知財判例データベース デジタル治療機器に関する発明が精神活動を活用したものであるとして産業上の利用可能性を否定した事例

基本情報

区分
特許
判断主体
特許法院
当事者
原告 A VS 被告 知識財産処審査官
事件番号
2024ホ15066登録無効(特)
言い渡し日
2025年09月18日
事件の経過
確定

概要

特許発明は、幼少年の神経学的障害を薬物を使用せずに治療する治療システムの発明であって、管理サーバー、ネットワーク、クライアント端末及びデータベースを含み構成される。特許発明は、管理サーバーが保護者に特性リスト及び治療経過リストを提示し、保護者の質問チェック結果に基づいてこれを分析した後、同結果に応じて管理サーバーが第1~第6のミッションを提示することで実現される。特許法院は、特許発明は全体的に見たとき、当該発明を実施するための必須かつ核心的な構成要素として人間の精神活動を全般にわたり活用していると解するのが相当であり、自然法則を利用したものであるとは認め難いことから産業上の利用可能性がないと判断した。

事実関係

原告は「3級知的障害、言語障害及び身体障害を有する幼少年の神経学的治療方法及びシステム」を発明の名称とする発明について2020年2月6日に出願を行い特許登録を受けた。被告は2023年10月18日に特許審判院に原告を相手取って無効審判を請求し、特許審判院は、特許発明が産業上利用できる発明に該当しないという理由で職権審理理由を通知し、無効審決を下した。原告はこれを不服として特許法院に審決取消訴訟を提起した。

特許発明の請求項1は次のとおりである。

[請求項1]
管理サーバー、ネットワーク、クライアント端末及びデータベースを含んでなる幼少年の知的障害、言語障害又は身体障害治療システムであって(以下「前提部」)、
前記管理サーバーは、前記クライアント端末を通じて治療対象障害に該当するか否かを判断する対象判断部、治療対象障害に該当する場合、前記クライアント端末を通じて保護者にミッションを提示するミッション提示部、保護者のミッション進行後、前記クライアント端末を通じて入力された治療経過によって治療効果があるか否かを判断する効果判断部、及び効果判断部の判断結果をクライアント端末に出力する結果出力部を含み(以下「構成要素1」)、
前記ミッション提示部は、神経網損傷要素を追跡して遮断するための第1ミッション群、神経網損傷要素を除去して回復するための第2ミッション群、神経網を活性化させるための第3ミッション群、神経網を回復させて神経伝達物質の生成を促進するための第4ミッション群、神経伝達物質を本格的に生成するための第5ミッション群、及び神経体系の安定及び障害を回復して治療を終了するための第6ミッション群を含む保護者ミッションを順次提示し(以下「構成要素2」)、
前記第1ミッション群は、行動を強力に制止しないこと、(中略)、衣服及び靴は風通しのよいものを身に着けさせることからなるミッション群の中から選択される4つ以上の細部ミッションを含み、前記第2ミッション群は、特別な行動を制止しないこと、(中略)、取っ組み合い、戯れに積極的に反応してあげることからなるミッション群の中から選択される4つ以上の細部ミッションを含み、前記第3ミッション群は、読書を禁止して読んであげること、(中略)、治療対象者の嘘や想像力による虚構的表現に対して呼応してあげることからなるミッション群の中から選択される4つ以上の細部ミッションを含み、前記第4ミッション群は、冬に野外活動を多くさせること、(中略)、規則遵守を強要しないことからなるミッション群の中から選択される4つ以上の細部ミッションを含み、前記第5ミッション群は、頭を深く下げる挨拶を強要しないこと、(中略)、見下さないことからなるミッション群の中から選択される4つ以上の細部ミッションを含み、前記第6ミッション群は、家庭教育は率先垂範で示すこと、(中略)、旅行をすることからなるミッション群の中から選択される4つ以上の細部ミッションを含む(以下「構成要素3」)
ことを特徴とする幼少年の知的障害、言語障害又は身体障害治療システム。

判決内容

特許法院は、まず関連法理として下記の内容を提示した。
特許法第2条第1項は自然法則を利用した技術的思想の創作であって高度のものを「発明」と定義していることから、出願発明が自然法則を利用したものでないときには、特許法第29条第1項本文の「産業上利用することができる発明」の要件を満たさないことを理由にその特許出願は拒絶されるべきであるところ、出願発明が自然法則を利用しているか否かは請求項全体として判断すべきであるため、請求項に記載された発明の一部に自然法則を利用している部分があるとしても請求項全体として自然法則を利用していないと判断されるときには特許法上の発明に該当しない(大法院2008年12月24日言渡2007フ265判決等参照)。
特許を受けることができる発明は完成したものでなければならず、完成した発明というのは、その発明の属する分野で通常の知識を有する者が反復実施をして目的とする技術的効果を得ることができる程度に具体的、客観的に構成されている発明をいう(大法院1994年12月27日言渡93フ1810判決等参照)。

続いて特許法院は、特許発明は人間の精神活動を必須の構成要素としているため自然法則を利用したものであるとは認め難く、通常の技術者が同様に反復して再現可能であるとも言えないことから「産業上の利用可能な発明」に該当しないと判断した。具体的な判断内容は下記のとおりである。

(1) 自然法則の利用に該当するか
特許発明は、3級知的障害、言語障害及び身体障害等の幼少年の障害を薬物を使用せずに24回前後の相談によって治療又は予防する神経学的治療システムを提供することを解決しようとする課題としており、当該治療システムを用いれば知的障害、身体障害、言語障害の3大神経学的障害を薬物を使用せずに6~8ケ月以内に治療することができ、3級障害を治療することによって2級、1級障害の発生を予防できる予防効果を有すると記載している。

