知財判例データベース 中古バッグの生地等を原材料に使用したリフォームが商標権侵害にあたるとされた特許法院判決
基本情報
- 区分
- 商標
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告 A社 vs 被告 個人
- 事件番号
- 2023ナ11283商標権侵害差止等
- 言い渡し日
- 2024年10月28日
- 事件の経過
- 上告中
概要
被告は自身が運営する店舗で、依頼人(顧客)が修繕を依頼した商標権者の商標が表示された中古バッグを分解し、その生地等を原材料として使用しデザインが異なるバッグ等に修繕(生産)して提供する業務、いわゆるリフォームを営んでいた。特許法院は、依頼人がバッグを個人化するために修繕業者の助けがいる事情があるとしても、バッグの個数、大きさ、模様、形態等がリフォームする前に比べて大きく変更された点、「リフォームである、再生品である」等の表示をして出所誤認を防止できたにもかかわらず、そのような表示をしなかった点等に照らしてみるとき、被告が行った行為の違法性が阻却されるものではないと認め、被告に商標権侵害差止及び損害賠償の義務があると判断した。
事実関係
原告は、ハンドバッグ、財布等を指定商品とした「」、「
」(以下「登録商標」)の商標権者であり、被告は自身が運営する店舗で、依頼人(顧客)が修繕を依頼した商標権者の商標が表示された中古バッグを分解し、その生地、金属部品等を原材料として使用し、個数、大きさ、容積、模様、形態、機能等が異なるバッグに修繕(生産)して提供する業務(以下、いわゆる「リフォーム」)を営んだが、リフォーム前後の一部事例を紹介すれば次のとおりであり、リフォーム後の製品には原告が製造・販売するバッグと類似する形態もあった。
リフォーム前 | リフォーム後 | リフォーム後の製品と 類似する原告バッグ等 |
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依頼人が被告にリフォームを依頼する過程で、依頼人は被告が運営するホームページに掲載された多様な商標権者のリフォーム後の製品に関するデザイン情報、又は被告が運営する店舗に展示されたリフォーム後の製品等からデザインを選択し、被告はリフォーム前の製品のサイズ等の範囲内で製作が可能なデザインについて説明を行った。リフォーム完了後、依頼人はリフォームされた製品と一緒に、リフォーム過程で残ったリフォーム前の製品の生地等を受け取った(リフォーム後の製品には、リフォーム前にはなかった原告のロゴや原告の名称が表示された革ラベル等も付されていた)。
原告は、被告がリフォームを通じて登録商標を表示した新しいバッグ、財布を生産する行為を行ったもので、これは「商品に商標を表示する行為」に該当し、依頼人にリフォームされた製品を「引き渡した行為」も商標法上の商標の使用に該当し、商標権侵害に該当すると主張した[1]。
判決内容
(1) リフォーム後の製品の商品性
特許法院は、「(商標法上)商標の使用においていう“商品”とは、それ自体が交換価値を有し独立した商取引の目的物になる物品を意味する」という既存の大法院の法理を引用し、①リフォーム後の製品はそれ自体で交換価値があり、②著名商標が表示された高価な商品はリフォーム後も中古品市場で取引されており、③商品に商標を表示する行為だけをとっても「商標の使用」に該当し、④商品に該当するための継続性、反復可能性がある場合、ただ1つのみが生産されるとしても商品に該当するといえると判示した。
(2) 被告の商標使用
特許法院は、既存の商品を活用して新しい商品を生産し、既存の商標の一部分を新しい商品に用いる場合、既存の商標が新しい商品の出所を表示する以上「商品に商標を表示する行為」に該当するとし、単純な修繕を終えた商品の場合、修繕目的物に表示された商標が修繕業者を表示したものとは認識されないが、古くなった又は故障した商品を原材料として使用して本来の商品とは異なる新しい商品を生産する場合には、新商品に表示された商標はその新商品を生産・販売した者を表示するものと認識され得ると説示し、被告はリフォーム前の製品の部品に物理的・化学的処理、縫い、部品の取り付け、商標の付着等の過程を経て製品の個数、大きさ、容積、模様、形態、機能等が大きく異なる新しい製品を生産して、リフォーム後の製品の出所があたかも原告であるかのように表示することで、商品に商標を表示した行為及び依頼者に引き渡した行為に該当すると判示した。
(3) リフォーム後の製品に表示された商標と被告の業務間関連性
特許法院は、他人の登録商標が表示された商品を購入して使用する者を2つの場合、すなわち①購入した商品を新商品の生産に必要な原材料等として使用し製造等を営む者(業務用消費者)と、②購入した商品を個人的な欲求を満たすために使用する者(非業務用消費者)とに分け、業務用消費者が商標権者の許諾なしに自身の新商品に表示する場合には、特別な事情がない限り、自発的か他人の注文であるかを問わず、その新商品は自身の「業務に関連した」商品であるため無断表示は他人の商標を商標として使用することに該当するとし、被告は加工業者として登録商標を「自身の業務に関連して使用」したと判断した。
(4) リフォーム後の製品の登録商標が商標の機能をするか否か
特許法院は、被告が依頼人以外の第三者にはリフォーム後の製品を販売しておらず、依頼者はその製品の生産者が被告であることをよく知っているため原告を生産者と誤認する可能性はないとしたが、依頼人からリフォーム後の製品を譲り受けた一般需要者は、製品の出所が原告ではなく被告であるという事実を認知することが難しい点等を考慮すれば製品の出所を混同するおそれがあるため、一般需要者の観点から見たときリフォーム後の製品に表示された登録商標は識別標識として使われていると判示した[2]。
専門家からのアドバイス
使い古したブランドの衣類やバッグを最新の流行に合わせて作り直すリフォームや、商標権者が販売した人形・アクセサリーを副材料として利用し新たなバッグやスマートフォンケース等の新しい商品として製造し販売することは、商標等の実務上においてよく見られている。
こうしたリフォーム業者によるリフォーム行為が商標権侵害にあたると判断された本事例は、特許法院判決であり大法院の判断を受けたわけではないが、注目すべき重要事例と考えられ今回紹介したものである。本判決によれば、リフォーム前の製品の商標権者が保有する商標がどのような性質のものであるのか、リフォーム業者がどのような業務を行うかによって実務上よく見られるリフォームも商標権侵害に該当する余地があるということを示しており、これについて特許法院は、商標権者の商品を購入した後において、その商品の使用目的に応じて業務用消費者と非業務用消費者に区分した上で、リフォームの法的性格及び限界等について具体的に判示している。今後の大法院の判決が待たれるところである。
注記
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原告は予備的に被告の行為が不正競争行為にも該当すると主張したが、特許法院はこれについては判断しなかった。
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なお、裁判の過程で被告は「消費者はリフォームする自由がある点」、「登録商標を(物理的に)表示していない点」、「登録商標を表示した商品を引き渡さず」、「業として登録商標を使用せず」、「登録商標を商標の機能のためには使用せずデザイン的に使用したに過ぎないため出所を混同する可能性がなく、品質保証機能を害するおそれがない点」、「商標権が消尽」、「表現の自由」、「持続可能性(sustainability)」、「法益均衡」等の多様な理由を挙げて商標権侵害でないことを主張したが、特許法院はこれらをすべて具体的な理由を挙げて排斥している。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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