知財判例データベース 弁論終結後でも重要証拠が提出された場合、弁論再開申請と善解し、実質的に追加証拠を考慮する途を開いた事例

基本情報

区分
特許
判断主体
大法院
当事者
ビ・アンド・ビ・エム・スティール(原告)v.被告
事件番号
2012フ436
言い渡し日
2013年04月11日
事件の経過
破棄差戻し

概要

388

審決取消訴訟において、周知慣用技術であると主張する内容が訴訟上の公知、または顕著な事実であると見なせるほど一般的に知られていない場合は、その証明を必要とする。このとき、裁判所は、自由心証に基づき、証拠などの記録に示された資料によって周知慣用技術を認めることができるが、弁論終結後に提出された参考資料までもこれに含めることはできない。 一方、当事者が弁論終結後、主張・証明を提出するため、弁論再開申請をした場合、それを受け入れるか否かは、原則として裁判所の裁量に属するが、当事者に責任を帰すことが難しい事情により主張・証明を提出する機会を得られず、その主張・証明の対象が判決の結果を左右する要証事実に該当する場合等のように、当事者に弁論を再開しその主張・証明を提出する機会を与えず、敗訴の判決を下すことが民事訴訟法上の正義に反する場合、裁判所は、弁論を再開して審理を続行する義務がある。そして、当事者が弁論終結後、追加に主張・証明を提出するという趣旨を記載した書面や資料を提出している場合、たとえ弁論再開申請を提出していないとしても、弁論再開の申請として善解することができる。

事実関係

本件は、名称を「強管支柱の連結構造」とする考案についての無効審判の審決取消訴訟に関するものである。原審は、考案の一部の請求項については、進歩性が否定されるという理由により、無効を認めたが、一部請求項の考案について、「強管支柱に一つの管形補強材が内挿、もう1つの管形補強材が外挿されて一体に形成された構成」(以下、「本事件の構成1」という。)は、周知慣用技術に該当しないなどの理由により、進歩性は否定されないという判断を示した。

この際、原告は、弁論終結後、多数の先行技術を参考資料として提出し、本事件の構成1は、周知慣用技術である旨の主張を行ったが、原審裁判所は、これを採用せず、そのまま原告敗訴の判決を言渡た。

判決内容

  1. 周知慣用技術の判断及び弁論終結後の証拠の取扱い
    大法院は、まず、周知慣用技術の認定に関し、ある周知慣用技術が訴訟上の公知、または顕著な事実であると見なせるほど一般的に知られていない場合、その周知慣用の技術は、審決取消訴訟において証明を必要とすると判示した。そして、裁判所は、自由な心証に基づき、証拠などの記録に示された資料を通じて周知慣用技術を認定することができるが、弁論終結後に提出された参考資料まで、ここにおける「証拠等の記録に示された資料」に含めることはできないと判示した。そして、原告が弁論終結後に提出した参考資料を証拠として採用せず、本事件の構成1を周知慣用技術として認めなかった原審の判断について、上記法理に基づいたものであり、違法はないとした。
  2. 審決取消訴訟における弁論再開の必要性の判断

    大法院は、当事者が弁論終結後、主張・証明を提出するために弁論再開申請を行った場合、それを受け入れるべきか否かについて、原則として裁判所の裁量に属するものとしつつ、当事者に責任を帰し難い事情により、主張・証明を提出する機会を得られず、その主張・証明の対象が判決の結果を左右する要証事実に該当する場合等のように、当事者に対し弁論を再開しその主張・証明を提出する機会を与えず、敗訴の判決を言い渡たすことが民事訴訟法上の正義に反する場合には、裁判所は、弁論を再開して審理を続行する義務があると判示した。

    また、大法院は、当事者が弁論終結後に追加で主張・証明を提出するという趣旨を記載した書面と資料を提出した場合、これを弁論の再開を求める趣旨の申請として善解することができると判示し、本件について当事者が参考書面と参考資料のみを提出し、別途に弁論再開申請書を提出しなかったという事情だけで、弁論再開申請がなかったとすることはできない旨判示した。

    そして、大法院は、このような前提に基づき、本件の構成1が周知慣用技術であったか否か等について、進歩性を判断するにおいて主要な要素であり、また、原告による参考資料の提出などは、弁論の再開を求める趣旨の申請として善解すべきであり、原告が別途弁論再開申請書を提出していないことを理由に、直ちに本事考案について判決を行った原審に違法があったと判断した。

専門家からのアドバイス

審決取消訴訟は、行政訴訟の一種として、職権主義の性格を有するという立論が可能であるが、実務上においては、弁論主義が適用されている。そのため、裁判で主張されなかった事項について判断を行ったり、提出されていない証拠に基づいて判断を行うことは、許容されていない。これに関し、大法院は、「行政訴訟の一種である審決取消訴訟に職権主義が加味されたとしても、弁論主義を基本構造とする以上、審決の違法をあげながらその取消しを請求するときには、職権調査事項を除いては、その取消しを求める者が違法事由に該当する具体的な事実を先に主張すべきであり、したがって、裁判所が当事者が主張してもいない法律要件について判断を行うことは、弁論主義の原則に反するものである。」と判示している(大法院2011年3月 24日宣告 2010フ3509 判決)。こうしたこと考慮すると、弁論終結後に提出された参考資料を証拠として採用できないとした判断は、過去の判例に則ったものであると理解される。この点においては、審決取消訴訟に実務上弁論主義を採用し、また、時機に後れた攻撃防御を認めない日本の訴訟とおおむね同様と考えてよいだろう。

一方で、この判決において実務上留意すべきところは、弁論再開と関連した説示にある。大法院は、弁論終結後に提出された参考資料は、証拠として採用できないと判断しながらも、弁論終結後に参考資料を提出する行為を弁論再開申請と善解できると判示し、適時に提出されなかった証拠資料を実質的に考慮する途を開いている。

こうした大法院の態度は、職権主義の性格を有している審決取消訴訟の特徴を勘案し、また、日本の審決取消訴訟に比して、証拠主張の追加が可能な無制限説を取り入れるなど、訴訟の一回的解決を優先する考えが根底にあるものと思われるが、弁論再開申請すらしなかった場合まで救済することが妥当かについては、考えるところがあるであろう。

しかし、いずれにせよこの判決は、大法院が弁論終結以降においても、重要な証拠などであれば、弁論再開の途が開かれたものであり、韓国において審決取消訴訟を争う上で、実務上きわめて重要なものといえるだろう。

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