会、知的財産失敗事例を分析

大統領所属の「国家知識財産委員会」(共同委員長:国務総理・民間委員長の伊ジョンヨン)は、最近行なわれた知的財産事例の政策研究(「知的財産紛争による優秀技術の事業化失敗事例の分析研究」)を通じ、韓国のベンチャー企業が世界で初めて開発したMP3プレイヤー基盤特許が、事業化する過程で韓国企業同士の紛争で韓国国内特許は消滅し、アメリカ、欧州、中国などで登録された海外特許もアメリカの特許管理企業(NPE)に買収され、韓国企業が逆にライセンス料を支払っていることが判明したと発表した。

MP3プレイヤー[1] とは、アップルのiPodやスマートフォンなど、デジタルファイルで音楽を再生できるオーディオ・プレイヤーを意味し、1997年に韓国のベンチャー企業「デジタルキャスト」が世界で初めて開発した。

市場調査機関GMIDのデータに基づいて行なった調査によると、2005年から2010年までMP3技術が適用された端末機器(MP3 player、PMP、スマートフォン)主要国(韓国、アメリカ、中国、日本、EUなど)における販売量は、少なくとも13億台以上であり、1台当りの技術料率を2$[2] に計算した場合、該当期間において約27億ドル(3兆1,500億ウォン)のロイヤルティー収益が確保できたことを確認[3] した。

しかし、デジタルキャストは、研究開発と事業化に必要な資金が不足していたため、他の企業と戦略的提携を結ばざるを得なくなり、紆余曲折[4] の挙句、世界初のMP3プレイヤーである「エムピー・マン」を発売して世界的に注目はされたものの、他の競合他社がすぐ類似製品を発売し、特許無効訴訟を起こしたので、国内特許の権利範囲が縮小され、結局、特許料の未払いで消滅してしまった。

一方、海外で登録された権利は、有効に存続していたが、アメリカの特許管理会社(NPE)のTexas MP3 Technologiesにより全ての特許権が買収された。2007年にアメリカで国内外の大手企業に特許侵害訴訟が提起[5] された。訴訟は取下げられ、現在、国内企業の当事者間合意により、特許料を支払っているとみられる。

知識財産戦略企画団の朴ソンジュン知識財産振興官は、今回のMP3プレイヤーの事例は、特許の出願段階から特許管理・紛争において韓国の知財権が抱えている問題を反映していると述べ、請求範囲の不備によって強い特許としての出願ができなかったこと、韓国特許の高い無効率[6] と低い損害賠償額を背景に、国内競合他社が特許侵害に対して感じる負担が少なく、参入が容易だったことなどを問題として指摘した。

当該の特許を分析した結果、国内出願の段階では特許の請求範囲が精巧に作成されておらず、競合他社の無効主張にうまく対抗できなかったが、アメリカとヨーロッパに登録する際には請求範囲がきめ細かく設計され、無効主張に強い特許として登録されたことが今回の製作事例研究で明らかになった。

研究に参加したKAIST知識財産大学院の朴ソンピル教授は、「今回の研究により、韓国企業の特許権行使において、高い特許無効率と、1件当たり平均5千万ウォン程度の低い損害賠償金という二つの壁にぶつかって挫折してしまうことを、事例分析と弁護士・弁理士・企業などの専門家とのインタビューで確認した。特許の無効率を低下させる方策として優秀な審査官の確保や先行技術調査サービスの量的・質的強化だけでなく、特許要件の一つである該当技術の「進歩性」についての裁判所の判断基準を明確にすべきだ」と強調した。

さらに、損害賠償額を実情に合わせるためには、3倍賠償制度といった懲罰的な損賠賠償制度の導入も必要だが、その前に現在の損害賠償基準による1倍賠償からきちんと行なわれるようにすることが急がれているほか、制度の整備や裁判所の積極的な判決例蓄積も求められていると付けくわえた。

研究に参加したソウル科学総合大学院の髙ヨンヒ教授は、「アップルの場合、著作権問題を解決した後、iTunesサービスを展開して積極的にブランドとデザイン戦略を取り、iPodを文化的アイコンに位置付けるなど、様々な知的財産を経営戦略の視点で統合的に活用したが、韓国企業は、特許だけに重きを置いてきたのも問題だ」と述べた。

知識財産戦略企画団の髙キソク団長は、「今回の事例は、法律・経営・金融が足並みをそろえて初めて、きちんとした知的財産管理が可能になることを示した」と述べ、企業のコア無形資産である特許権が実効性を失えば、優れた技術だとしてもグローバル競争で淘汰されかねないため、国家知識財産委員会は、「知的財産の保護体制の整備など、関連制度の見直しを急ぎたい」と述べた。


注記

[1] 参考資料1を参照
[2] ドイツのFraunhofer研究所がMP3圧縮技術の基盤技術に適用している技術料率
[3] 参考資料2を参照(GMID: Global Market Information Database from Euromonitor)
[4] 参考資料3を参照
[5] 米Texas東部の連邦地方裁判所に三星電子、アップル、サンディスクを相手取って特許侵害訴訟を提起(2007.2.16)
[6] 参考資料4,5を参照

参考資料:1

図左:エムピー・マン、図右:初期のiPod

参考資料:2

2005年~2010年の主要国におけるMP3、PMP販売量
年度 販売台数
2005 69,590,700
2006 90,252,400
2007 112,891,100
2008 107,686,100
2009 98,216,700
2010 89,508,200
2011 568,145,200

※韓国、アメリカ、中国、日本、ドイツ、スペイン、オーストラリア、デンマーク、フランス、ギリシャ、ベルギー、イタリア、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スウェーデン、トルコ、イギリス、チェコ、ハンガリー、ポーランド、イスラエル、ロシア、メキシコ、豪州などの主要国
※資料:Global Market Information Database(GMID) from Euromonitor

2005年~2010年の主要国におけるスマートフォン販売量
年度 販売台数
2005 20,998,800
2006 37,111,300
2007 72,492,300
2008 122,994,000
2009 195,453,500
2010 352,756,100
2011 801,806,000

※韓国、アメリカ、中国、日本、ドイツ、スペイン、オーストラリア、デンマーク、フランス、ギリシャ、ベルギー、イタリア、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スウェーデン、トルコ、イギリス、チェコ、ハンガリー、ポーランド、イスラエル、ロシア、メキシコ、豪州などの主要国
※資料:Global Market Information Database(GMID) from Euromonitor

参考資料:3

MP3基盤技術の移転課程

参考資料:4

韓国における特許無効審判の無効率現状

年度

2006

2007

2008

2009

2010

無効率

61.1%

66.4%

69.6%

71.6%

67.4%

資料:特許審判院の特許無効審判による特許無効率の動向(知識財産研究第7巻第2号、韓国知識財産研究院)

参考資料:5

特許侵害訴訟における特許権者の勝訴率

国家

特許権者の勝訴率(1997~2004)

1

アメリカ

59%(全体)/67%(陪審員)

2

中国

33%

3

ドイツ

33%

4

フランス

55%

5

日本

20%

6

イタリア

40.7%

7

イギリス

26%(1997~2005)

8

カナダ

35.4%

9

スイス

85%

10

豪州

31%

11

オランダ

51%(2000~2004)

12

韓国

25%

資料:David Hill, Global Enforcement & Exploitation of IP(2007)

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