知財判例データベース 韓国法人が他の米国法人に支払った米国特許権の使用料に係る特許技術が韓国国内で使用された場合、その対価として支払った使用料については韓国に課税権がある

基本情報

区分
その他
判断主体
大法院
当事者
原告、被上告人(国内法人) vs 被告、上告人(利川税務署長)
事件番号
2021ドゥ59908更生拒否処分取消し
言い渡し日
2025年09月18日
事件の経過
原審判決破棄及び差戻し

概要

韓国において物を製造し米国で販売する韓国法人が米国登録特許権(すなわち国内未登録特許権)の使用料を米国法人に支払った場合において、その使用料所得に対する課税権は、韓米租税協約上、米国にのみあるとされてきた従来の大法院判例を変更し、当該特許権の特許技術が韓国で使用された場合、その対価として支払った使用料については韓国に課税権があると判断した。

事実関係

半導体素子の製造及び販売業等を営んでいる韓国法人である原告は、2011年6月に特許管理専門企業(NPE)の米国法人からDRAM半導体に係る米国登録特許権を侵害したことを理由として、米国において訴訟の提起を受けた。この訴訟は、原告が2013年12月に当該米国法人と和解契約を締結して終了した。この和解契約において原告は、訴訟の対象となった特許を含め米国法人が保有していた40件の米国登録特許権の使用に対する対価として5年間、毎年160万ドルを支払うことで約定した。
原告は、2014年1月に米国法人に2014年分の使用料160万ドルを支払い、使用料所得に対する法人税約3億1千万ウォンを源泉徴収として、2014年2月に韓国の課税当局(利川税務署)に申告及び納付した。
その後、2015年6月に原告は上記使用料所得が米国においてのみ登録された特許権(すなわち、国内未登録特許権)に対する使用料に該当するため、韓国と米国間の「所得に関する租税の二重課税回避と脱税防止、及び国際貿易と投資の増進のための協約」(以下、「韓米租税協約」)により、その所得の源泉は国内とはいえないことを理由とし、源泉税に対する払戻し請求(更生請求)をしたが、被告はこれを拒否する処分を下し、原告はこれを不服として異議申立を経て租税審判院に拒否処分の取消しを求める審判を請求したが、租税審判院は2019年10月に原告の請求を棄却した。これに対して原告は、拒否処分の取消しを求める行政訴訟を法院に提起した。

1審(水原地方法院2020年12月24日言渡2019グハプ72985)判決:原告勝訴
韓米租税協約は、特許の実施に関する権利は特許権が登録された国家の領域内においてのみその効力が及ぶとして、米国法人が韓国国内において特許権を登録し、韓国国内において特許実施権を有する場合には、その特許実施権の使用対価として支払われる所得のみを国内源泉所得とすると定めているのみであり(大法院2007年9月7日言渡2005ドゥ8641判決等)、韓米租税協約の解釈上、特許権が登録されている国家以外においては特許権の侵害が発生し得ず、これを使用するか、又はその使用の対価を支払うことは観念することもできない。したがって、米国法人が特許権を韓国国外において登録しているのみであり、韓国国内には登録していない場合には、米国法人がそれに関連して支払いを受ける所得は、その使用の対価となり得ないため、これを国内源泉所得とはいえない(大法院2014年11月27日言渡2012ドゥ18356判決、大法院2018年12月27日言渡2016ドゥ42883判決)。そうであれば、本件使用料所得は、源泉徴収対象である国内源泉所得に該当するとはいえず、原告は、本件使用料所得に対する源泉税を納付する義務がないため、本件拒否処分を取り消す。

2審(水原高等法院2021年11月5日言渡2021ヌ10237)判決:原告勝訴
1審判断と同一。

判決内容

大法院判決:原告敗訴(2審判決を破棄、差戻し)
韓米租税協約は、第14条第4項において特許等の使用に対する対価として受け取る支払金を「使用料」と規定し、第6条第3項において「使用料は、ある締約国内の同財産の使用に対して支払われる場合にのみ同締約国内に源泉を置く所得として取り扱われる」と規定する。同協約第2条第2項は「この協約において使用されていても、この協約において定義されていないその他の用語は、異なる文脈によらない限り、その租税が決定される締約国の法律により内包する意味を有する」と規定する。
韓米租税協約による「使用地」を確定するには、まず「使用」の意味を明確にする必要があり、韓米租税協約は「使用」の意味を特に定義していないため、「使用」の意味は租税が決定される締約国の国内法により解釈すべきである。これに関連し、旧法人税法第93条第8号(2015年12月15日法律第1355号で改正される前のもの)は、国内未登録特許権が国内において製造・販売等に使用された場合には、国内登録の有無に関係なく国内において使用されたものとみなすと規定する。ここで「使用」とは、独占的効力を有する特許権自体を使用することではなく、その特許権の対象となる製造方法・技術・情報等(以下「特許技術」)を使用する意味と解すべきである。したがって、国内未登録特許権の特許技術が国内において使用された場合には、その対価である使用料所得は、国内源泉所得に該当する。
これに反して、特許権の属地主義に基づいて韓米租税協約上の特許の「使用」の意味を「特許権の効力が及ぶ国家内における実施」と解釈し、国内未登録特許権の国内における使用を観念することができないとした大法院1992年5月12日言渡91ヌ6887判決、大法院2007年9月7日言渡2005ドゥ8641判決、大法院2014年11月27日言渡2012ドゥ18356判決、大法院2014年12月11日言渡2013ドゥ9670判決、大法院2018年12月27日言渡2016ドゥ42883判決、大法院2022年2月10日言渡2018ドゥ36592判決、大法院2022年2月10日言渡2019ドゥ50946判決、大法院2022年2月24日言渡2019ドゥ47100判決等は維持され得ず、この判決の見解と背馳する範囲内においてすべて変更する。
特許技術が国内における製造・販売等に事実上使用されているかを判断しないまま本件使用料が国内未登録特許権に係るものであることを理由として国内源泉所得に該当しないと判断した原審は、韓米租税協約上の国内源泉所得の該非に関する法理を誤解し、必要な審理を尽くさずに判決に影響を及ぼした誤りがあるため、原審判決を破棄して事件を再度審理・判断するように原審法院に差し戻す。

