知財判例データベース 製造方法で限定された抽出物発明において、その抽出物の構成又は属性が先行発明に必然的に内在するとは認められず、新規性が否定された事例
基本情報
- 区分
- 特許
- 判断主体
- 特許法院
- 当事者
- 原告 A株式会社 vs 被告 B株式会社
- 事件番号
- 2022ホ4796登録無効(特)
- 言い渡し日
- 2023年11月23日
- 事件の経過
- 上告審理不続行棄却
概要
特許発明は、製造方法、有効成分の含量及び薬効の構成要素で限定された抽出物発明である。これに対し先行発明には、特許発明の高温高圧処理をする製造方法と、抽出物中の特定有効成分及びその含量が開示されていなかった。原告は、特許発明の製造方法の構成は抽出物発明の新規性の判断に考慮されず、有効成分及びその含量の構成は先行発明に内在している構成であると主張して、特許発明は先行発明により新規性が欠如する旨を主張した。これに対して特許法院は、特許発明は製造方法と有効成分の含量の構成で限定された抽出物発明であると判断して、先行発明とは製造方法上の差異点があり、当該製造方法で製造した抽出物における有効成分の含量が、先行発明の製造方法で製造した抽出物に必然的に内在する構成又は属性に該当するとは認められないとして、特許発明は先行発明により新規性が欠如しないものと判断した。
事実関係
被告は「ダムリンA及びダムリンB含量が増加した新規のアマヅラ(甘葛)抽出物の製造方法及びこれを用いた代謝疾患治療用薬学組成物」を発明の名称とする発明について2009年12月1日付で特許登録を受けた。原告は、2021年5月28日付で、被告の特許発明に対して請求項2~請求項8の発明は新規性が否定され、請求項1~請求項8の発明は進歩性が否定されるという無効事由に基づき登録無効審判を請求し、特許審判院は原告の審判請求を棄却する審決をした。これを不服として原告は特許法院に審決取消訴訟を提起した。
被告の特許発明のうち新規性の有無が争われた請求項2の発明は、下記のとおりである。
【請求項2】
アマヅラ葉エタノール抽出物濃縮液を100~125℃、1.2~690気圧、0.5~24時間の間、又は45~100℃、6 90~1100気圧、12~24時間の間、高温高圧反応処理して製造されるものであって(以下「構成要素2-1」)、ダムリンAは0.7~7%(w/w)であり、ダムリンBは0.5~6%(w/w)を有効成分として含まれること(以下「構成要素2-2」)を特徴とする
肥満、糖尿又は高脂血症の改善及び治療用(以下「構成要素2-3」)アマヅラ抽出物。
一方、先行発明1は「インスリン抵抗性症候群の治療」に関する特許公開公報であって、アマヅラ葉をエタノールで繰り返し抽出し、その後ブタノールで抽出する等の方法でアマヅラ抽出物を得る方法を開示し、アマヅラ葉の抽出物の主な構成成分はギペノシド(Gypenoside)であると開示している。特許法院において原告は、構成要素2-1が請求項2の発明の構造や性質を特定する要素でないことを前提として、構成要素2-2は先行発明1に内在している構成又は属性に該当するので請求項2の発明と先行発明1は実質的に同一であり、請求項2の発明は先行発明1によって新規性が否定されると主張した。
判決内容
特許法院は、請求項2の発明は先行発明1と実質的に同一ではないため先行発明1により新規性が否定されないと判断するとともに、特許発明は各先行発明により進歩性も否定されないとして原告の請求を棄却した。具体的に、新規性に関する特許法院の判決内容は、下記のとおりである。
特許法院は、関連法理として下記を提示した。
(1)請求の範囲が全体的に物として記載されており製造方法の記載を含んでいる発明は、製造方法が記載されているとしても、発明の対象は製造方法ではなく最終的に得られる物自体であるので、発明の類型のうち「物の発明」に該当する。物の発明に関する請求の範囲は、発明の対象である物の構成を特定する方式で記載しなければならないので、物の発明の請求の範囲に記載された製造方法は、最終生産物である物の構造や性質等を特定する1つの手段としての意味を有するだけである。したがって、製造方法が記載された物の発明の特許要件を判断するにおいて、その技術的構成を製造方法自体により限定して把握するのではなく、製造方法の記載を含め請求の範囲の全ての記載により特定される構造や性質等を有する物として把握して、出願前に公知となった先行技術と比較して新規性、進歩性等があるか詳察しなければならない(大法院2015.1.22.言渡2011フ927全員合議体判決参照)。
