知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)PPAPと知的財産権(PUDT)
2017年02月08日
The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.101)
日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 笹野 秀生(特許庁出向者)
2016年に日本発の楽曲パフォーマンス「PPAP」がYOUTUBEを通じて世界中を席巻しました。この「PPAP」を第三者企業B社が商標出願し、パフォーマーが所属するA社に無断使用をしないようにとの警告状を送ったというニュースが最近話題になっています。このような有名な文言を用いて第三者が商標権取得できるものでしょうか?日韓それぞれの場合で見てみます。
出願の状況
2016.10.5に大阪府のB社が日本で「PPAP」の商標出願(出願番号:2016-108551)を行い、その後2016.10.14にA社が全く同じ文言で商標出願(出願番号:2016-112676)を行っています。
(541)標準文字商標 | PPAP |
---|---|
(561)称呼 (参考情報) | ピイピイエイピイ |
商標出願は、内容的には文言や図柄等からなる「マーク(商標)」と、そのマークを適用する「指定商品/役務(サービス)」とからなります(1出願に複数の商品/役務を指定可能)。マークが同一でも指定商品/役務が異なれば、別々に登録を受けられる可能性があります。
A社及びB社の出願はマークが同一ですが、指定商品/役務が一部異なります。両社とも「インターネットを利用して受信し及び保存することができる音声・音楽ファイル」を指定商品としてますが、B社が「音楽の演奏」を役務として指定しているのに対し、A社は指定していない等の違いがあります。その他、両社ともに「おもちゃ」、「飲料」、「医療機器」等、平均的な出願より多い、実に多様な商品/役務を指定しています。更に、B社は「ペンパイナッポーアッポーペン」というマークを使用するなどして、同年11月に関連出願を6件出願しています。
これらの出願は、いずれも現在審査中であり、商標権が登録されたという段階ではありません。
なお、韓国の特許・商標等を検索できるサイトKIPRISで「PPAP」を検索すると2016.2.1現在で72件ヒットしますが、一部に同じ文字列が入っている「PPAPPADON」のようなものが多く、「PPAP」そのものは見当たりません。
日本特許庁の対応と商標登録の要件
日本特許庁は、2016.5.17にホームページ上で「自らの商標を他人に商標登録出願されている皆様へ(ご注意)」という注意喚起をしています。これは、近年一部の出願人が、世間で流行している文言などを利用して、商標の先取りとなるような商標出願を大量に行っているという状況を受けてのことです。 商標制度は基本的には先に出願した者が権利を取得できる「先願主義」を採用しています。しかしながら、次の(1)及び(2)の場合は、先に出願していたとしても、商標登録が受けられません。
(1)自己の業務に係る商品・役務について使用するものでない場合(日本商標法3条1項柱書)
(2)他人の著名な商標の先取りとなるような出願や第三者の公益的なマークの出願である等の場合(同法4条1項各号)
よって、正当な権利者であれば先に他人に出願されたというだけで諦める必要はないというのが、上記注意喚起の趣旨です。
また、上記(1)の要件については、通常の出願では利害関係者の申立を受けて検討されることがほとんどですが、特許庁は一個人や一企業等が本来想定される商標の使用の範囲を超える多数の出願を行う場合には、上記(1)に該当する蓋然性が高いとして登録されない旨をアナウンスしています。
したがって、B社の上記商標出願は上記(2)の場合はもちろん、(1)の場合にもあてはまる可能性が高いと言えるでしょう。
韓国の場合どうなるか?
韓国においても、日本の上記(1)及び(2)に相当する条文(商標法3条1項、34条1項各号)が存在します。
特に、2014年の商標法改正で導入された、同法34条1項11号では、著名な他人の商品又は営業と混同を生じさせたり、識別力や名声を害するおそれがある商標は登録できないとされており、異なる指定商品/役務での登録も防止できるようになっています。これは、韓国でも「シャネル」等の著名なブランド名を使い、指定役務を「カラオケ」等として商標登録しようとした事例等が問題になったことを受けての措置でした。
また、同法34条1項13,14号では、国内だけでなく、外国において著名な商標/地理的表示と同一・類似であって、不当利益を得ようとするなどの不正目的で使用する商標の登録も防止できるようになっています。本連載のNo.82に掲載した「TOKACHI」商標は、この条文で拒絶されたものです。
もし韓国で「PPAP」が商標出願される場合には、上記条文を適用することが想定できます。しかし、著名性の判断は各国の国内事情によって異なることと、指定商品/役務が何か等の事情によって不正目的かどうかの判断が異なることから、不確定要素があることは否めません。したがって、やはり一般的には、その国で事業展開の可能性があれば先に商標(特許等も同様)を出願して登録を受けておくということが、最も有力な対策となるでしょう。
PPAPではないですが、事業戦略上は特許(Patent)、実用新案(Utility Model)、意匠(Design)、商標(Trade Mark)といった出願・登録が必要な知的財産権(PUDT)を常に意識したいものです。
今月の解説者
日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 笹野秀生(特許庁出向者)
95年特許庁入庁。99年に審査官昇任後、情報システム室、審判部審判官、(財)工業所有権協力センター研究員、調整課品質監理室長を経て、2014年6月より現職。
本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。
ジェトロ・ソウル事務所知的財産チーム
ジェトロ・ソウル事務所 知的財産チームは、韓国の知的財産に関する各種研究、情報の収集・分析・提供、関係者に対する助言や相談、広報啓発活動、取り締まりの支援などを行っています。各種問い合わせ、相談、訪問をご希望の方はご連絡ください。
担当者:大塚、柳(ユ)、李(イ)、半田
E-mail:kos-jetroipr@jetro.go.jp
Tel :+82-2-3210-0195