専門家からのアドバイス

国境を跨ぐ国際取引(たとえば、A国法人とB国法人の取引)において発生した所得に対する課税権を各国家別に適宜配分して二重課税を回避するよう、多くの国家間において租税条約が締結されている。この代表的事案として、A国法人がB国法人の資産や技術を使用し、その対価としてB国法人に使用料を支払った場合において、当該使用料に対する課税権をいずれの国家が行使するかに関しては、(i)その使用料を「支払う」者がいるA国に課税権を付与する原則(いわゆる「支払地主義(payment principle)」)と、(ii)その「使用」がなされた国家に課税権を付与する原則(いわゆる「使用地主義(place of use principle)」)とがある。韓国が日本、中国、ヨーロッパ等の世界の大部分の貿易相手国と締結した租税条約は、支払地主義を選んでいる。これに対し、米国との租税条約だけは使用地主義を選んでいるところ、本件はこれに起因した独特の争点に関するものであった。
本件争点の核心は、韓米租税協約上の「特許の使用」の意味を、(i)いわゆる「国内未登録特許権の使用」も含むよう、当該技術を製造・販売に活用する「事実上の使用」と解すべきか、それとも(ii)特許権の登録国における輸入・販売等の「特許発明の実施」と解すべきかについてであった。これまで韓国の大法院は、特許権の属地主義原則を反映して1992年以降は2022年に至るまで(ii)の立場を取ってきたが、本大法院判決により(i)に変更したという点において、関連実務への相当な波紋を引き起こすと予想される。特に、破棄差戻し後の原審又は課税当局は、原告による40件の米国特許技術の使用を(i)「韓国国内における製造」としての使用と、(ii)「中国等の国外における製造」としての使用、(iii)「米国における販売」としての使用に分けた後、全使用料のうち(i)が占める比率により所得税を賦課すべきであると考えられるが、こうした比率をはたしてどのように判断するのかについても注目されている。
本件において、こうした比率按分が現実的に非常に困難であるという問題は、本件大法院判決の少数意見として、多数意見を批判する理由の1つとして指摘されている。具体的に本大法院判決は、従来の判例を変更するものであることから全員合議体(大法官13人全員)によりなされたが、10:3で判断が分かれる結果となった。10人の多数意見は上記で紹介したとおりであるが、3人の少数意見も参考に値するため、その要旨を下記に紹介する(事実上、従来大法院が取ってきた立場が下記少数意見であるといえる)。

大法院判決の少数意見:2審判決維持
「特許(patent)」は法的権利を意味し、その保護対象である「発明(invention)」とは区分されるものであるが、多数意見は両者を同一視する見解であって、受け入れ難い。「使用(use)」という用語は、(自動車を使用することと、自動車の抵当権を使用することとの意味が互いに相違するように)その目的語が何かにより意味が相違してくる。特許という権利を使用することは、当該権利を法令が保護する範囲内においてその趣旨に合せて活用又は行使することを意味する。そうであれば、韓米租税協約上の「特許の使用」は当該特許権の効力が及ぶ範囲内においてその特許発明を実施することを意味し、特許権が登録された国家以外においてその発明を事実上使用することはこれに該当しない。米国においてのみ登録された特許権の対象である発明は、韓国においては誰でも自由に利用することができる(特許権の属地主義)。国内において効力がない権利を国内において使用することは想定することができない。こうした特許権自体に当然内在している属性及び韓米租税協約自体から「特許の使用」の意味が明確に導き出される以上、条約において特に定義されていないことのみを理由として国内法人税法によりその意味を解釈することはできない。原告が米国法人に支払った使用料は、米国において登録された特許権の対象である発明の「米国内における実施」に関する対価に過ぎず、米国法人の韓国国内源泉所得には該当しない。こうした原審の判断に誤りはない。
こうした法理は、大法院が1992年に初めて宣言して以来、現在まで30年余りの間、確固たるものとして維持されてきた。多数意見が、従来の判例により長期間維持されてきた法的安定性を犠牲にするほど優れているとはいい難い。その上、多数意見は、事実上国内法により条約の適用を排除する、いわゆる「条約排除(treaty override)」の問題も引き起こし得る。韓米租税協約において定められた課税権分配規則を変更しようとする場合には、韓国政府が米国政府との交渉を通じて韓米租税協約を改正するのが正しい手続である。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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