知財判例データベース 訂正発明は先行発明と技術分野が異なるため進歩性が否定されないとされた大法院判決

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告 A社等 vs 被告 B社
事件番号
2025フ10169登録無効(特)
言い渡し日
2025年09月25日
事件の経過
確定

概要

訂正発明と先行発明は、スマートフォン等の携帯用表示装置の表示領域を保護する技術であって、保護フィルム等の部材に粘着組成物を塗布した後、光硬化方式を利用して粘着層を形成するという点で技術的構成は共通する。しかし、訂正発明は携帯用表示装置のアクセサリとして使われる保護フィルムを製造する技術分野である一方、先行発明は携帯用表示装置の画面表示部品として用いられる液晶パネルを保護するための携帯用表示装置自体を製造する技術分野であるという点で異なる。特許法院は、このように技術分野が異なることから、先行発明と訂正発明は粘着組成物の粘度、硬化後の貼付力等が相違し、よって先行発明から訂正発明は容易に導き出されず訂正発明の進歩性が否定されないと判断し、大法院は特許法院の判断を支持した。

事実関係

被告は「曲面カバー保護フィルム、その貼付装置及びその貼付方法」を発明の名称とする発明に対して登録を受けた。原告は上記特許に対して無効審判を請求し、被告は当該審判手続の中で訂正請求をした。特許審判院は被告の訂正請求を認め、各先行発明によってその進歩性が否定されないとして原告の審判請求を棄却する審決をした。

原告は特許法院に審決取消訴訟を提起し、被告は特許審判院に訂正審判を請求した。特許審判院は訂正発明が進歩性を欠くため、訂正後の請求の範囲に記されている事項が特許出願の際に特許を受けることができるものでなければならないという訂正要件に違反するという理由により、訂正審判請求を棄却する審決をした。被告は特許法院に訂正請求棄却審決取消訴訟を提起し、特許法院は審決取消しの判決をして当該判決は確定し、特許審判院で訂正審判事件を再審理して訂正を認める審決が確定した。

訂正審決によって確定した請求項1は、次のとおりである。

[請求項1] (訂正審決により追加された部分は太字で、削除した部分は括弧書き太字で表示)
平面表示領域及び曲面表示領域を含む市販された携帯用表示装置の表示領域を保護する曲面カバーガラス保護フィルムにおいて、
上記平面表示領域に対応する平面領域部及び上記平面領域部の縁部から延長された曲面を含んで上記曲面表示領域に対応する曲面領域部を備えるガラス材質の保護フィルム部材と、
上記ガラスフィルム部材の下部面全領域を上記携帯用表示装置の表示領域に貼付させる粘着層を(「形成するための粘着組成物を」削除)含み、
上記粘着層は1ないし500 cpsの粘度を有して流動性を有する粘着組成物を上記保護フィルム部材の重さによって上記保護フィルム部材の下部面全領域と上記携帯用表示装置の表示領域の間に広がるようにした後、これを光硬化させて形成され、
上記保護フィルムは、上記携帯用表示装置の表示領域に貼付されるガラス保護フィルムであり、
上記保護フィルム部材は下部面から突出して上記粘着層との貼付力を向上させるドット突起パターン又は線状突起パターンを含む貼付力向上パターンを備えることを特徴とする、曲面カバーガラス保護フィルム。

一方、先行発明6は韓国公開特許公報(第10-2012-0056788号)に掲載された「光学用紫外線硬化型樹脂組成物、硬化物及び表示装置」という名称の発明である。

原告は、訂正発明は先行発明6と他の各先行発明との結合によって容易に導き出されるので進歩性が否定され、また、発明の説明には「1~500cpsの粘度を有してガラス保護フィルムと表示領域との間の空間全体を安定的に埋める粘着層」のための粘着組成物の具体的な情報が開示されていないため、容易実施要件に違反すると主張した。これに対し特許法院は、訂正発明の進歩性が否定されず容易実施要件にも違反しないため無効事由がないと判断した。

判決内容

大法院は上記特許法院の判断を支持する判決をした。大法院判決には具体的な判断根拠が詳細に記載されていないところ、これに対応する特許法院の主な判決内容は次のとおりであった。

まず、原告は訂正発明の前提部に記載された「市販された携帯用表示装置」は「部品として市販されている液晶パネル」が含まれ、「曲面カバーガラス保護フィルム」には「曲面の液晶パネルを保護するための曲面状のカバーガラス」も含まれるべきであると主張したが、特許法院は特許発明の明細書の趣旨、提出された証拠及び当事者らの主張を総合してみると、「市販された携帯用表示装置」は「部品としての液晶パネルではなく一般使用者が製品として使用できる携帯用表示装置」を意味し、「曲面カバーガラス保護フィルム」は「曲面カバーガラスではなく曲面カバーガラスを保護するためのカバーガラスの保護フィルム」を意味すると認めるのが妥当であると判断した。

続いて訂正発明と先行発明6の相違点について、次の2つの主な相違点が検討された。

(1)相違点1:訂正発明の前提部は「平面表示領域及び曲面表示領域を含む市販された携帯用表示装置の表示領域を保護する曲面カバーガラス保護フィルム」であるが、これに対応する先行発明6の構成は「表示パネルを保護するガラス板やプラスチック板等からなる保護板」であって、訂正発明のガラス保護フィルムは保護対象が「携帯用表示装置の表示領域」であるのに対し、先行発明6の保護板は保護対象が「表示パネル」であるという点で異なる。

