知財判例データベース 故意による特許権侵害によって損害賠償が3倍に増額された事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告(専用実施権者)vs 被告
- 事件番号
- 2022ナ2183特許権侵害差止等
- 言い渡し日
- 2025年10月23日
- 事件の経過
- 一部認容(上告審進行中)
概要
特許権侵害による損害賠償額の算定において、特許侵害行為が故意的であったことが認められ損害賠償が3倍に増額された。
事実関係
原告と被告は台所用品を製造・販売する会社である。原告の代表理事は「食器棚」に関する2件の特許発明(以下、それぞれ「本件第1特許発明」、「本件第2特許発明」という)の特許権者であり、原告は各特許発明の専用実施権者である。原告は、被告の第1製品と第2製品が各々本件第1特許発明と第2特許発明を侵害しているという理由で、その製造・販売の差止めを求める書信を2019年9月に被告に発送した。これに対し被告は原告を相手取って2020年3月から複数の無効審判(第1特許発明に対する1件、第2特許発明に対する3件)を請求したが、いずれも被告の請求が認められない審決(棄却又は却下)が出され確定した。一方、被告は第1,2特許発明に対し各消極的権利範囲確認審判も請求したところ、当該審判ではいずれも被告の請求を認める認容審決が2021年6月に下されて確定した。ただし、上記2件の権利範囲確認審判のうち第1特許発明に対する消極的権利範囲確認審判は、被告がその権利範囲に属さない旨を求めた対象発明(確認対象発明1)が、被告の第1製品とは異なるものであった。
加えて、被告及び被告の代表理事は特許法違反の疑いで告訴され、2022年7月に略式命令が発令されたため、これに対して被告らは特許権侵害に故意はなかった等の理由により不服を申し立て正式裁判を請求したが、法院は2023年12月に特許権侵害について「未必的認識と意思が認められる」という理由により特許侵害の犯罪事実をいずれも有罪と認定して罰金500万ウォンを各々言渡し、この判決はそのまま確定した。刑事告訴とは別に、原告は被告を相手取って侵害行為の差止め及び損害賠償を求める民事訴訟も提起し、その2審が本件判決である。かかる民事訴訟の2審では、被告の第2製品が本件第2特許発明を侵害するか否か、及び損害賠償額が主な争点となった。
1審の判断:故意侵害による増額に関する判断なしに損害額2千万ウォンを認定(ソウル地方法院2022年9月30日言渡2020ガ合511254判決)
原告は特許法第128条第4項(侵害行為で得た利益額を特許権者の損害額として推定)に基づいて約9千万ウォンの損害額を主張したが、法院は原告主張の損害額算定方式において「被告が販売する製品全体において被告第1,2製品が占める比率(原告は20%と主張)」を認定できる証拠がないという理由で第128条第4項による算定は困難と判断し、第128条第7項(損害額証明が困難である場合には法院の裁量で損害額を認定)を適用して損害額を2千万ウォンと認定した。故意侵害による増額については判断しなかった。
判決内容
(1) 被告第2製品が本件第2特許発明を侵害するか
本件第2特許発明は食器据付台が前後方フレームに「スライディング」結合される一方、被告第2製品は食器据付台が前後方フレームに「垂直」に結合される差があることに基づいて被告は非侵害であると主張する(権利範囲確認審判では、この点に基づき非侵害と判断されている)。しかしながら、被告の第2製品は、上記部材間の結合が「スライディング」方式と「垂直」方式のいずれによっても可能である点が1審裁判の過程で試演された。したがって、被告第2製品は、本件第2特許発明の全ての構成要素を含んでいるので侵害に該当する。
(2) (故意侵害による増額前の)損害賠償額の算定
原告は、特許法第128条第2項(侵害者が譲渡した侵害物の数量に、その侵害行為がなければ特許権者が販売することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じた金額を損害額として算定)に基づいて約1億2千万ウォンの損害額を主張したが、法院は原告主張の損害額算定方式において「原告の単位数量当たりの利益額」が十分に立証されていないという理由で第128条第2項による算定は困難であると判断し、第128条第7項(損害額証明が困難である場合には法院の裁量で損害額を認定)を適用して損害額を2千万ウォンと認定した。
(3) 故意侵害であるか否か及び増額の水準
下記のような事情を総合して、被告の侵害行為は故意的であると判断し、損害額を3倍に相当する6千万ウォンに増額した。
① 被告は、原告から2019年9月に特許侵害差止めの要請を受ける前にも、2015年6月に「原告の特許に関連した全ての製品は今後一切生産しない」旨の合意覚書を原告に対して作成していた点に照らしてみると、製品開発の際に競合会社である原告の特許権の存在を確認する必要性と注意義務を明確に認識していたはずである。
② 特許法第225条の特許権侵害罪は故意犯に該当するところ、関連する刑事事件で被告は既に未必の故意が認められて有罪が確定している。
③ 被告は特許を侵害するという認識があったにもかかわらず、2020年3月から2024年11月まで被告各製品を生産・販売し続けた。
④ 被告は、本件第2特許発明に対する権利範囲確認審判で権利範囲に属しない旨の審決が出された2021年6月から(本審決と結論を異にする)第1審判決が言い渡された2022年9月までは故意がなかったと主張するが、本審決は実際の被告製品が「垂直結合」と「スライディング結合」のいずれも可能であるという事実が考慮されていない判断であるという点等に照らしてみると、被告の故意を否定することは難しい。
専門家からのアドバイス
本判決は、韓国で近年導入された特許権の故意侵害による損害賠償の増額規定(特許法第128条第8項。2019年7月9日施行改正特許法により3倍まで増額可能で、2024年8月21日施行改正特許法により増額範囲5倍に拡張された)を適用して損害賠償の増額を認定した2件目の特許法院判決である。最初の判決は、2024年10月31日に言い渡された2023ナ11276事件であり、特許法院は(3倍まで増額可能な適用法下で)2倍に増額し、当該事件は上告されることなく確定した。参考までに、商標権の故意侵害について損害賠償の増額を認めた判決も存在している。
本件で認定された増額の水準については、被告の侵害行為が行われていた(2020年3月~2024年11月)中で、2024年8月21日に増額範囲を5倍に拡張した改正特許法が施行されている。したがって、2024年8月21日より前の侵害行為による損害は3倍まで、2024年8月21日以後の侵害行為による損害は5倍までの増額が理論的には可能であったが(この点は本件特許法院の判決文にも明示されている)、特許法院は2024年8月21日前後の損害を区分せずにいずれも3倍に増額した。
本件で故意侵害を認め増額を3倍とした理由については本文中で紹介した①~④の事情を考慮したものであり、これによれば原告と被告の間で交わされていた合意覚書、本件に関連する刑事事件、及び本件に関連する権利範囲確認審判の結果が増額賠償の認定に影響を及ぼしたことが示唆されている。ただし本件の場合、本件に関連する権利範囲確認審判で非侵害の審決が既に出されていたが、その審判で特定された確認対象発明において実際の被告製品が適切に反映されていなかったことから、その後の特許侵害訴訟においてその審決は、(侵害か否かの判断はもちろん)故意であったか否か(及び増額の水準)の判断において、特に故意性を否定するのに影響を及ぼさなかったという点は注目に値する。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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