知財判例データベース 特許権の共有者が他人に特許発明の実施をさせる場合に、共有者の自己実施行為と認められる範囲を提示した特許法院判決

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告A vs 被告B
事件番号
2023ナ11078損害賠償(知)
言い渡し日
2025年05月28日
事件の経過
確定

概要

特許権侵害による損害賠償請求訴訟において、被告は、特許権の共有者から納品を受けて被告実施製品を販売したことは共有者による自己実施行為であって特許権を侵害しないと主張した。これに対して特許法院は、被告実施製品の取引構造や税金計算書等の証拠によると被告が主導的に被告実施製品を生産したといえ、その実施行為の全過程が共有者の計算の下、その指揮・監督下でなされたものとは認められず共有者の自己実施行為に該当しないとし、被告による特許権の侵害を認めた。

事実関係

原告は、携帯電話ケース、携帯電話スキンの開発・製造・卸小売業等を目的として設立された会社であって、携帯電話スキンを発明の名称とする特許権を訴外Fと共有している。被告は、携帯電話アクセサリーの製造・流通業等を目的として設立された会社であって、アイフォーン、ギャラクシーのモデルに使用できるライティングケース製品(以下「被告実施製品」という)を輸出し、又はオンラインショッピングモール等を通じて国内に販売している。被告実施製品であるライティングケースは、特許請求項4、6の発明の構成要素をすべて含む内蔵フィルムシートを用いて製作されている。当該フィルムは訴外株式会社Gでのみ生産され、ライティングケースは当該フィルムの供給を受けて訴外株式会社Hでのみ組立・生産された。Hが生産したライティングケースは、被告のみならずH、Fが代表理事である株式会社Iにも販売し、Fは2019年1月5日に個人事業体であるJを設立して直接販売もした。

原告は2018年9月6日に被告らを相手取り、被告らが製造・販売するライティングケースが特許権を侵害することを理由として侵害差止等を求める仮処分を申し立て、仮処分法院は2019年4月1日に上記ライティングケースが特許発明を侵害していることが疎明されたとし、「被告らはライティングケース製品の生産、譲渡等をしてはならない」とする仮処分決定をした。

さらに、原告は被告に対して特許権侵害による損害賠償額として7億ウォン及びこれに対する遅延損害金の支払いを求める損害賠償請求訴訟を提起し、1審法院は損害賠償額を約1億ウォンと認定した。これに対して原告は1審法院の判決に控訴し、被告に対して損害賠償の明示的一部請求として7億ウォン及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めた。

特許法院では、被告が2017年10月から2020年12月まで被告実施製品を販売する等の方法で特許請求項4、6の発明を実施することによって当該発明に係る原告の特許権を侵害したとする原告の主張に対し、被告は、Fが「J」という商号により個人事業者登録を終えた2019年1月頃以後はFから被告実施製品の納品を受け、Fは特許請求項4、6の発明に係る特許権の共有者として原告の同意がなくても自己実施が可能であるため、Fから被告実施製品の納品を受けて販売した行為は、原告の特許権を侵害しないと主張した。

判決内容

特許法院は、まず関連法理として下記の内容を提示した。
「特許権が共有に係る場合には、各共有者は契約により特別に約定した場合を除いては、他の共有者の同意を受けずにその特許発明を自ら実施することができるが(特許法第99条第3項)、その特許権について専用実施権を設定するか又は通常実施権を許諾するには、他の共有者すべての同意を受けなければならない(特許法第99条第4項)。ところで、共有者の自己実施範囲を過度に広く解釈するようになる場合には、特許法第99条第3項と第4項の区別がなくなり、他の共有者の権利を害するおそれがあるため、共有者が特許発明を直接実施せずに他人に実施させる場合には、その実施行為の全過程が共有者の計算の下、その指揮・監督下でなされたのであれば、共有者による自己実施ということができる。

続いて特許法院は、2019年1月頃以後にライティングケースの生産・販売の全過程がFの計算の下、その指揮・監督下でなされたと認めるには不十分で、他にこれを認める証拠がないため、被告の主張は受け入れ難いと判断した。具体的な判断根拠は、下記の通りである。