(2)相違点2:訂正発明の構成要素1は「平面表示領域に対応する平面領域部及び平面領域部の縁部から延長された曲面を含んで曲面表示領域に対応する曲面領域部を備えるガラス材質のフィルム部材」であり、これに対応する先行発明6の構成は「表示パネルを保護するガラス板からなる保護板」である。両構成は平面表示領域(表示パネルに対応)を外部の衝撃から保護するためのガラス部材(保護板に対応)という点で同一であるが、先行発明6は曲面表示領域を保護するための曲面領域部を開示していないという点で異なる。

原告は、訂正発明と先行発明6の相違点1, 2は、いずれも曲面表示領域を有する表示装置と対応する曲面領域部を備えるガラス保護フィルム部材に関するものであるところ、保護フィルムが表示領域形状に符合する形態を有していなければならないことは技術常識に属し、保護フィルムの材料を選択することは単純な設計事項に過ぎないので、通常の技術者が技術常識を参酌して先行発明6によって容易に克服することができるものであると主張した。しかし特許法院は、上記相違点1, 2について、先行発明6と周知慣用技術とを結合しても容易に克服することはできないと判断した。

特許法院の具体的な判断根拠は、下記のとおりである。

(1)先行発明6は、スマートフォン等の携帯用表示装置において画面表示部品として使われる液晶パネルを保護するための目的で、粘度が高い粘着組成物を用いた光硬化方式を利用して液晶パネル上面に保護板(カバーガラス)を貼付する構成を開示しており、液晶パネルと保護板(カバーガラス)が容易に分離されないように堅固に貼付する作用効果を有する発明である。すなわち、先行発明6は携帯用表示装置自体を製造する技術分野において使われる技術である。
一方、訂正発明は、携帯用表示装置のカバーガラスを保護するための目的で、粘度が低い粘着組成物を用いた光硬化方式を利用してカバーガラス上面に保護フィルムを貼付する構成を開示しており、カバーガラスと保護フィルムが容易に分離され得るように弱く貼付する作用効果を有する発明である。すなわち、訂正発明は携帯用表示装置自体を製造する技術分野ではなく、携帯用表示装置のアクセサリとして使われる保護フィルムを製造する技術分野において使われる技術である。従って、先行発明6と訂正発明は、粘着組成物を塗布した後、光硬化方式を利用して粘着層を形成するという一部技術的構成に類似する側面があるとしても、発明の目的となる保護対象が液晶パネルとカバーガラスとで互いに異なり、用いられる粘着組成物の粘度も異なり、硬化後に貼付される構成間貼付力に対する作用効果も異なるだけでなく、その技術を用いる主体も携帯用表示装置のメーカーと保護フィルムメーカーとで互いに異なるため、利用される産業分野が異なり、その技術分野を同じにするとは認めがたい。

(2)先行発明6は平面形状の液晶パネルとカバーガラスの貼付に関するものであり、訂正発明は曲面形状のカバーガラスと保護フィルムの貼付に関するものであるという点で、粘着組成物の粘度、硬化後の貼付力に対する変更が不可避で、これによる粘着組成物の成分及び比率に対する新たな組み合わせが必要となり、曲面の場合、粘着組成物が流動する問題に対する解決も必要であるため、保護フィルム技術分野の当面する技術的問題を解決するために先行発明6の光硬化方式を特別な困難なく保護フィルム技術分野に利用することができるとは認めがたい。

加えて特許法院は、その他の相違点も先行発明6から容易に導き出されないため、訂正発明は先行発明6又はこれと他の各先行発明との結合によって進歩性が否定されないと判断した。

また、容易実施要件違反の無効事由に対しても、特許法院は、訂正発明のガラス保護フィルムは単に粘着層の粘度を「1~500cps」に限定することによってのみ達成されるのではなく、発明の説明に記載された上記の他の構成との有機的結合関係を通じて充足されるものであるという点で、たとえ粘着組成物の細部的な成分が発明の説明に明示的に開示されていないとしても、通常の技術者は過度な実験や特殊な知識を加えずとも有機的結合関係がある他の構成の数値を適宜組み合わせて困難なく当該効果を発揮するガラス保護フィルムを生産して使用できる程度であると認められるとして、記載不備の無効事由がないと判断した。

専門家からのアドバイス

本件は、携帯用表示装置の分野における発明の進歩性を肯定した事例として、特許法院は上述のとおりさまざまな論拠を示しているが、特に技術分野の違いが進歩性判断に影響を与えた事例といえる。
本件訂正発明と先行発明は、いずれも携帯用表示装置の表示領域を保護する技術であったが、その保護対象はカバーガラスを保護するか液晶パネルを保護するかで互いに異なるものであった。その具体的な両技術の構成は、保護部材(保護フィルム又は保護板)に粘着組成物を塗布した後、光硬化方式を利用して粘着層を形成するという点で類似点があった。特許権者は訂正を通じて訂正発明が携帯用表示装置のアクセサリとして使われる保護フィルムの分野に属する点を明確にした上で、先行発明の液晶パネルのカバーガラス分野の技術とは異なることを主張し、これについて特許法院は両技術分野において接着方式や要求される接着力等が互いに異なることを認め、訂正発明は先行発明によって進歩性が否定されないと判断した。
特許発明と先行発明の技術分野が異なる場合であっても、両発明の構成が共通することにより特許発明の進歩性が否定されることも珍しくないが、本件は技術分野の違いを考慮して先行発明の技術内容は特許発明の技術分野において困難なく利用可能であるとはいえないという具体的な事情を認めたものといえる。韓国での特許発明の進歩性が肯定された具体的事例として参考になる。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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