上記課題の解決手段として、特許発明の治療システムは、①(前提部)管理サーバー、ネットワーク、クライアント端末及びデータベースを含み、②(構成要素1)管理サーバーは、クライアント端末を通じて治療対象障害に該当するか否かを判断し、治療対象障害に該当する場合、クライアント端末を通じて保護者に適正ミッションを提示し、保護者のミッション進行後、クライアント端末を通じて入力された治療経過を通じて治療効果があるか否かを判断する機能を行い、③(構成要素2,3)保護者に提示されるミッションは、神経網損傷要素を追跡して遮断、神経網損傷要素を除去し回復、神経網活性化、神経網を回復させ神経伝達物質の生成を促進、神経系の安定及び障害回復のための第1~第6のミッションで構成されることを特徴とする。

このうち特許発明におけるデータベースには、「治療対象障害に該当するか否かを判断するための行動リスト」と「治療効果があるか否かを判断するためのミッション別又は時期別に予想される治療経過リスト」が格納される。しかし、上記の行動リスト及び治療経過リストに関しては、特許発明において各リストがどのようなものであるかについて具体的提示がなく、これらは専門家の経験やノウハウ、性向により変わり得るものであると思われる。

また、特許発明における管理サーバーは、管理サーバーが提示する「治療対象障害に該当するか否かを判断するための行動リスト」に保護者がチェックをして作成した結果を根拠として治療対象障害に該当するか否かを判断し、同様に「治療効果があるか否かを判断するためのミッション別若しくは時期別に予想される治療経過リスト」に保護者がチェックをして作成した結果を根拠として治療効果があるか否かについても判断する。しかし、各リストにチェックをしてその該否を決定するのは、保護者の個人的な性向や障害児の保育経験、主観的な観察内容及びそれによる判断に基づくものである。したがって、これらはいずれも人間の精神活動を必須の構成要素としているため自然法則を利用したものであるとは認め難く、通常の技術者が同様に反復再現可能であるとも言い難い。

特許発明は、管理サーバーが保護者に特性リスト及び治療経過リストを提示し、保護者の質問チェック結果に基づいて管理サーバーの対象判断部及び効果判断部がこれらを分析した後、その質問の結果は管理サーバーによる第1~第6のミッション提示のための判断基準として活用する。つまり、特許発明は全体的に見たとき、当該発明を実施するための必須かつ核心的な構成要素として人間の精神活動を全般にわたり活用していると解するのが相当であるため、自然法則を利用したものであるとは認め難い。

(2) 未完成発明に該当するか
特許発明は、治療対象者の神経網損傷の追跡、遮断、除去、回復、活性化等のための第1~第6のミッションを保護者が治療対象者に接する際の行動守則として提示している。しかし、神経網の損傷は物理的な損傷であって、保護者が治療対象者に接する際の行動守則の遂行だけで神経網の物理的な損傷が治癒すると判断するに足る根拠は提示されておらず、特許明細書に記載された治療の例示だけでは上記のような効果を裏付けるには不十分であり、特許発明の出願当時、これを立証するほどの医学的又は臨床的事例も見当たらない。仮にそのような効果を示す治療対象者がいたとしても、特許発明の第1~第6のミッションの行動守則によるものであると断定することは難しいうえ、他の治療対象者に対して反復実施をした場合に同一の治療効果が示されるとも考え難い。したがって、特許発明は、通常の知識を有する者が反復実施をして目的とする技術的効果を得ることのできる完成した発明であるとは認め難い。

専門家からのアドバイス

本件は、知識財産処の審査官が登録特許に対して自ら無効審判を請求し当該特許が無効とされた事案であった。このため特許権者である原告は特許法院において審査官による無効審判請求は不適法であるという理由でも争ったが、特許法院は、審査官が無効審判を請求することを認めている特許法第133条第1項 [1]の規定により適法な審判請求であると判断している。
一方、上述した本件の争点に関する法理、すなわち、特許発明が自然法則を利用したものでないときには「産業上利用することができる発明」の要件を満たさないことを理由に出願を拒絶すべきであるとする法理、及び、請求の範囲に記載された発明の一部に自然法則を利用している部分があるとしても請求の範囲全体として自然法則を利用していないと判断されるときには特許法上の発明に該当しないという法理は、韓国の大法院が2008年に既に提示している。
かかる争点に関し、本件特許発明はデジタル治療機器に関し人間の精神活動を活用するものであって、具体的には、神経学的障害を有する幼少年の保護者が当該障害について「治療対象障害に該当するか否かを判断するための行動リスト」及び「治療効果があるか否かを判断するためのミッション別又は時期別に予想される治療経過リスト」にチェックをし、管理サーバーがその作成された質問チェック結果に基づいて治療対象障害に該当するか否か及び治療効果があるか否かを判断する発明の構成要素を含んでいた。特許法院は、2008年の大法院判例を法理として提示したうえで、特許発明は保護者による回答が管理サーバーの判断基準として活用される等により人間の精神活動を全般にわたり活用するものであり自然法則を利用したものであるとは認め難いとして産業上の利用可能性がないと判断した。本件は、デジタル治療機器に関する発明における産業上の利用可能性を判断する基準を提示しているが、特に発明の構成要素として人間の精神活動が含まれる発明の判断をする際に参考になる事例といえる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、徐(ソ)、權(クォン)(いずれも日本語可)
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195