知財判例データベース 既に退職していた従業員による職務発明の認定に関し、従業員性等が問題となり職務発明の補償金が認められた事例
基本情報
- 区分
- 特許,職務発明
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告、控訴人(職務発明補償金請求人ら) vs 被告、被控訴人(使用者企業)
- 事件番号
- 2021ナ1015職務発明補償金請求
- 言い渡し日
- 2026年01月21日
- 事件の経過
- 1審の原告敗訴部分の取消し(上告審進行中)
概要
原告Aは職務発明に係る基礎出願の出願時点では被告会社をすでに退職していたが、その後、被告が当該基礎出願に基づく優先権主張をし、米国で再発行特許の登録を受けるまでの過程で原告Aの寄与があり、また、原告Aは被告会社を退職後も被告会社に相当な頻度で出勤して業務をし、被告から金員も支給された事情を総合的に勘案し、原告Aに対し当該職務発明の補償金請求権を認めた。
事実関係
原告A、B、Cは、各々1986年~1993年、1991年~2000年、1991年~1998年の間、被告会社に在職していた。原告BとCは1994年頃、本件職務発明についての申告を被告に対して行い、被告は本件職務発明に係る特許を受ける権利を承継し、韓国で出願をして登録を受けた(以下、「本件韓国特許」という)。また被告は、韓国出願に基づいて優先権主張をし1998年頃に米国で特許登録を受け(以下、「本件米国特許」という)、2000年頃にこれに対する再発行特許出願をし2004年に米国再発行特許の登録を受けた(以下、「本件再発行米国特許」という)。
被告は、2003年12月頃及び2006年5月頃に各々互いに異なる標準化機構に上記米国再発行特許に係るRAND宣言(公正かつ合理的であり、非差別的な条件により実施許諾をする宣言)をした。
その後被告は、2007年頃と2009年頃に各々L社及びK社との間でクロスライセンス契約を締結し、本件米国再発行特許が当該契約の対象に含まれていた。被告は、原告A、B、Cがいずれも在職中であった1993年頃において、被告会社の「職務発明補償指針」を施行中であった。
原告らは、被告がL社及びK社に対して本件米国再発行特許の実施を許諾する代わりにL社及びK社に支払うべき実施料の免除を受ける利益を得たため、被告が得た利益のうち発明者の貢献度に相当する額については原告らに職務発明補償金として支払うべきであるとして、本件訴えを提起した。
これに対して被告は、原告A(1993年頃退職)は1994年頃に出願された本件職務発明の共同発明者ではなく、仮に共同発明者と認定されるとしても本件職務発明の発明当時に被告の従業員ではなかったため、職務発明補償金請求権を有しないと主張した。また、被告は、原告らは遅くとも2000年頃には被告会社からいずれも退職していたため、その時から職務発明補償金請求権を行使できたが、本件訴えはそれから10年が徒過した2017年5月に提起されたため、消滅時効が完成していると主張した。
判決内容
(1)原告Aは本件職務発明の共同発明者であるか
被告は、本件職務発明を第3世代移動通信の標準特許とするため、本件米国特許より広い権利範囲を確保しようと米国特許法上の再発行出願(Reissue)制度を利用して本件米国再発行特許を出願して登録を受けたところ、その過程で被告は原告Aとの協議を経て、本件韓国特許及び本件米国特許とは異なり、原告Aを共同発明者として追加した。このような出願の経緯に鑑みると、被告は、本件米国再発行特許の出願当時、原告Aが本件職務発明の共同発明者である事実を認識ないし認定し、本件米国再発行特許の出願及び登録において共同発明者である原告Aの協力が必須であると判断し、さらに本件韓国特許及び米国特許の出願過程で欠落していた原告Aを発明者として追加し、本件米国再発行特許の発明者の欠落に関連した瑕疵を治癒しようとしたものといえる。(中略)以上の事実ないし事情に鑑みると、原告Aは、本件職務発明を発明したというのが妥当である。
(2)原告Aは被告の従業員であるか
- 関連法理
旧特許法(2006年3月3日に法律第7869号で改正される前のもの。以下同じ)第39条第1項は、職務発明を「従業員・法人の役員又は公務員(以下「従業員等」という)がその職務に関して発明したものが性質上、使用者・法人、国家又は地方自治体(以下「使用者等」という)の業務範囲に属し、その発明をするに至った行為が従業員等の現在又は過去の職務に属する発明」であると定義しており、さらに同法第40条第1項は、「従業員等は、職務発明について特許を受ける権利又は職務発明についての特許権を契約又は勤務規程により使用者等に承継させ、又は専用実施権を設定した場合には、正当な補償を受ける権利を有する」と定めている。ここでいう従業員とは、使用者と雇用契約その他の関係において他人の事務に従事する者をいい、民法上の雇用契約による従業員のみならず、事実上の労務を提供する関係である場合を含み、雇用関係が継続的、計画的であることを要しない。 - 具体的判断
