知的財産ニュース 「お金になる強い特許」、コピーも回避も難しい

2012年2月17日
出所: 韓国特許庁HP

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羽根のないダイソンの扇風機、特許審判院の無効審判(1件)、権利範囲確認審判(2件)全て勝訴、市場から模倣品退出

羽根のないダイソンの扇風機が大人気となり、模倣品が市場に出現、ダイソンの特許に対する特許無効審判と権利範囲確認審判が特許審判院に各々提起されたが、ダイソンは強固に設定された特許権利範囲を土台に「特許権利が有効」とし、「模倣品はダイソンの特許権利の範囲に属する」という審決を受けた。

審決時、ダイソンは特許に対する無効審判請求資料が扇風機、エアコンなど空気調和分野の先行特許ではない、流体力学の教科書に出てくるベルヌーイの定理(空気など流体の流れで速度、断面積、圧力との関係を規定するもので、断面積が小さくなれば速度が速くなるという定理)ぐらい、ダイソンの羽根のない扇風機の特許は革新的で、権利範囲が広くかつ強力に設定されており、市場で販売された模倣品がその権利範囲を侵害せずに回避することができる方法を探すのが難しいほど強力な特許と評価された。

これは、特許審判院の無効審判で半分以上の特許権利が権利無効という審決を受け、権利範囲確認審判で特許権利者が勝訴する場合が25%程度に過ぎないことを考慮するとかなり異例なことだ。

ダイソンは、市場を守るために審査ハイウェイ(PPH)、優先審判制度など短期間に審査・審判を処理する特許制度を活用して迅速に紛争に対応し、解決する特許戦略を駆使

ダイソンの扇風機が韓国で正規輸入される前、有名インターネットショッピングモールでは、値段の安い中国製の模倣品が定価の20%程度の価格(定価は約40万ウォン以上、模倣品は約8万ウォン程度の価格)で堂々と販売されており、ダイソンは市場を守るために早期権利化、強い特許網の構築、迅速な紛争解決戦略を追求した。

まず、韓・イギリス特許庁間で締結された審査ハイウェイ制度(PPH,両国に共通の特許を出願中、先に出願した国家で特許可能と判断されれば、相手国に簡易な手続きで優先審査を申請後、早期に審査を受けられる制度)を利用して、韓国を含む米国、日本、中国、オーストラリアなど世界の主要国において特許出願後2ヵ月で(現在、一般の特許は出願後特許権を受けるまで20ヵ月以上所要)特許権利を確保し、模倣品が出現するや優先審判制度(請求後6ヵ月以内に審決処理)を活用して、模倣品を市場から追い出した。韓国に特許を出願後、約10ヵ月という短い時間に電光石火のように特許紛争を解決したことは、特許制度を戦略的に活用した結果だと評価されている。

韓国でもダイソンの扇風機のように新市場を創り出す革新的な製品(MP3プレーヤー,Sボードなど)を開発したが、強い特許権を設定できず、市場で失敗した例が多数あり、今後、強い特許権の確保が何よりも重要

世界で初めて開発されたMP3プレーヤー(1997年)、平地でも独自の推進力で進むことができる「エスボード」(2003年)等は、新市場を創り出す革新的な製品として市場での人気が高かったが、製品を保護できる特許権が確実に設定されておらず、模倣品の出現で結局倒産してしまった。

強い特許権の確保のためには、製品の開発段階から市場を念頭に置いた戦略的な研究開発(R&D)が重要だが、特許請求範囲に自己の権利が確実に設定されているかを出願段階に徹底的に検証することが何よりも重要だ。特許権を迅速に受けるのも重要だが、特許権利を強くかつ広く確保することが、結局、市場での企業の運命を決定するため、韓国企業も今後はダイソンのような特許戦略に、より積極的になる必要がある。

参考資料:ダイソンの羽根のない扇風機

逆発想の特許

「あんこのない饅頭」という言葉もあることはあるが、「羽根のない扇風機」というのはあるのか? 電気を利用した扇風機が最初に開発された1882年以降、羽根を利用するタイプは127年間変わらなかった。ところが、イギリスのダイソンは、これまでの発想をひっくり返す羽根のない扇風機を開発して世界を驚かせている。

※米国タイムズ紙選定2009年今年の発明品,2009年10月イギリスで「エアーマルチプライヤー」という名前で初めて発売

図:ダイソン扇風機の仕組み

下に位置する円筒形のハウジング内部に装着されたモーターが回転すると(1)ハウジングの側面から空気が流入して(2)流入した空気が、中が空洞の丸い輪の内部に移動した後(3)輪の内部の小さい隙間(‘A’地点、ノズル)を通じて抜け出るようになるが、この時排出される空気の速度は速くなり、圧力は低くなる。これにより(4)丸い輪の周辺にある外部の空気も輪の近辺に誘導される(5)この時、モーターを通じて吸入されて排出する空気の量より、15倍程度多くの外部空気が動いて強い風を引き起こす。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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