知財判例データベース 化粧品に使用された複数の単語からなる標章について、各単語をいずれも要部と認定して登録商標に類似すると判断した事例

基本情報

区分
商標
判断主体
大法院
当事者
被告人1(被告人2の会社の代表理事)、被告人2 vs 検事
事件番号
2024ド8174判決
言い渡し日
2025年11月20日
事件の経過
破棄差戻し

概要

被告人らの使用標章「CATALIC Narcisse Nudism Holic Matte Lipstick」における「CATALIC」、「Narcisse」、「Nudism」は、それぞれ使用商品との関係で識別力を有しており各部分のみで独立して商品の出所表示機能を有するといえるため、それぞれ使用商標の要部に該当し、要部の中の一つである「Nudism」は登録商標「누디즘 Nudism」(ハングル部分はNudismのハングル表記)に類似する。

事実関係

被害会社は韓国国内で認知度を有する化粧品会社で、2017年から2018年までリップスティック、化粧品等を指定商品とした「NUDISM Water Grip Cushion」、「NUDISM velvetwear cushion」、「누디즘 Nudism」等の商標について出願登録をした。
一方、被告人1は被告人2の会社(化粧品製造・販売法人)の代表理事であり、2020年頃、「CATALIC Narcisse Nudism Holic Matte Lipstick」という標章(「使用標章」)が付されたリップスティックをオンラインショッピングモールで広告・販売した。
検事は、使用標章が被害会社の登録商標の類似商標を同一・類似商品に使用した商標権侵害に該当すると判断して被告人らを商標法違反で起訴した。第1審は有罪を認定したが、原審(第2審)は、被告人らの実際の使用標章の要部を「CATALIC」と認定して登録商標には類似しないと判断し、無罪を言い渡した。これに対し検事が上告した。

判決内容

大法院は、結合商標の類似判断に関する基本法理について既存の判決を引用及び整理し、これに基づいて「2以上の文字又は図形が結合された結合商標の類否は、構成部分全体の外観、称呼、観念を基準に判断するのが原則(全体観察の原則)」であるとし、「構成部分のうち一般需要者に強い印象を与え、その部分だけで独立的な出所表示機能を果たす部分、即ち要部がある場合、適切な全体観察の結論を導き出すためにまずその要部をもって商標の類否を対比・判断することが必要(要部対比)」とした上で、要部の判断においては周知・著名性、一般需要者に与える印象の強さ、全体商標に占める比重、他の構成部分との相対的識別力、各部分の結合状態と程度、指定商品との関係、取引実情等を総合的に考慮する必要があり、要部といえる部分がなければ、商標全体を一つの単位とみて全体対比(全体の対比)により類否を判断する必要があるという点を提示した。

続いて大法院は、原審で採択した証拠に基づいて、使用商標を構成する各要素の識別力と機能を綿密に検討した結果、「CATALIC」は特別な意味が観念されない造語で使用商品(リップスティック)の品質・効能・用途等を直感させないため識別力が認められ、「Narcisse」はフランス語で「水仙」又は「(ギリシャ・ローマ神話の)美少年」を意味するが、これがリップスティックの性質・用途等を直感させる一般的表現であるとはいえないため使用商品との関係で識別力が認められ、「Nudism」は英語で「裸体主義」を意味するが、メーキャップ化粧品分野でありふれて使われる「ヌード(nude)」とは区別される概念として、「ヌード」が肌色系列のメーキャップ化粧品を指して識別力が弱いのに対し、「Nudism」は日常的に広く使われる表現とは言い難く一般需要者がその意味を直ちに観念するのは難しいことから、やはり使用商品との関係で十分な識別力を有するとして、それぞれを要部と判断した。

その他の構成要素(「Matte」、「Lipstick」、「Holic」)に対しては、「Matte」、「Lipstick」は光沢のないリップスティックという商品の性質(質感)を直感させる表現で、識別力がないか又は非常に弱く、「Holic」は英語の接尾辞としてその前の単語(「Nudism」)を強調する機能を果たすだけで独立した新たな観念を形成する要素とは言い難いため識別力がないか又は微弱であるとした。
また、実際の使用商標の使用態様において、4段の行に分離して「Narcisse」、「Nudism Holic」、「Matte Lipstick」、「CATALIC」を表示していた点に鑑みると、要部である「Narcisse」、「Nudism」及び「CATALIC」が互いに結合した一体としてのみ識別標識として機能するとはいえず、文字商標の類似判断における称呼の重要性を考慮するとき、単に「CATALIC」が大文字で表示されているという理由のみでその部分だけが強い印象を与えるとも断定できないと判断した。

大法院は以上の理由に基づいて、原審が使用商標と登録商標が類似しないとして商標権侵害自体を否定し故意の有無等に対する審理を省略したことは商標権侵害に関する法理を誤解した誤りがあるとして判決を破棄差戻しした。

専門家からのアドバイス

本判決は、結合商標においてどの部分を要部と認定するかについて、韓国大法院の既存の見解を改めて明確にした上で、その判断に基づく具体的な例を提示している点で有意味である。特に次の3つの点が実務的に重要と思われる。
第一に、単純な視覚的強調(大文字、位置、大きさ等)だけで要部が決定されるわけではないという点である。原審は「CATALIC」が大文字で上段に配置されていたことを重視してこれを要部と判断したが、大法院は実際の広告・表示様式、各要素の意味・識別力、消費者の認識の可能性等、より広い要素を総合的に判断している。特に「Nudism」は英語辞書的な意味では「裸体主義」を意味するもので、リップスティックの品質・用途を示す普通名称又は慣用表現ではなく、一般需要者がこれを直ちに理解するとも言い難いという点でむしろ識別力があると判断した。加えて、被告人が使用していた広告等の使用態様において標章を複数の段に分けて表現していた事情も、特定要素(「Narcisse」、「Nudism」)が独立して認識され得ることを裏付ける根拠として作用している。したがって商標の類否判断をする際には、商標登録自体だけでなく実際の使用態様(広告画像、商品包装、オンラインページ構成等)も綿密に確認する必要があるという点については、注意を重ねるに越したことはない。
第二に、同種の商品においてありふれて用いられる単語(nude)があるからといって、それから派生した単語(Nudism)の識別力が弱まるとは必ずしも言えないという点である。業界内で似たような単語をある程度目にするという事情だけで、識別力を喪失していない他人の登録商標と同一・類似の単語を標章として使用する場合には、その前後に造語を結合したり修飾語を追加したりしても、登録商標との類似性は認められる可能性がある。そうした造語を用いる程度では侵害の回避は難しい場合があるという点についても留意すべきといえる。
第三に、本件は商標法違反を扱った刑事事件であって、日本の事情とは異なり韓国では完全な模倣品ではない類似商標の事案であっても刑事事件化され得るという点で、韓国での侵害リスクに関してはより綿密な調査や商標権の確保が必要といえる。韓国の捜査機関による商標法違反に係る捜査の着手及び進行は、一般的に日本に比して能動的である。特に日本製品は韓国代理店を通じて韓国国内で販売されるケースが多いため、その場合に捜査を受ける当事者は韓国代理店で日本側からコントロールが容易ではなく、こうした点も見越して、韓国での商標の使用状況については入念な点検が必要といえよう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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