原告Aは、退職後の1993年4月頃から1997年2月頃まで、通常は週2~3日、学校の長期休み期間にはほぼ毎日、被告会社に出勤して無線通信システム開発の関連業務を行った。退職後も退職前と同種の業務を行い、被告の従業員である他の研究員らと共に無線通信技術に関する研究及び開発業務を行い、多数の発明をして被告に承継した。 - 関連法理
従業員等の職務発明補償金請求権は、一般に使用者等が職務発明に係る特許等を受ける権利や特許権等を従業員等から承継した時点で発生するが、職務発明に関する勤務規定等において職務発明補償金の支払い時期を定めている場合には、従業員等は、その定められた支払い時期に職務発明補償金請求権を行使することができる(大法院2011年7月28日言渡2009ダ75178判決等参照)。 - 具体的判断
本件職務発明に対する承継当時に施行中であった被告の1993年補償指針第16条第5号によると、本件職務発明に係る特許が他社に対するクレーム提起及び新規又は再契約の交渉においてロイヤリティー収入及び節減に顕著に貢献した場合、委員会の審議を経て有効特許補償金を支払うことになる。これは職務発明に関する勤務規定等において職務発明補償金の支払い時期を定めている場合に該当するため、原告らはこの支払い時期が到来した時に本件職務発明に対する補償金請求権をそれぞれ行使することができる。
原告Aには、被告から①1997年5月から1998年4月まで毎月末に2,080,200ウォンが、1999年1月から1999年12月まで毎月末に2,901,000ウォンが各々支払われ、②それ以外にも1997年5月頃から1999年まで、少ないときは78,320ウォン(1997年10月28日入金分)、多いときは2,212,912ウォン(1998年4月24日入金分)の金員が何度か持続的に支払われた。
先に認めた事実及び弁論の全趣旨により認められる事情を考慮すると、本件職務発明が完成して被告に承継される頃、原告Aは被告会社を退職していたにもかかわらず、被告会社に出勤して退職前と同種の業務を行うことにより、被告に労務を提供してその対価として被告から賃金が支払われる等、実質的に被告の従業員として勤務していたといえる。
先に認めた事実によると、本件職務発明は、原告Aを含む原告らが被告の従業員として勤務する間、被告の業務範囲に属する分野において原告らの職務に関連して発明したものであって、旧特許法により定めた職務発明に該当する。
(3)被告の消滅時効の抗弁に対する判断
被告が承継を受けた職務発明によりロイヤリティー収入及び節減がなされていたとしても、有効特許補償金はその収入や節減に顕著に貢献したことを要件としていることから、有効特許補償金は一律的、機械的に算定されるものではなく、その算定において一定の審査手続きを経る必要がある。このため1993年補償指針第16条第5号においては、委員会の審議を経るようにしている。従業員が退職したとしても、1993年補償指針第16条第5号の補償金算定方法は異ならないため、退職した従業員にも上記のような審議手続きが必要なことは同様である。
これについて被告は、被告が主張する消滅時効の起算点である原告らの各退職時に本件職務発明補償指針において定めた支払い時期が到来した点に関して何らの主張、立証もしていないため、原告らが求める本件職務発明の補償金に関する消滅時効が完成したということはできない。
専門家からのアドバイス
本件は上告審の結果を待つ必要はあるが、本件判決で判示された法理は会社の職務発明に関する補償指針を樹立するにあたって参考に値するものといえる。
具体的に法院は、職務発明の補償金請求権を有する従業員について、「民法上の雇用契約による従業員のみならず、事実上の労務を提供する関係である場合を含み、雇用関係が継続的、計画的であることを要しない」と判示している。
さらに法院は補償金請求権の消滅時効の成立に関し、本件職務発明発生時の当該会社の補償指針において「職務発明に係る特許が他社に対するクレーム提起及び新規又は再契約の交渉においてロイヤリティー収入及び節減に顕著に貢献した場合、委員会の審議を経て有効特許補償金を支払う」とされていたところ、このような審議を経たことに関して被告の主張、立証がなかったため、消滅時効が完成したといえないと判断した。使用者の立場では、将来的に、職務発明による特許に基づく他社との契約交渉においてロイヤリティー収入及び節減で使用者の利益を得る場合が想定されるが、こうした場合の職務発明補償金の支払いについて会社の職務発明補償指針をどのように規定しておくかは、将来の紛争発生に備え相当に重要な点であることを本判決は示唆している。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、徐(ソ)、權(クォン)(いずれも日本語可)
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195





閉じる