知財判例データベース 職務発明において使用者の通常実施権の取得が属地主義に適用されるか
基本情報
- 区分
- 職務発明
- 判断主体
- 大法院
- 当事者
- 原告、被上告人ADM21株式会社 vs. 被告、上告人:パク・セホン
- 事件番号
- 2012ダ4763営業妨害差止
- 言い渡し日
- 2016年01月15日
- 事件の経過
- 上告棄却(確定)
概要
職務発明によって発生する権利義務は、性質上登録が必要な特許権の成立や有・無効又は取消などに関するものではないため、属地主義原則やこれに基づいて知識財産権の保護について規定している国際私法第24条の適用対象であるといえない。職務発明に対して各国で特許を受ける権利は1つの雇用関係に基づいて実質的に1つの社会的事実として評価される同一の発明から発生したものであって、当事者らの利益保護及び法的安定性のために職務発明に由来する法律関係に対して雇用関係準拠法国家の法律による統一的な解釈が必要である。職務発明に関する渉外的法律関係に適用される準拠法は、その発生の基礎となった勤労契約に関する準拠法として国際私法[注1]第28条第1項、第2項等によって定められる法律であると見ることが妥当である。
事実関係
原告は自動車部品であるワイパーを専門に製造、販売する会社であり、被告は2004年3月25日に原告会社に入社し、2005年6月23日に退職した者として、原告が京畿地方中小企業庁の支援を受けて多機能ワイパー開発事業者として選定された後、上記事業の課題責任者として多機能ワイパー開発事業を総括した。被告は原告会社を退職した直後である2005年7月1日頃及びそれから4カ月程経過した2005年11月4日頃、本件発明及び考案について自身を単独発明者(又は考案者)として特許及び実用新案登録出願をして特許権及び実用新案設定登録を受け、各出願に基づいて優先権を主張して外国(カナダなど)に特許出願又は実用新案登録出願をして現在に至っている。
被告は原告がワイパー製品を生産、販売する行為が被告の本件特許権及び実用新案権を侵害するという趣旨の口頭又は文書を外国にある原告の取引先に伝えた。これに対し、原告は被告を相手取って営業妨害差止を請求し、1審で被告の本件特許発明及び考案は職務発明であるので、原告は無償の通常実施権を有するため原告の実施は適法であるという理由で認容された。これに対し、被告は外国特許権及び実用新案権に関する訴訟なので韓国法院に提起した本件訴えは管轄違反として不適法であり、特許の属地主義の性格上原告の通常実施権は韓国でのみ認められるだけで、カナダなど外国で出願及び登録された発明及び考案には及ばないという理由で控訴したが、棄却され、これに対し、被告は上告した。
判決内容
- 国際裁判の管轄に関する上告理由に対して
本件は原告の被告に対する営業妨害差止請求の先決問題として、被告が原告と結んだ勤労契約によって完成して大韓民国で登録した原審判示の特許権及び実用新案権に関する職務発明に基づいて、外国で登録される特許権又は実用新案権に対して原告が通常実施権を取得するかどうかが問題になっているところ、先ず、被告が本件職務発明を完成した場所は大韓民国である事実が分かる。また、原告が本件職務発明に基づいて外国に登録される特許権や実用新案権に対して通常実施権を有するかどうかは特許権又は実用新案権の成立や有・無効などに関するものではないため、その登録国や登録が請求された国家の裁判所の専属管轄に属するものでもない。 - 通常実施権取得の準拠法に関する上告理由に対して
職務発明において特許を受ける権利の帰属と承継、使用者の通常実施権の取得及び従業員の補償金請求権に関する事項は、使用者と従業員間の雇用関係に基づいた権利義務関係に該当する。
法理によると、上記勤労契約によって完成した本件職務発明に基づいて外国で登録される特許権及び実用新案権に対して、原告が通常実施権を取得するかどうかに関する準拠法も上記勤労契約に関する準拠法である大韓民国の法律であるといえ、従って、被告が原告との間に締結された勤労契約によって完成した本件職務発明に基づいて外国で特許権及び実用新案権の登録を受けたとしても、原告はそれに対して旧特許法第39条第1項及びこれを準用する旧実用新案法第20条第1項によって通常実施権を有する。
専門家からのアドバイス
日本とは異なって、韓国では職務発明に基づいて外国で特許を受けた場合の取扱いについて属地主義原則が適用されるかどうかに対して判断をしたことがなかった。本判決は大韓民国で完成した職務発明に対して特許を受ける権利の帰属と承継、使用者の通常実施権の取得及び従業員の補償金請求権に関する事項は大韓民国の法理に従うと判示しているため、今後このような紛争に大いに参考になるものと見られる。
一方、旧特許法第39条第1項及び現行発明振興法によると、職務発明の特許を受ける権利は従業員にある。従って、職務発明の特許を受ける権利を使用者に承継する契約があるとしても、これに違反して従業員が出願をして登録を受けた場合、背任行為が問題になる可能性があるものの、無権利者の出願ではなく、特許無効事由にも属さないため使用者に不合理な側面がある。改正案[注2]によると、承継契約がある場合、職務発明が完成した時に使用者に特許を受ける権利が承継されたものと見なすと修正される。この改正案が通過する場合、日本と同様に使用者主義への大転換がなされる。改正された状態で本事案のような事件が発生したとすれば、従業員の出願は無権利者出願として使用者が正当な権利者として移転請求することが可能になるはずなので、より合理的な措置が取られるものと期待される。
注記
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国際私法
第24条(知的財産権の保護)知的財産権の保護は、その侵害地方裁判所による。
第28条(労働契約)
第1項労働契約の場合に、当事者が準拠法を選択しても、第2項の規定により指定される準拠法所属国家の強行規定により、労働者に付与される保護を剥奪することはできない。第2項当事者が準拠法を選択しない場合に、労働契約は、第26条の規定にかかわらず、労働者が日常的に労務を提供していた国でも使用者に対して訴えを提起することができ、労働者が日常的にある一国家内において労務を提供していない場合には、使用者が労働者を雇用した営業所がある国の法律による。
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改正案
発明振興法一部改正法律(案)が立法予告(2016年8月18日)され、2017年1月に国会提出予定。
第13条
第1項 従業員等がある職務発明に対して予め使用者等(国や地方自治体を除く)に特許等を受けることができる権利を承継させる契約又は勤務規定がある場合、使用者等は職務発明が完成した時に契約又は勤務規定の対象になった権利を承継したものとする。第2項 使用者等が大統領令で定める期間内にその発明に対する権利の放棄意思を文書で知らせたときには第1項による権利の承継は無効とする。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
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