知財判例データベース 無効審判の審決取消訴訟の弁論終結前に特許権者が訂正審判を請求した場合に、当該審決取消訴訟を進行するか否かの判断基準を提示した事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告(特許権者)vs 被告(無効審判請求人)
- 事件番号
- 2023ホ10736登録無効(特)
- 言い渡し日
- 2025年01月16日
- 事件の経過
- 請求棄却(上告放棄で確定)
概要
無効審判の審決取消訴訟の弁論終結前に特許権者が訂正審判を請求し、その結果が確定するまで訴訟の進行を保留してほしいと要請した後、法院は訂正審判の審決が出るまでは訴訟の進行を保留したが、訂正審判の棄却審決が出た後、法院は諸般の事情を総合的に考慮し、訂正審判の審決取消訴訟の結果が出るまで待つことなく審理を進め、請求棄却の判決を下した。
事実関係
原告の特許発明は一体型インプラントに関するものである。以降は、発明の実体的内容についての説明は省略し、韓国の無効事件における手続的な面を中心に説明する。本事件の時系列的な進行は次のとおりである。
| 無効事件 | 訂正事件 |
|---|---|
| ‘22.03.28. 本件特許の一部請求項に対して被告が無効審判を請求(先行発明1,2を提出) | |
| ‘23.02.14. 無効審決(先行発明1又は2により進歩性欠如) | |
| ‘23.03.08. 原告が本件審決取消訴訟を提起(その後、被告が先行発明4を追加で提出、弁論期日が2回開かれる) | |
| ‘23.10.05. 原告が訂正審判を請求する予定で進行を保留してほしいと要請 | ‘23.10.31. 原告が訂正審判を請求 |
| (進行保留) | ‘24.04.23. 訂正棄却審決 |
| 原告は、右の取消訴訟を先に審理し、その結果が出た後に本件審理を進めるよう要請 →法院はこれを退けて訴訟を進行 |
‘24.05.10. 原告が上記審決に対する取消訴訟を提起 |
| ‘25.01.16. 本件判決言渡(請求棄却) | |
| ‘25.06.13. 請求棄却判決 |
原告は、被告が無効審判では提出しなかった先行発明4を本件審決取消訴訟の段階で新たに提出したため、これによる無効事由に対して防御するために訂正審判を請求した上で、特許権者にとって公正な手続的機会を付与するために訂正審判事件が終結した後に本件訴訟を進行すべきであると主張した。
判決内容
判決は、先行発明4により本件特許発明の進歩性が否定されるかについて先ず判断し、進歩性が否定されると判断した。これに続く本件訴訟の手続的な問題に関する法院の判断について、以下、紹介する。
訂正審判請求事件の終結後に本件訴訟が審理・判断されるか否かについての判断
(1)関連法理
特許法院は、審決取消訴訟における唯一の事実審法院であり、大法院2020年1月22日言渡2016フ2522全員合議体判決によれば、特許権者は「特許無効審判に対する審決取消訴訟の事実審弁論終結後に訂正審決の確定という事由」をその審決取消訴訟の判決に係る上告理由として主張できなくなるため、事実審法院としては、訴訟進行中に特許権者に訂正の機会を適正に付与することにより、訴訟手続において適正な手続的保障がなされるようにしなければならない。
ただし、特許無効審判に対する審決取消訴訟の進行中に特許権者に訂正の機会を手続的に保障することの意味は、特許権者が訂正審判請求をした場合において、訂正審判請求の結果が確定するまで機械的に上記審決取消訴訟の進行を保留しなければならないということを意味するものではない。訂正審判請求に対する特許審判院の審決、さらにこれに対する審決取消訴訟に関する特許法院及び大法院の判決がすべて言い渡されるまで特許無効審判に対する審決取消訴訟の進行を保留することになれば、特許無効に対する判断が長期間にわたり不確定な状態に置かれて特許紛争の迅速な解決を妨げることになるからである。
