知財判例データベース 一部審査出願制度で登録された食品保存容器のデザインに対し、第三者のデザインは類似せず権利範囲に属しないと判断された事例
基本情報
- 区分
- 意匠
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- 原告 A社(上告人) vs 被告 個人B(被上告人・デザイン権者)
- 事件番号
- 2024フ11026権利範囲確認(デ)
- 言い渡し日
- 2025年01月23日
- 事件の経過
- 破棄差戻し
概要
原告が実施する食品保存容器のデザインが被告の登録デザインの権利範囲に属すると認めた原審(特許法院)判決を破棄し、大法院は両デザインは同一・類似でないため登録デザインの権利範囲に属しないと判断した。
事実関係
被告は、2021年11月10日に食品保存用容器に関するデザインを出願し、2021年12月30日付で登録を受けた(「本件登録デザイン」)。出願後1ヶ月余りの短期間でデザイン登録がなされたのは、韓国デザイン保護法上、物品が食品保存用容器であるデザインについては一部審査登録の対象となっており、本件登録デザインは、デザイン登録要件のすべてを審査するのではなく一部の登録要件のみを審査して登録を許可するデザイン一部審査出願であったためである。
被告は本件登録デザインに基づいて原告が実施中の食品保存容器のデザイン(「確認対象デザイン」)に対しデザイン権侵害の中止を求め、原告はこれに対して特許審判院に消極的権利範囲確認審判を請求した。特許審判院は両デザインが互いに類似するとして原告の審判請求を棄却し、原告はこれを不服として特許法院に提訴した。本件登録デザイン | 確認対象デザイン |
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原審(特許法院)は、両デザインの共通点として、①「入口部」と「本体部」からなる円筒形形状である点、②入口部は下段の一部にノコギリの歯形状の突起が配列されている点、③本体部は上部、中間部、下部の3段に分かれている点、④本体部は上部と下部が突出し、中間部は相対的に凹状に入り込んだ垂直壁が形成され、上部と下部の角部分は緩やかな曲線からなる点、⑤本体部の3段の長さの順序および比率が同一な点を確認した。一方、両デザインの相違点として、(a)入口部のノコギリの歯形状の違い(三角形状5個 vs 台形形状4個)、(b)本体部の上部と下部の具体的な相違点(上部が丸く突出し、下部は下に行くほど狭くなる形状 vs 上下部どちらも垂直形状)、(c)底面の形状が異なるという点を確認した。その上で、両デザインの相違点は両デザインの支配的な特徴を表す共通点を相殺して全体的に異なる美感を表す程度の影響を与えるものではないことから、両デザインは類似するデザインに該当し、確認対象デザインは本件登録デザインの権利範囲に属すると判断した。
これに関連し、原告は公知の食品保存容器先行デザインを提出して、両デザインの共通点はいずれも公知となった部分であるため類否判断時には類似の幅を狭く判断しなければならないと主張したが、原審(特許法院)は共通点④、⑤を本件登録デザインの支配的特徴と認定して、先行デザインとは区別される斬新で独創的な形状を有すると判断した。
原告は2024年9月26日付で上告を提起し、大法院は2025年1月23日に原審判決を破棄差戻しとした。
大法院は、まずデザインの類否判断に関連し、「デザイン権は物品の新規性がある形状、模様、色彩の結合に与えられるものであって、公知の形状と模様を含む出願によってデザイン登録されたとしても公知の部分にまで独占的かつ排他的な権利を認めることはできないため、デザイン権の権利範囲を定めるにおいては公知部分の重要度を低く評価しなければならず、したがって登録デザインとそれに対比されるデザインが互いに公知部分において同一・類似であるとしても、登録デザインから公知部分を除いた残りの特徴的な部分と、これに対比されるデザインの該当部分が互いに類似しないのであれば、対比されるデザインは登録デザインの権利範囲に属するとはいえない。以前からありふれて使用され、単純で、様々なデザインが多様に創作された物品、又は構造的にそのデザインを大きく変化させることができない物品を対象にしたデザインの類似範囲は比較的狭く認定しなければならない」という大法院の立場を改めて確認した。
