知的財産ニュース [世紀の特許合戦] サムスン電子の3大対応シナリオ

2012年8月26日
出所: 電子新聞

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米国カリフォルニア州裁判所で陪審員による評決が出された次の日の26日、サムスン電子未来戦略室のチェ・ジソン室長(副会長)と無線事業部のシン・ジョンギュン部長(社長)、無線事業部戦略マーケティングチームのイ・ドンジュ副社長は、午前からソウルのサムスン電子社屋に出勤した。前日、米国でアップルに完敗したためか、役員の表情は固まっていた。評決についての記者の質問にも口は堅く閉じられていた。記者が主要役員の携帯電話に電話をかけたが、「会議中」という音声メッセージが返してきた。

サムスン電子は、報道資料を通じて、「陪審員の評決に異議(評決不服法律審理、JMOL)を申立て、敗訴した場合には控訴する」という公式コメントを出しただけだ。

米国での訴訟で完敗したサムスンは、今後の訴訟合戦でも不利となる可能性が高まった。サムスンの経営陣は、今後の対策について集中議論したという。サムスンの対応カードは、攻勢のレベルに応じて、3つになると予想される。

控訴だけに集中…裁判所での名誉挽回=サムスン電子が公式な立場として出したカードだ。まず、陪審員評決について異議を申し立て、それが退けられた場合は、控訴する方法だ。陪審員の評決後、裁判官が最終判決を下す前まで、裁判部を相手にした説得作業も続けるというシナリオだ。

しかし、法的・手続き上に問題がなければ、陪審員評決が裁判長の判決につながるだけに、控訴に集中せざるを得なくなる。

米国の控訴審は、仮処分の結果と原審の結果における手続きと法理を問う。事実関係を問わないため、サムスン電子は、原審の際に重要な証拠が採択されなかった点を強調するなど、手続き上の問題を主張する可能性が高い。サムスン電子は、裁判所で採択されなかった証拠を報道資料として配布し、すでに控訴審を念頭に置いた「世論戦」を準備してきた。法的・手続き上の問題を浮き彫りにできると、原審の判決が無効になる可能性もある。無効にならなくても賠償額を大幅減らすことが出来る。

控訴後、アップルと舞台裏で協議=サムスン電子が控訴すれば、アップルも原審で認められなかった特許を控訴する可能性が高い。控訴審でも激しい法理論争は目に見えている。長たらしい攻防が続いているうちに、欧州・アジアなどでの本案訴訟の結果も次々と出されると見られる。

サムスン電子は、裁判の結果に応じ、法的争いとは別建てでアップルとの舞台裏での交渉を通じた和解策も模索できる。アップルがサムスン電子半導体とディスプレイ事業の最大顧客であるため、このカードは有効だといえる。既にイ・ジェヨン社長やチェ・ジソン副会長などの最高経営陣がアップルのティム・クックと数回にわたって公式・非公式に会談し、交渉を行なったため、相手の要求事項も把握している状況だ。

ただ、今回の評決でサムスンが完敗し、交渉においてサムスンは、以前より不利になった。今後、米国や日本などの主要国でサムスンが勝訴すれば、交渉の雰囲気を覆すことはできる。控訴の結果は、両側にとって重大な勝負であるため、判決前に交渉の妥結に至る可能性は、原審より高いというのが専門家の見方だ。特許訴訟の大半が控訴判決前の水面下での合意で終了した事例も多い。問題は、ロイヤルティだ。

追加訴訟・部品単価の引き上げなどで大攻勢=最大の部品供給先であるアップルに対し、消極的な防御にとどまっていた従来の戦略を反転させるカードだ。米国で完敗した後、サムスンの「ドル箱」であるスマートフォン事業が低迷となると、サムスン電子内で強硬論が力を得る可能性もある。

サムスン電子は、通信特許だけで約1万1500件を保有している。1000件にも及ばないアップルと勝負にならない水準だ。サムスンが大攻勢に乗り出すと、追加訴訟は、十分に可能な状況だ。特に、「NEW IPAD」に続き、アイフォン5でもLTEが採用されれば、LTE特許を多く所有しているサムスン電子の反撃カードはさらに増える。またの訴訟合戦が始まると、市場より裁判所でスマートフォンの強者を決める悪循環が続く恐れがある。

可能性は低いが、半導体・ディスプレイなど、アップルに供給している部品の価格を引き上げるか供給量を制限するシナリオも不可能ではない。アップルは、アイフォンのいわば頭脳にあたるアプリケーションプロセス(AP)をサムスン電子の半導体ラインで製造し、供給している。スマートフォンのLCDの多くもサムスンに依存している。APの場合、サムスン以外に品質が保証できるメーカーがおらず、サムスンが単価の引き上げに踏み切れば、アップルとしても相当な圧力になるだろう。しかし、サムスンとしても主な取引先を失う恐れがあるため、完全に敵に回さない限り、このカードは使えないと予想されている。

チャン・ジヨン記者

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