知財判例データベース 上位概念を下位概念に訂正しても、その訂正が所定の許容範囲を超える場合は、新規事項の追加として許容されない

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
原告vs.被告
事件番号
2012フ3404判決
言い渡し日
2014年02月27日
事件の経過
上告棄却

概要

416

名称を「施工石固定方法及びこのための施工石固定構造物」とする本件特許発明において、訂正請求前の特許請求の範囲第1項の「施工石を覆う蓋網」を「それぞれの施工石を一部が突出するように覆う蓋金網」に、「施工石を固定させる連結ユニット」を「それぞれの施工石を一部が突出するように固定させる連結ユニット」に訂正したことは、本件特許発明の明細書等に記載された範囲を超える新規事項の追加に該当するとし、上記のような訂正が不適法であると判断した原審を支持した事案

事実関係

原告は、特許発明(特許登録番号省略)において、本件訂正請求前の特許請求の範囲第‎1項の「施工石を覆う蓋網」を「それぞれの施工石を一部が突出するように覆う蓋金網」‎に、「施工石を固定させる連結ユニット」を「それぞれの施工石を一部が突出するように固定させる連結ユニット」に訂正した。本件特許発明の明細書には、「連結ユニットの間ごとに配置される複数の施工石」及び「蓋金網上に施工石の一部が突出して」という記載があった。‎

原審は、連結ユニット間に施工石が一つずつある場合だけでなく、いくつかある場合、‎即ち連結ユニットによって施工石を個別に固定する場合だけでなく、施工石を全体的に固定する場合も含まれ、蓋金網上にそれぞれの施工石の一部が突出する場合だけでなく、‎一部の施工石のみ突出する場合も含まれ、また特許発明の図面にも一部の施工石の施工状態や概略的な構成のみが示されているだけで、それぞれの施工石の一部が突出することは示されておらず、さらに本件特許発明の明細書等を全体的に詳察しても、それぞれの施工石が蓋金網上に一部ずつ突出したり、連結ユニットをそれぞれの施工石の一部が突出するように固定するという旨の記載は見出すことができず、通常の技術者が明細書等の内容からそのように設けると理解することは難しいという点を挙げ、本件訂正が本件特許発明の明細書等に記載された範囲を超える新規事項の追加に該当すると判断した。‎

一方、原告は上告理由で、特許発明の当初の明細書及び図面の記載は、施工石が連結ユニットによって全体的に固定される場合と個別に固定される場合とをもともといずれも含むものであり、それぞれの施工石の一部が突出する場合だけでなく、一部の施工石のみ突出する場合もともに含まれていたものを、本件訂正によって施工石が個別に固定される場合及びそれぞれの施工石の一部が突出する場合に限定するものなので、これは新規事項の追加に該当しないという旨を主張し上告した。‎

判決内容

特許発明の明細書または図面の訂正は、その明細書または図面に記載された事項の範囲内ですることができる(特許法第136条第2項)。ここで「明細書または図面に記載された事項」というのは、そこに明示的に記載されているものだけでなく、記載されてはいないが、出願時の技術常識から見るとき、その発明の属する技術分野における通常の技術者であれば明示的に記載されている内容自体からそのような記載があるのも同然であると明確に理解することができる事項を含むが、そのような事項の範囲を超える新規事項を追加して特許発明の明細書または図面を訂正することは許容されない。‎

また、明細書または図面に明示的に記載されていたり、通常の技術者がそのような記載があるのも同然であると明確に理解することができる事項の範囲内においてしか訂正が許容されないので、上位概念を下位概念に訂正したとしても、その訂正が上記範囲を超える場合には、新規事項の追加に該当して許容されない。‎

上記のような法理のもとで、大法院は、名称を「施工石固定方法及びこのための施工石固定構造物」とする本件特許発明において、訂正請求前の特許請求の範囲第1項の‎「施工石を覆う蓋網」を「それぞれの施工石を一部が突出するように覆う蓋金網」に、‎‎「施工石を固定させる連結ユニット」を「それぞれの施工石を一部が突出するように固定させる連結ユニット」に訂正したことは、本件特許発明の明細書等に記載された範囲を超える新規事項の追加に該当するので、上記のような訂正が不適法であると判断した原審は正当であると判示した。‎

専門家からのアドバイス

本件は、本件訂正請求前の特許請求の範囲第1項の「施工石を覆う蓋網」を「それぞれの施工石を一部が突出するように覆う蓋金網」に、「施工石を固定させる連結ユニット」を「それぞれの施工石を一部が突出するように固定させる連結ユニット」のようにする訂正において、「それぞれの」及び「一部が突出するように」の文言を付加する訂正が新規事項の追加に該当し、特許法第136条第2項に違背するかどうかが争点になった事案である。訂正における新規事項の追加禁止の問題は、日本でも多くの物議を醸したテーマの一つで、韓国でも判例の蓄積を通じて新規事項の追加の意味を明確にしていく過程にあると言える。日本の場合、日本特許法第134条第2項ただし書は、「明細書または図面に記載された事項の範囲内」において訂正をすることができると規定している。この文言の意味について、知財高裁平成20年5月30日平成18年(行ケ)第10563号判決において、当業者により明細書または図面の全ての記載を総合することによって導き出される技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入しないものでなければならないと判示したことがある。

このような法理は、韓国においても基本的に同一であるといえるが、留意しておきたいのは、特許請求の範囲に記載された上位概念を下位概念に減縮する訂正であっても、訂正前の上位概念の中から、最初の明細書により裏付けられていない下位概念を訂正によって追加することは、特許請求の範囲を実質的に拡張したり変更することに該当すると判断している点である(特許法院2005年10月13日言渡2005ホ2441判決)。本件でも、大法院は、原告主張のように、訂正前の請求の範囲は「一部が突出する場合」と「一部が突出しない場合」を含む上位概念であると考えることもできるが、通常の技術者の観点から「それぞれの施工石の一部が突出する場合」を容易に予見することができないので、これを新規事項の追加と判断している。特許法の考え方としては至極当然のことであるが、権利を幅広く確保したい出願人はとかく我田引水の理屈に陥りやすい。上位概念を下位概念に減縮して訂正することが無条件に然許容されるのではなく、通常の技術者の観点から予見可能なものかどうかを判断すべきであるという点を改めて明示した点でこの大法院判決は意味がある。

ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム

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