知的財産ニュース 特許審判院、「SKイノベーション対LG化学の2次電池特許紛争」でSKイノベーションに軍配を上げた
2012年8月10日
出所: 韓国特許庁
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LG化学の2次電池セパレーターの特許について無効決定
特許審判院は、LG化学の2次電池セパレーターの特許が無効だと決定
韓国特許庁の所属機関である特許審判院は、8月9日、LG化学の2次電池セパレーターの特許(特許第775310号)についての無効審判※審決において、審判請求人であるSKイノベーションの無効主張を認め、LG化学のセパレーター特許の無効を決定したと発表した。
※2011.12.9.LG化学は、SKイノベーションが自社のセパレーター特許を侵害したとして特許侵害訴訟を提起し(ソウル中央地裁2011イ合130851号、現在継続中)、SKイノベーションが2011.12.20.にそれに反訴しLG化学のセパレーター特許について無効審判を請求したものだ。
今回、問題となったLG化学のセパレーター特許は、従来のセパレーターに塗布された活性層の気孔構造を利用したことで、これまでのセパレーターより熱収縮と電気的な短絡が発生しないため、電池の性能と安全性を改善した技術として知られており(資料1を参照)、LG化学は、「SRS(安全性強化セパレーター)」という名前で2次電池に採用し、携帯端末メーカーであるモトローラー、ソニーエリクソンやノートパソコンメーカーのHP、自動車メーカーの現代起亜自動車、GM、ルノ、フォードなどに販売しているか販売を準備していた。
特許審判院が無効を宣言した理由は、特許のコア技術であるセパレーターに塗布された活性層気孔構造についての特許請求範囲が広すぎて、先行技術に開示されたセパレーターの気孔構造を一部含めており、効果面においても電池の性能と安定性を改善した一部の効果からも大きな差が見られないため、LG化学の特許が先行技術における新規性が否定されるということだ。
LG化学の特許が無機物粒子の種類と大きさ、無機物の粒子とバインダー高分子の造成比を調整し、優れた気孔構造を持つ活性層を開発したとしても、
特許の請求範囲第1項には、特別にその技術の範囲を限定してはいないなど、その請求範囲が広すぎるうえ、一部の請求範囲には先行技術と同一な範囲の無機物粒子の種類、大きさと無機物の粒子とバインダー高分子の造成比が開示されている。
特許審判院の黄ウテック院長は、「新規性・進歩性の判断対象は、特許明細書に記載された特許請求範囲であり、LG化学の特許もその特許請求範囲を基準に先行技術に開示されたセパレーターと比較した結果、一部の構成が先行技術のセパレーターと同一していたので、その新規性が否定されただけであり、LG化学が現在生産・販売している「SRS」セパレーターが先行技術のセパレーターと完全同一だと判断したわけではない。」と述べた。
今回の無効決定は、2次電池市場が急成長しているなかで、大企業間の特許紛争に対し専門機関である特許審判院が下した判断だということに意義がある。
2次電池は、使い捨ての1次電池とは異なり、充電して再利用ができ、携帯電話の端末やノートパソコンなどに主に採用されており、ハイブリッド自動車や電気自動車の本格的な普及に伴い、その需要が急増すると予想されている(資料2を参照)。今回の特許紛争では、自動車市場におけるシェア争いがその背景にあったと解釈できる。
セパレーターは、2次電池のコア素材として利用されており、正極と負極が接続して短絡することを防止し、イオンの通路としての役割をしている(資料3を参照)。世界におけるセパレーター市場は、2009年から2011年までの3年間、年平均29.1%も成長し、2012年にはその規模が1兆2千億ウォンに達すると予想されている(資料4を参照)
関連メーカーは、2次電池分野が成長産業として浮上することを受け、市場のシェアを広げるため、法的・技術的に激しい攻防を繰り広げており、今回の決定は、2次電池のコア技術をめぐって韓国屈指の大企業同士での争いに特許審判院が下した判断だということに意味がある。
今回の審判は、今後韓国企業が強い特許を確保するためには、先行技術調査の強化および特許請求範囲の作成への投資拡大が重要だという教訓を示した。
新市場創出につながる革新的な製品と評価されている韓国企業開発のMP3プレーヤー(1997年)、平地でも自らの推進力で進行する「S-ボード」(2003年)などを開発して市場で高く評価されたが、商品を保護する特許権がきちんと設定されておらず、市場で模倣品が現れて結局倒産してしまった。
企業が強い特許権を確保するためには、商品の開発段階から特許情報を明確に分析し、市場を念頭に置いた戦略的な研究開発(R&D)計画を確立し、研究開発が終了した後も特許出願する際に改めて特許情報を検討し、特許請求範囲に権利が設定されているかを徹底に検証することが何より重要だといえる。
迅速に特許権を得ることも大事なことであるが、強くて適切な特許権利を確保することが市場での企業の運命を左右する鍵となるからだ。