特許権者が事実審弁論終結前に訂正審判を請求し、訂正後の明細書等により判断してほしいと要請した場合、事実審法院としては、訂正理由の具体的内容、訂正審判請求が認容される可能性、訂正が認容される場合に審決取消訴訟の結論に影響を及ぼすか否か、過去の訂正内訳、訂正の機会が保障されていたか否か、訂正審判を請求した主な目的が訴訟を遅延させるためのものか否か等を総合的に考慮して弁論を終結するか否かを合理的に決定すべきである(上記2016フ2522全員合議体判決の多数意見に対する補充意見)。
(2)具体的判断
本法院に顕著な事実、各証拠の記載及び弁論全体の趣旨に照らして認められる本件の経過(上述の事実関係に記載)に照らし、訂正審判請求事件の終結後に本件が審理・判断されるべきである旨の原告の主張は受け入れない。
① 原告は、2023年3月8日に本件審決の取消しを求める審決取消訴訟を提起し、本法院は2023年7月6日に第1回弁論期日、2023年9月14日に第2回弁論期日をそれぞれ進行した。その後、原告は2023年10月5日に本件特許発明について訂正審判を提起する予定であるため、その結果が出るまで次の弁論期日を「追って指定」にしてほしい旨の手続進行に関する意見を提出し、本法院は訂正審判の結果確認のために弁論期日を「追って指定」にして特許権者の訂正の機会を手続的に保障した。
② 原告は、訂正審判請求を棄却した審決の取消しを求める訴えを提起したが、本件請求項1の訂正発明は、通常の技術者が先行発明4に先行発明1を結合する方法により容易に導き出すことができ進歩性が否定されるため、特許法第136条第5項の訂正要件を満たさないものと認められるものである。したがって、同様の趣旨により原告の訂正審判請求を棄却した上記審決に明白な違法があるとは認められない。
③ さらに、本件請求項1及び請求項2の発明を無効とする本件審決が確定したとしても、本件特許発明の全請求項が無効となるわけではないため、本件請求項3の発明をはじめとする残りの請求項を基礎とする原告の訂正の機会が奪われるものでもない。
専門家からのアドバイス
韓国の特許法院(日本の知財高裁に該当)で行われる無効審判の審決取消訴訟は、日本の場合とは異なり「無制限説」に立脚して進められるため、審決では判断されなかった新たな先行発明や新たな無効事由を主張することが許されている。これに対して特許権者としては、新たな無効事由への対応として、審決取消訴訟の中での対応とは別途に、訂正審判を請求する選択を検討することが通常的である。
この場合、従前は、無効審判の審決取消訴訟の弁論が終結した後であっても訂正審判で特許の訂正が認められれば、仮に特許権者が審決取消訴訟では敗訴したとしても、それに対して大法院に上告を提起し、訂正の認容により判断対象が変更されたという理由に基づいて判決の取消しを求めることで、大法院はこれを認めていた。
しかし、本件判決の判示内容でも引用されている2020年1月22日言渡2016フ2522全員合議体判決により、特許法院での弁論終結後に確定した訂正認容の審決については上告審で考慮しないものと判例が変更されている。この結果、特許権者としては、特許法院での審決取消訴訟の進行において弁論終結前に訂正を認める審決を確定させることが重要となっている。ところが、特許権者が審決取消訴訟の弁論終結前に訂正審判を請求したとしても、審決取消訴訟を審理する特許法院が上記訂正審判の結果を待つかどうかについては法律上の強行規定がないため、幾分かは法院の裁量に委ねられるといった状況となっている。
本件において法院は、特許権者に手続的機会を保障するために訂正審判の審決までは訴訟の進行を保留したが、審決で訂正が棄却された後は、当該審決に対する取消訴訟の結果が出るまで保留することはしなかった。法院は、審決取消訴訟を進行させるか否かに関する判断基準として様々な要素を列挙しているが、本判決で示された全体的な趣旨は、結局のところ「訂正によって無効事由が解消されるか否か」が最も重要であり、これにより法院も本件訴訟を進行させたものと考えられる。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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