(1)被告実施製品の2017年10月から2018年3月までの取引構造は、被告がPにフィルム製作を依頼して納品を受け、上記フィルムをHに供給すると、Hがこれを使用してライティングケースを製作し被告に納品する方式であった。また、Hは、被告にライティングケースを納品のみするのではなく、直接これを販売もした。したがって、被告とHが被告実施製品を主導的に生産・販売したものといえる。

(2)被告は、仮処分事件において「Fが100%持分を保有しているIを通じて取引してきたため、Fの自己実施により特許侵害は発生しないと判断した。ただし、FでなくI名義で取引された物品の問題が残っている可能性があるため、F名義に遡及して修正することにし、元々I名義で納品されていた被告実施製品を被告がIに返品し、これを再度F名義で供給を受ける形態により、発注書と税金計算書、取引明細書等の各種書類に記載されていた名義者をIからFに修正した」旨の主張をしたことがある。したがって、元々の被告とIの取引内訳が被告とFの取引内訳に変更されたと認められる。

(3)被告が主張する取引構造によれば、FはGにフィルムの製作を依頼して納品を受け、上記フィルムをHに供給すると、Hがこれを使用してライティングケースを製作してFに納品し、Fがこれを被告に販売しなければならない方式である。税金計算書によると、2019年1月頃から2019年5月頃までHが製造した被告実施製品がFを経て被告に納品されたことが明らかになってはいる。ところが、HとFの間の2019年2月22日付取引は、被告が元々Iから納品を受けていた被告実施製品を返品した後、これを再度F名義で供給を受けるように変更する過程においてHも当該部分に対する税金計算書を新たに発行したものである。また、HとFの間の残りの取引部分に対する税金計算書の取引金額の合計は、Hが2020年4月3日に同一額相当のマイナス税金計算書を発行することにより上記売上部分に対する取引を取り消したものといえる。したがって、FがHから被告実施製品の納品を受けてこれを被告に供給したとはいい難い。

(4)被告は、FがHと被告を指揮・監督したことを確認できる証拠としてFが2019年4月10日ないし2019年4月22日に発送したメールを提出したが、上記メールはいずれも仮処分決定が下された2019年4月1日以後に作成されたものであり、その内容によるとしてもそれはライティングケースに関連した取引中の極めて一部分に過ぎないため、上記証拠のみによりライティングケースの製造・販売の全過程においてFが被告とG、Hらに対して指揮・監督したとはいい難い。また、被告実施製品の生産・販売の全過程において発生した収益がFに帰属するといえるだけの資料もない。

(5)以上の内容を総合すると、被告とHが主導的に被告実施製品を生産する基本取引関係は変更されていない状態において、Fは、単に被告とHに対して特許発明の実施許諾をした対価として、取引の中間段階で発生した取引差益の支払いを受ける方式により実施料の支払いを受けたものと認められる。

以上により、特許法院は、被告が原告の特許権を侵害することにより被告は原告に特許権侵害による損害を賠償する責任があるとして、原告の請求を認容した。

専門家からのアドバイス

韓国特許法では、特許権が共有に係る場合、各共有者は契約により特別に約定した場合を除いては、他の共有者の同意を受けずにその特許発明を自ら実施することができるものとされている。ただし、共有者が特許発明を直接実施せずに他人に実施させる場合もあり得るところ、こうした場合における共有者の自己実施の範囲をどのように認定すべきかについては明確に判断された事例がこれまでなかった。
本件において特許法院は、その実施の全過程が共有者の計算の下、その指揮・監督下でなされたものである場合には共有者の自己実施行為と認めるという判断基準を提示した。これに基づき、本件において被告が共有特許権者から製品の納品を受けて販売した行為は、取引構造、税金計算書等の証拠により被告が主導的に生産販売した行為であるため、共有者の計算の下、その指揮・監督下でなされたものであるとはいえず、共有特許権者の自己実施とは認めなかった。
本件は、特許権の共有者が特許発明を他人に実施させる場合において、他の共有者の同意を受けなくてもよい自己実施行為としてどこまで許容され得るかの判断基準を提示した事案として有意義である。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、徐(ソ)、權(クォン)(いずれも日本語可)
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195