(2)物の発明において、これと同一の発明がその出願前に公知となっているか、又は公然と実施されていることが認められれば、その発明の新規性は否定される。特許発明において構成要素として特定された物の構成や属性が先行発明に明示的に開示されていない場合であっても、先行発明に開示された物が特許発明と同一の構成や属性を有する点が認められるならば、これは先行発明に内在している構成又は属性と言うことができる。この場合、特許発明が当該構成又は属性による物質の新たな用途を特許の対象とする等の特別な事情がない限り、公知となった物に本来から存在していた内在している構成又は属性を発見したものに過ぎないため、新規性が否定される。これはその発明の属する技術分野において通常の知識を有する者(以下「通常の技術者」と言う)が出願当時、その構成や属性を認識できなかった場合にも同様である。公知となった物の内在している構成又は属性を把握するために出願日以後に公知となった資料を証拠として使用することができる。
一方、先行発明に開示されている物が特許発明と同一の構成又は属性を有することもあり得る可能性又は蓋然性のみによっては、両発明を同一であると言うことができず、必然的にそのような構成又は属性を有する点が証明されなければならない。すなわち、先行発明が公知となった物自体の場合には、その物と特許発明の構成を対比して両発明が同一かを判断することができるが、先行発明が特定の製造方法により製作された物に関する公知文献の場合、先行発明に開示されている物は、先行発明に開示されている製造方法によって製造された物であるため、先行発明に開示されている製造方法による場合の偶然の結果であり得る限り、実施例が上記のような構成又は属性を有する点を越えてその結果物が必然的に当該構成又は属性を有する点が証明されてこそ先行発明と特許発明が同一であると言うことができる。(大法院2021.12.30.言渡2017フ1304判決参照)。
(3)特許法第29条第1項を適用するために発明が同一であるかを判断するときは、2つの発明の技術的構成が同一であるかによって判断するものの、効果も参酌すべきである。技術的構成に差があるとしても、課題解決のための具体的手段において周知慣用技術を付加、削除、変更する等で新たな効果が発生しない程度の微細な差があるのに過ぎないのであれば、2つの発明は互いに同一である(大法院2004.10.15. 言渡2003フ472判決参照)。
特許法院は、まず請求項2の発明の請求の範囲を解釈し、構成要素2-3は、既存のアマヅラ抽出物(TG1022)も有していた効能・効果に関する記載であって、用途の限定によりアマヅラ抽出物の組成と含量が変わるわけではないので先行発明との対比対象になり得ないとした上で、請求項2の発明は「成要素2-1の製造方法と構成要素2-2の組成で限定された物(アマヅラ抽出物)の発明」であると認定して先行発明と対比すべきであると判断した。その具体的な判断内容は、下記のとおりである。
(1)構成要素2-1は、請求項2の発明の最終生産物である「アマヅラ抽出物」の構造と性質を特定する要素であると判断するのが妥当である。
生薬等の薬効は、そこに含まれる特定のいずれか1種類の成分や共通する薬理活性を有するいくつかの成分から発現されるというよりは、互いに異なる薬理活性を有してもよい全体活性成分間の相加、上乗、相殺等、相互作用の総和によるものと解釈するのが妥当である。抽出物は、製造方法に応じて成分と含量が変わるというのが特許発明の属する技術分野の常識であるので、構成要素2-1に列挙された温度、圧力、反応時間を異にすれば最終的に得られるアマヅラ抽出物も事前に明らかになっていなかった化合物まで含んで構造と性質が変わらざるを得ない。
(2)構成要素2-2も、請求項2の発明の構成を特定する要素である。ただし、先に挙げたような抽出物の特性上、構成要素2-1の方法で製造したアマヅラ抽出物の成分がダムリンA,Bに限定されると言うことはできない。だとすれば、構成要素2-2は、構成要素2-1の方法によりアマヅラ抽出物を製造したときに、その抽出物に存在する様々な未知の化合物も高温高圧反応処理前と比較して構造と性質等が変化するといえるが、その中で特にダムリンA,Bの(増加した)含量を組成上の特徴としたものと判断するのが妥当である。
続いて、特許法院は、請求項2の発明と先行発明1の構成要素を対比して、先行発明1に高温高圧反応処理は含んでいない点を「差異点1」と認定し、先行発明1が個別成分であるダムリンA,Bについて言及しておらず含量を記載してもいない点を「差異点2」と認めた。特許法院は、差異点1が新たな効果が発生しない程度の微細な差に過ぎないかを判断するには、請求項2の発明と先行発明1の各方法により製造した抽出物が必然的に同じ構成や属性を有するかについて、差異点2を確かめてみなければならないため差異点1と差異点2は併せて検討することが妥当であるとした。その上で、次の事情に照らしてみると、原告が提出した証拠だけでは「先行発明1の方法により製造したアマヅラ抽出物は、製造方法上の差異点1にもかかわらず請求項2の発明と同じ組成を有していることで、差異点2がその抽出物に必然的に内在している構成又は属性に該当する」という点を認めることができないと判断した。
