知的財産ニュース ファン・スンウォン氏の小説「夕立ち」の中に約300件の特許が

2012年6月19日
出所: 韓国特許庁HP

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ブロックバスター新薬「バイアグラ」の複製薬が流行しているなか、「天然物新薬」1)がFTA以降危機に陥っている韓国内製薬産業の新しい成長動力になると期待されている。

韓国特許庁は、2000年から2011年まで天然物新薬と関連した特許登録件数が2500件余りに達し、自生植物を利用した天然物新薬関連の特許が占める割合が2200件余りで90%に達したと明らかにした。

少年と少女のさわやかな初恋を書いたファン・スンウォン氏の短編小説「夕立ち」に登場する野草と野花などだけで、300件余りの天然物医薬に関する特許出願があるほどだ。

少女が小石を投げてショートヘアをなびかせながら消えて行ったアシ畑のアシは、2000年以降肥満治療剤などとして11件が特許出願された。

少年が飛び石で少女の真似をして恥ずかしがりながら走って行ったそば畑のそばは、血栓治療剤などとして38件、少年が少女に摘んであげた一握りの野菊は60件、萩の花8件、桔梗の花136件、そして少女が傘を傾けたように見えた黄色いオミナエシ花7件などの植物もアトピー、心血管系疾患および炎症治療剤などとして数多く特許出願された。

この他にも少女がソウルの学校の藤の花のようだと思った葛の花の葛は、痴呆症治療剤などとして24件出願されるなど、この短編小説一冊に登場する韓国内の自生植物だけでも2000年以降300件余りの天然物新薬関連の特許出願があった。

2000年から2011年まで医薬分野で付与された特許権においても、自生植物を利用した天然物新薬関連の特許が占める割合が非常に高いことが分かった。

この期間の天然物新薬と関連した特許登録は2488件で、このうち韓国人は2267件(91.2%)を占めた。

同期間に合成物質を原料とした医薬用途関連の全体特許登録件数(3593件、このうち韓国人1422件)に迫る数値だ。

韓国人の国際特許出願(PCT)中においても、天然物新薬関連の出願は328件と全体の医薬関連国際特許出願(1009件)の24%に達する。

このような統計から、韓国の自生植物を利用した天然物新薬関連の保有特許は世界的水準にあり、海外での知的財産権の確保のための準備も着実になされていることが分かった。

実際に発売されて国内で商業的に成功した天然物新薬も少なくない。累積売上高が3,000億ウォンを超える胃炎治療剤「スチレン錠(東亜製薬)」はヨモギ、1,000億ウォン台の関節炎治療剤「ジョインス錠(SKケミカル)」はウツボ草、ハヌルタリラ(天花粉)は良く知られている自生植物が原料だ。

最近、新しく許可された3種の天然物新薬の原料もツタ(シネチュラシロップ、気管支炎治療剤、安国薬品)、朝顔(モチリトン錠、消化不良治療剤、東亜製薬)などで、私たちの身近にある自生植物だ。

韓国は300種余りの韓国特産植物2)を含む4,500種余りの植物が自生し、伝統的にも自生植物を薬物治療に利用する知識が豊富で、天然物新薬の研究が活発なことが伺える。

天然物新薬が、複製薬中心の国内製薬会社が外資系製薬会社に対抗できる比較優位の分野と評価されるが、バラ色の未来だけが待っているわけではない。

登録された特許を見ると、許可または市販された天然物新薬が合成新薬に比べ非常に少ないのが現実だ。出願人の大多数を占める大学などの基礎研究機関の特許権が、製品化まで行きつくことができずにいるなど、今後は産・学・研間の特許権共有を戦略的に行なわなければならない。

また、植物と同じ遺伝資源を利用して得た利益を原産地国と必ず共有しなければならないという国際条約である名古屋議定書3)も伏兵となり、韓国の特産植物を積極的に活用するなどの新薬開発戦略が要求される。

これに伴い、特許庁は天然物医薬専門審査部門を設置・運営し、天然物に関する審査ガイドラインを制定、高品質の天然物新薬の特許権を獲得できるよう支援している。

ホン・ジョンピョ化学生命工学審査局長は「天然物新薬は、複数の植物抽出物を混合する場合が多く、特許権を保有していたとしても侵害の懸念が高いため、用途特許から前進して合成新薬のような原料物質自体の物質特許という強力な特許権を保有することに注力しなければならない」と述べた。


注記

1) 主に植物抽出物を利用して鉱物、動物または微生物からも得られる医薬品で、組成成分・効能などが新しい医薬品をいう。
2) 特産植物(endemic plants)とは、ある限定された地域でのみ生育する固有植物をいう。
3) 生物資源を活用して生じる利益を共有するための指針を盛り込んだ国際条約で、生物遺伝資源を利用する国は、その資源を提供する国に事前通知および承認を受けなければならず、遺伝資源の利用により発生した金銭的、非金銭的利益は相互に合意された契約条件に基づいて共有しなければならないという内容を含んでいる。 

参考資料:自生植物を原料とし、製品化に成功した天然物新薬の事例

”図:自生植物を原料とし、製品化に成功した天然物新薬の事例”

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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