LG化学のセパレーター特許についての無効確定は、特許裁判所と最高裁判所の判断を見守る必要がある。
今回、特許審判院の無効審決があったものの、特許権者であるLG化学は、特許裁判所に無効審決の取り消し訴訟が可能であるため、セパレーター特許についての無効確定は、特許裁判所と最高裁判所の判断を見守る必要があり、最高裁判所にまで行くと、1,2年程度の時間がかかると予想されている。
また、今回の審決は、LG科学の特許が基本的に先行技術より新規性と進歩性がないと判断したわけではなく、LG化学特許の特許請求範囲があまりにも広く作成されているため、先行技術が含まれていたという判断なので、LG化学が特許審判院に訂正審判を請求する可能性も残っており、2次電池についての特許紛争はしばらく続くとみられる。
- 資料1:セパレーター特許(第775310号)の主な内容
- 資料2:自動車向けリチウム2次電池市場の見通し
- 資料3:リチウム2次電池のセパレーターの概要
- 資料4:世界におけるリチウム2次電池市場の現況
資料1:セパレーターの特許(第775310号)の主な内容
特許請求範囲 (第1項) |
(a) ポリオレフィン系列のセパレーターを記載;及び(b)上記記載の表面及び上記記載に存在する気孔部の一部で構成された群から選択された1種以上の領域が無機物粒子及びバインダー高分子の混合物でコーティングされた活性層を含める有/無機複合多孔性セパレーターであり、上記活性層は、バインダー高分子によって無機物の粒子の間が連結及び固定され、無機物粒子の間隙容量(interstitial volume)により、気孔構造が形成された事が特徴の有/無機複合多孔性セパレーター |
---|---|
技術的特徴 |
活性層に無機物粒子の間隙容量(interstitial volume)により、気孔構造が形成され、安定性(高温で熱収縮が起きず、短絡しない)及び電池の性能(リチウムイオンの円滑な移動が行なわれる)が向上 |
図面 |
|
資料2:自動車向けリチウムイオン2次電池市場の見通し(資料:韓国輸出入銀行、2011)
区分 |
2010年 |
2012年 |
2015年 |
2018年 |
2020年 |
---|---|---|---|---|---|
自動車台数(万台) |
5,709 |
6,504 |
6,851 |
7,148 |
7,353 |
リチウムイオン2次電池自動車(万台) |
7 |
78 |
298 |
643 |
805 |
市場規模(百万ドル) |
675 |
5,256 |
16,324 |
31,234 |
38,234 |
資料3:リチウムイオン2次電池セパレーターの概要
セパレーターは、正極、負極、電解質などとともに、リチウムイオン2次電池を構成するコア素材のひとつであり、(1)正極と負極の物理的な接続による電気的な短絡を防止する役割と、(2)セパレーターの気孔に埋まっている電解質を通じてリチウムイオンが自由に移動できる通路としての役割を果たす。
負極にあったリチウムイオンがセパレーターを通して正極に向かう現象が「放電」であり、その反対が「充電」だ。
リチウムイオン2次電池とセパレーター
資料4:世界におけるリチウム2次電池市場の現況
リチウムイオン2次電池セパレーター市場の現況(資料:Solar&Energy, 2011)
世界におけるセパレーター市場は、2009年から2011年までの3年間、年平均29.1%成長し、2012年には、1兆2千億ウォン規模に拡大すると予想されている。
世界のリチウムイオン2次電池セパレーター市場は、5大メーカーが86%のシェアを占めている。米国のセルガード(Celgard)23.7%、トネン(Tonen)が19.2%、日本の旭化成(Asahi Kasei)が20.8%を占めており、韓国のSKイノベーションと日本の宇部(Ube)がそれぞれ12.5%、10.2%のシェアを占めている。
順位 |
会社名 |
シェア率 |
---|---|---|
1 |
セルガード(Celgard) |
23.7% |
2 |
朝日旭化成(Asahi Kasei) |
20.8% |
3 |
トネン(Tonen) |
19.2% |
4 |
SKイノベーション |
12.5% |
5 |
宇部(Ube) |
10.2% |
リチウムイオン2次電池完成品市場の現況(資料:日本IIT,2011)
2010年には、サムスンSDIが三洋を追い抜いて業界1位となり、LG化学が2011年ソニーと差を広げて3位となっている。
順位 |
会社名 |
生産量(百万セル/月) |
---|---|---|
1 |
サムスンSDI |
1,002 |
2 |
三洋(Sanyo) |
824 |
3 |
LG化学 |
759 |
4 |
ソニー(Sony) |
495 |
5 |
天津力神電池(Lishen) |
319 |
※LG科学は、セパレーターを2次電池に採用し、主に完成品を販売している。
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