知財判例データベース 音楽著作物の実質的類似性の判断においては、需要者である聴衆の観点を反映させるべきであると判断した事例

基本情報

区分
著作権
判断主体
ソウル中央地方法院
当事者
原告 vs. 被告
事件番号
2013ガ合7566判決
言い渡し日
2014年06月13日
事件の経過
請求棄却

概要

424

音楽著作物の実質的類似性を判断するにおいて、音楽著作物の構成要素であるメロディー、リズム、和声を考慮するものの、これらの要素が一定の秩序によって選択・配列されることによって音楽的構造をなし、人間の聴覚を通じて感情に直接訴えるという音楽著作物の特性を反映させて、音楽の需要者である聴衆の観点を反映させるべきであると判断した事例

事実関係

本件で著作権侵害が問題となった音楽は、歌手PSY(サイ)の「江南スタイル」という曲である。原告は、PSYの「江南スタイル」は、自身が1995年ごろ導入部と同一の動機(モチーフ)を作詞・作曲し、1998年に上記モチーフにリフレインを付けて完成させた後、2007年~2009年ごろに曲名を変えて(編曲後の曲は、編曲前の曲と全メロディーが同一であり、歌詞は導入部のモチーフまでは同じで、リフレインは異なる)編曲した自身の音楽著作物を侵害したものであるとして訴訟を提起した。

原告は、自身が被告の音楽著作物である江南スタイルの共同作曲者であるIと同じ会社に勤務した事実があり、原告が音楽著作物の完成後、複数の人間にこれを聞かせ、被告もこれを聞いたことがあると主張し(依拠性)、被告の音楽著作物は原告音楽著作物のうち導入部である「メイル ノワ アンニョンハヌンゲ ノム シロ ウェンジ アシウォ」とメインのリフレイン部分である「ヘイ ナップン スタイル」の歌詞やメロディー、同型進行形式、性愛表現に続くリフレイン等の特性まで同一であると主張しながら、著作財産権侵害による損害80,010,000ウォン(約800万円)及び著作人格権侵害による損害20,000,000ウォン(約200万円)の賠償を請求した。

判決内容

ソウル中央地方法院は、音楽著作権の侵害成否の判断は音楽著作物の構成要素であるメロディー、リズム、和声を考慮するものの、これらの要素が一定の秩序によって選択・配列されることによって音楽的構造をなし、人間の聴覚を通じて感情に直接訴える音楽著作物の特性を反映させて音楽の需要者である聴衆の観点を反映させるべきで、著作権侵害か否かを区別するために2つの著作物間に実質的な類似性があるか否かを判断するときにも、創作的な表現形式に該当するもののみを対比すべきであるという法理を判示した。

ソウル中央地方法院は、このような法理に従い、本事案の場合、まずメロディーとリズムがかなり異なり、原告が主張する楽節の終止部に特異性のある虚偽終止部分(一瞬、曲が終わったように思える部分)は、たとえ特異性が認められるとしても、具体的な表現には至っていないアイデアに過ぎないため著作権法による保護対象ではなく、また、和声や歌詞においても、原告が主張する特性は具体的な表現には至っていないアイデアに過ぎず、実質的類似性の判断根拠とみなし得ないと判断した。従って、法院は著作財産権及び著作人格権の侵害が認められないとして原告の請求を棄却した。

専門家からのアドバイス

本件は、世界的に人気を呼んだK-POP「江南スタイル」の著作権侵害と関連した事件である。最近、韓国では、法院が音楽著作権に対する保護を拡大させる傾向にあり、その代表的な例として、人気女性歌手グループ・シークレットの「シャイ・ボーイ」判決で、法院は歌に添えられるダンスの振りつけに対しても著作物性を認め、許諾を受けずにダンス教室で振り付けを教えた行為が著作権侵害であると見て損害賠償を認めた。

本件は音楽著作物に対する事案で、法院は音楽著作物の特性を考慮した判断基準を提示している。基本的に、音楽著作物も比較対象となる著作物との比較のために構成要素を分析する作業をすることになるが、このときに基準になるのがメロディー、リズム、和声である。この分析作業において、音楽の構成要素を分離して各要素単位でのみ対比する場合に、ともすると機械的な比較になってしまい、音楽とはそもそも聴衆がその音楽を聞いて感じるものであるという点が看過されがちであるが、法院はこのような点も共に考慮すべきであるとしたのである。音楽著作物の実質的類似性の判断は個別のメロディー、リズム、和声を比較しなければならないのはもちろんだが、それと同時に聞き手が感じる感覚を総合的に考慮して判断してこそ、著作権侵害判断の誤りを避けることができるという点で、本件において法院が提示した基準は極めて適切であるといえよう。

一方、音楽著作物の場合、特異性が認められる部分であっても、その特異性が楽曲の表現にまで昇華したものと見ることができてこそ、著作権法が保護する創作物になり得る。本事案においても、「ヘイ~」や「○○スタイル」のような単語の繰り返しは、それそのものだけでは創作的な表現とは見られないというのが法院の判断である。もしこのような単語の特定位置への使用を著作権法によって保護することになってしまうと、著作権法が目的とする文化の暢達にむしろ逆行する可能性があるという点も、法院がこうしたケースを単純なアイデアに過ぎないと判断した根拠と見られる。

本件判決は、多様な日本の文化コンテンツが韓国に輸入され紹介されている状況の中で、韓国法院が音楽著作物に対する実質的類似性の判断基準を提示したという点で意味深いものであろう。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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