その上で、大法院は、両デザインの全体的な形状がよく表れる斜視図と正面図を対比し、「全体的に入口部と本体部からなる円筒形状である点、本体部は大きく上部、中間部、下部の3段に分かれる点、本体部のうち上部・下部は突出し、中間部は上部・下部に比べて相対的に凹状に入り込んだ垂直壁が形成され、上部と下部の角部分は緩やかな曲線からなる点、3段に分かれた本体部は上部より下部が、下部より中間部がさらに長く形成された点等において類似する。しかし、このような類似点は複数の先行デザインにもそのまま表れているものであるため、その重要度を低く評価しなければならない。また、両デザインは入口部のうち下段の一部にノコギリの歯形状の突起が配列された点で類似するが、このような類似点は先行デザインらにもそのまま表れているものであるため、その重要度を低く評価しなければならない」と判示した。
さらに、「食品保存用容器は以前からありふれて使用されてきたものとして、様々なデザインが多様に創作され、構造的にもそのデザインを大きく変化させることが難しい物品であるから、食品保存用容器を対象としたデザインの類似範囲は比較的狭く認定しなければならない」とした上で、「入口部のノコギリの歯形状の突起の場合、本件登録デザインは三角形状の突起5個が連続的に配列されている反面、確認対象デザインは台形形状の突起4個が連続的に配列されている。本体部の突出した上部・下部の場合、本件登録デザインは上部が丸く突出し、下部は下に行くほど狭くなる形状で突出している反面、確認対象デザインは突出した上部・下部のどちらも垂直形状である。底面の場合、本件登録デザインは平らな形状である反面、確認対象デザインは底面の中央部分が丸く隆起している形状である。本件登録デザインと確認対象デザインのこのような形状の相違は両デザインの全体的な審美感を異ならせるといえるため、確認対象デザインは本件登録デザインと同一・類似でなく、本件登録デザインの権利範囲に属しない」と判示した。
専門家からのアドバイス
本件は、デザインの類比判断について特許法院と大法院とでその判断が異なった事案であった。
大法院は、本件で問題となったデザインは醤類や塩辛類の保存や販売のために用いられる保存容器としてありふれて用いられるものであって、従前より大同小異のデザインが多数存在してきた上に、その容器の特性上デザインに変化を加えることも容易でない点を考慮して、登録デザインの類似範囲を狭く解釈すべきであるとし、両デザインの形状の相違は両デザインの全体的な審美感を異ならせ得るとの理由により、原審判決を破棄している。
これに関連し、本件登録デザインは、日本の意匠法にはない「一部審査制度」によりデザイン登録を受けている。韓国のデザイン保護法はこうした一部審査制度を設けているが、一部審査制度のもとでは公知・公然実施等による新規性欠如や創作性欠如を理由として審査官が拒絶決定をすることはできないことから、新規性や創作性に疑問のあるデザインであっても2~3週間程度でデザイン登録がなされることになる。ただし韓国では、これを根拠に第三者に権利行使をすることには問題があるという批判も提起されてきた。本件の場合は、大法院が本件登録デザインの権利範囲に属しない旨の判決をすることにはなったが、一部審査制度のもと本件登録デザインの実体審査は行われていない点は留意しておく必要がある。
一方、上記のような一部審査制度の問題点を解消するために、審査官が拒絶決定する法的根拠を提供する改正法が2025年11月28日から施行される予定である。ただし、改正法が施行されたとしても、依然として、包装容器、文房具類、織物地等の、一部審査制度が適用される品目のデザインについては、他人によって既に公知となった又は創作性がないデザインを第三者が登録して権利行使するおそれが完全に払拭されるとはいえない。そうした業種を営む企業等は、該当する分野のデザイン登録公告に対する積極的なモニタリングの実施や、デザイン登録公告後の異議申立による予防的措置にも注意を払う必要があろう。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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