(1)特許発明の明細書には「単純アマヅラ抽出物(TG1022)はダムリンA,B含量が有効効果を奏するほど高くはなく、ダムリンA,B含量を増加させた新規のアマヅラ抽出物(TG1022F)は強力なAMPK活性化能力を有することが確認された。」という記載があり、TG1022のダムリンA、ダムリンB含量は、それぞれ0.37±0.03%(w/w)、0.28±0.02%(w/w)で、請求項2の発明構成要素2-2の0.7~7%(w/w)、0.5~6%(w/w)とは相当な差がある。先行発明1も請求項2の発明のような高温高圧反応処理をしない限り、ダムリンA,B含量が請求項2の発明とは差が生じるものと考えられる。
(2)先行発明5にもアマヅラからこれまで分離されたサポニンを列挙したTable 1.にはダムリンA,Bがない等、特許発明出願日前にダムリンA,Bが報告されていなかったことは、それが単純アマヅラ抽出物には微量に含まれているだけで究明が容易でなかったからであると判断され、増加した含量のダムリンA,Bを得る方法も認識されていなかったと判断される。
(3)先行発明1が一意的に明確に定義された製造方法であるとも認め難い。抽出物には様々な化合物が混合されていて、個別成分の構造と活性を究明することが容易ではなく、抽出方法により抽出物の成分と含量が変化することがある。ところが、先行発明1は「1つの具現例」として(a)~(f)段階を「含む」製造方法を広く例示しており、エタノールの用量、抽出する時間、温度等を限定していない。上記のような条件をどのように設定し、段階を追加するのか等によって抽出物の組成はいかようにも変わり得る。
(4)請求項2の発明において、高温高圧反応処理で脱糖及び脱水反応が生じたときに抽出物内の化合物が全てダムリンA,Bにのみ変換されると言うことはできず、様々な未知の化合物も変化に晒されざるを得ない。その点でも先行発明1、請求項2の発明の各方法で得た抽出物が同じ構成又は属性を有すると断定することはできない(一部の成分、例えば、有効成分であるダムリンA,Bの含量範囲が同じだとしても、抽出物の全体組成は異なると判断すべきである)
(5)これに対して原告は、「被告が先行発明1の明細書試験データの一部が請求項2の発明抽出物(TG1022F)を用いたことを自認しただけでなく、原告が再現した単純アマヅラ抽出物にも構成要素2-2の範囲に挙げるダムリンA,Bが含まれているということが証明されたので、請求項2の発明は、先行発明1に内在している構成又は属性を発見したものに過ぎない」と主張している。しかし、先行発明1の明細書は請求項2の発明と同じ高温高圧反応処理に関して全く言及しておらず、通常のエタノール抽出物とブタノール分画工程を提示しているにすぎない。通常の技術者が先行発明1を参考にして一部創作能力を発揮して製造した抽出物が、構成要素2-2の範囲のダムリンA,B含量を有する場合があるとしても、「先行発明1の一実施例で偶然に指標になる有効成分であるダムリンA,Bが上記範囲で含まれた結果が示された」ということを意味するだけで、「先行発明1の製造方法による抽出物が請求項2の発明の抽出物と必然的に同じ構成又は属性を有する」という点が証明されたと認めることはできない。
専門家からのアドバイス
製造方法で限定された物の発明、いわゆるプロダクトプロセスクレームの新規性・進歩性判断については、韓国でも原則として、製造方法により最終的に得られた生産物を意味するものとしてクレームを解釈する「物同一説」を取る点において、日本と同様である。
本件特許発明は特定の製造方法等で限定された抽出物発明であったところ、その製造方法として高温高圧反応処理をする構成と、その抽出物中の有効成分の含量の構成が、先行発明との実質的な差異点として認められるかが争点となった。特許法院は、当該製造方法で最終的に得られる抽出物の組成が両発明で異なる点を認め、両発明の「物」として違いを認定した。すなわち、先行発明において抽出物中の有効成分の含量に関する構成は、先行発明に開示された製造方法による場合の偶然の結果であり得るとし、先行発明の実施例が特許発明の構成又は属性を有するという点を超えて、その製造発明による結果が必然的に当該構成又は属性を有するという点が証明されなければならないが、本件ではこのような点が証明されなかったとして特許発明の新規性を認めた。
本件は、製造方法で限定された発明の新規性判断について韓国での実務を理解するために、参考にすることができる。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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