知的財産ニュース 「第9回韓国IPGセミナー」(特許庁委託事業)を開催しました。

2012年12月4日

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2010年3月に発足しました韓国IPGですが、去る12月4日、今年度3回目、通算9回目となる韓国IPGセミナーをソウル・ガーデンホテルにて開催し、日本企業における喫緊の課題である営業秘密保護と冒認出願対策について講演行いました。

日本企業からの人材流出などによる営業秘密漏えいの問題は、先般の新日本製鉄株式会社と韓国ポスコにおける営業秘密漏えい事件などにも代表されるように近年顕在化しており、その対策が大きな課題となっております。そこで、セッション1として、特許法人ムハンの千 成鎮パートナー弁理士を講師としてお招きし、「韓国における営業秘密保護制度と判決/実例紹介」についてご説明いただき、韓国特有の営業秘密保護制度や、営業秘密保護を受ける要件、判決例などのご紹介をいただきました。

また、ここ数年、第三次ピークとも呼べる日本企業の韓国進出ラッシュの中で、日本企業が韓国において直面しているもう一つの喫緊の問題として、他人が自社の標章などを勝手に商標として出願し、登録してしまうという冒認商標の問題があります。そこで、セッション2では、金・張法律事務所の李 瓊宣弁理士をお招きし、「冒認商標への対応」と題し、商標法における対策、救済措置の方法や、商標紛争の類型及び各社の事例についてご説明いただきました。

本セミナーにおいては、厳しい冷え込みの中、約40名のご参加をいただき、これらの問題が日本企業にとって重要であることがうかがえました。そこで、本セミナーの概要について、以下のとおりご報告いします。

セッション1:「韓国における営業秘密保護制度と判決/実例紹介」

講師:特許法人ムハン 千 成鎮パートナー弁理士

1. 保護を受けることができる営業秘密の要件

韓国における営業秘密は、不正競争防止及び営業秘密保護法(日本の不正競争防止法に相当)により保護されておりますが、当該法律により保護される営業秘密とは、日本と同様、以下の要素を充足していることが必要です。この要素を満たしていない情報は、たとえ書類やファイルに「機密」、「営業秘密」等と表示し、自社において営業秘密であると主張しても、法的には営業秘密に該当せず、保護を受けることもできないため、注意が必要であるとのご説明をいただきました。

  1. 公然と知られていないもの
  2. 独立した経済的価値を有する者
  3. 相当な努力によって秘密として維持されたもの

2. 営業秘密に対する侵害行為

営業秘密に対する侵害行為ですが、窃盗・詐欺等の不正手段や秘密維持義務のある者が不正の利益を得る等の目的によって営業秘密を取得・使用・公開する行為や、そのような不正行為があったことを知ったにも関わらず、それを取得・使用・公開する行為は、営業秘密侵害行為として民事上の責任を問われることになるとのご説明をいただきました。

また、不正な利益を得る等の目的でその企業の営業秘密を取得・使用・漏えいした場合は、5年以下の懲役(外国での使用等は10年以下)又はその財産上の利益額の2倍以上10倍以下に相当する罰金に処せられるとのことです。

3. その他の営業秘密等保護制度

韓国には、営業秘密保護に役立つ特有の制度として、(1)営業秘密原本証明制度と、(2)技術資料任置制度のご説明をいただきました。

営業秘密原本証明制度とは、営業秘密に対する侵害訴訟において、当該営業秘密の保有及び保有時点の立証を助ける制度であり、営業秘密原本証明センターに営業秘密書類を提出することにより当該サービスを受けることができます。当該制度は、比較的多く利用されていますが、提出した書類が営業秘密であったこと自体を証明するわけではなく、その時点にその書類が存在していたことを証明するものですので、注意が必要とのことでした。

また、技術資料任置制度は、営業秘密保護を目的としたものではありませんが、技術資料を任置することにより当該技術の流出を防止する効果が期待でき、また、訴訟の際には、当該技術資料の内容により任置者が開発したものと推定されるため、当該技術の開発元の証明が容易となるとのご説明をいただきました。

最後に、営業秘密に関する判決をご紹介いただきましたが、先の営業秘密として保護を受けようとする3要素、特に1と3についての争点が重要であることがうかがえました。実務上、情報をいかに秘密として客観的に維持・管理するか、この点が重要であると思われます。

セッション2:「冒認商標への対応」

講師:金・張法律事務所 李 瓊宣弁理士

1. 韓国商標出願・登録上の留意点

日本企業を対象とした場合、韓国における商標出願・登録上の留意点は、(1)色彩、ホログラム、動作、音、においなどが商標として保護可能であること、(2)指定商品が類区分当たり20個を超える場合、加算金が科せられること、(3)商標類区分5個類以上などの出願に対しては、使用意思に疑義があるとして拒絶理由が通知されること、(4)先登録商標との類似性判断時点が当該商標の出願時であること、(5)商標登録異議申立が権利付与前であること、(6)優先審査制度が設けられていること、(7)不使用取消審判制度において審判請求人の優先出願期間等があり、また、駆け込み使用による使用証拠否認規定がないこと、(8)指定商品追加登録制度があること等についてご説明いただきました。

2. 冒認出願対策

冒認出願に対する戦略樹立の重要性として、(1)権利の維持管理、社内体制の確立といった普段からの予防対策、(2)冒認出願に対する情報収集、攻撃方法、予想される反撃等の事前検討、(3)情報提供、無効審判、交渉といった対策の実施、(4)対策が終了した後の監視体制等事後処理の実施をご説明いただきました。

また、相手方の冒認商標に対する具体的な措置として、情報提供、異議申立、無効審判を通して、日本等海外で周知となっている商標の不正な目的による模倣出願/登録を拒絶、無効化にする方策(韓国商標法7条1項12号)、不使用取消審判(同73条1項3号)、不正使用取消審判(同項2、8号)、代理人不当登録取消審判(同項7号)等について、適用要件や判断基準のポイント等をご説明いただきました。

特に、2007年改正法により、海外の商標の模倣に対しては、当該商標の周知性が緩和されるなど(商標法7条1項12号の「顕著に」という文句削除)改正のポイントについてもご説明いただきました。

3. 商標紛争の類型及び事例研修

商標紛争の事例では、(1)商標が取引先等により無断で盗用・登録されていた事例、(2)韓国ですでに長く商標が登録され、営業が行われてきた事例、(3)不適切な権利主張によって商標権が無効・取消とされた事例、(4)偶然の一致によって同一・類似商標が登録されていた事例を各類型別に分けて実例と共にご説明いただきました。

いずれの事例も、それぞれの事情がありますが、いずれにしても以下の4点が肝要であるということで、やはり基本的な対策の重要性を改めて認識させられました。

  1. 韓国取引先との交渉に先立ち、まず出願を行っておくこと!
  2. 冒認出願に対する最も効果的な攻撃法案をみつけておくこと!
  3. 攻撃に先立ち、万一の反撃に徹底して備えておくこと!
  4. 冒認出願の登録/使用に対する長期間の放置は禁物!

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
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