知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)迅速・簡便な紛争解決(仲裁・調停)

2015年02月11日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.77)
鄭陳燮 法律事務所SOUL 代表弁護士、弁理士

外国企業が韓国の裁判所で訴訟をするためには多くの時間と費用がかかり、手続も複雑である。しかし、紛争を訴訟によらず解決する手段として、仲裁・調停制度があり、より迅速・簡便に解決を図ることが可能となっている。本稿では、これら制度の概要と共に、知的財産権紛争を解決するための専門分野別の仲裁・調停機関を紹介する。

仲裁・調停とは?

  • 仲裁制度
    韓国の仲裁制度の根拠法令は、1966年3月16日に制定された法律第1767号の仲裁法である。「仲裁」とは当事者間の合意により司法上の紛争を法院の判決によらず、仲裁人の判定により迅速に解決することを目的にする手続をいう。仲裁の本質は、私的裁判というところにあり、その点において当事者の互譲による自主的な解決である裁判上の和解及び調停とは異なる。
  • 調停制度
    韓国の調停制度の根拠法令は、裁判所に調停委員会を設置する内容の民事調停法、家事調停法などがあり、その他多様な専門分野別に著作権法、特許法など多くの法令に調停委員会設置規定を置いている。「調停」とは、法律紛争を簡易な手続によって当事者間の相互了解を通じた条理に基づき、実情に合うように解決することを目的とする平和的紛争解決手続をいう。調停の成立に関係人の合意を要するという点において訴訟とは本質を異にし、民間人が参加する調停委員会の主導が原則である。

大韓商事仲裁院

韓国で民・商事紛争の解決において最も代表的な仲裁機関は、大韓商事仲裁院である。1966年3月の仲裁法制定、1967年のICSID 条約(投資家対国家の紛争解決に関するワシントン条約)に加入以来50年の歴史と伝統を有し、そこに適用される商事仲裁規則および国際仲裁規則は、大法院長に承認、制定され、国内外の信頼度が高く、経験豊かな専門家仲裁人が集まっており、国際的にも紛争解決力が認められている。

最近、2013年度に大韓商事仲裁院が処理した国際仲裁事件処理実績をみると、アジア・太平洋地域が65%と過半数を占め、日本企業に関する事件は約6.3%である。ただし、仲裁機関の活用には制限要素も少なくない。まず、取引契約当時の仲裁条項がない場合には、仲裁手続を相手方に強制する方法がない。また、仲裁判定の効力は、当事者の意思に拘らず、確定判決と同一の効力を持つため、不利な仲裁判定を憂慮する当事者の忌避傾向が強い傾向がある。これにより韓国でも最近は任意的紛争調停手続が注目されている。

大韓商事仲裁院の仲裁事件の現況

その他の任意的紛争調停機関

韓国著作権委員会は、1987年に設立された。調停実績と調停委員の専門性により著作権分野の紛争解決機関として信頼度が高い。特許・商標分野では、1995年に特許庁産業財産権紛争調停委員会が設立されたが、これまで有名無実な運営であるとの評価を受けている。半導体集積回路設計紛争解決のための配置設計調停委員会も1995年に設立されたが、この委員会も現在まで調停実績がなく形骸化している。

一方、2000年代以降に設立された調停委員会は比較的活発に運営されている。

2000年に設立された電子文書電子取引紛争調停委員会は、物品取引紛争が58%、サービス取引紛争の割合が42%程度であるが、2012年の1年間だけで調停件数5,596件に達した。2005年に設立されたインターネットアドレス紛争調停委員会は、ドメインネーム紛争調停機関として定着し、2011年に設立されたコンテンツ紛争調停委員会は、ゲーム関連紛争が84%と大多数を占めている。

その他にも、2014年11月29日に中小企業技術保護支援に関する法律が施行されたことに伴い、中小企業技術紛争調停・仲裁委員会が設立され、まもなく稼動する予定である。

また、大韓商事仲裁院も仲裁手続ではない任意調停手続を運用しており、その調停事件の誘致に力を注いでいる。したがって、外国企業が韓国で知的財産権紛争を経験する場合には、訴訟提起の前に該当分野に相応しい専門仲裁、調停機関を先ず当たって迅速・簡便な解決を図ることを勧めたい。

今回の解説者

鄭陳燮 法律事務所SOUL 代表弁護士、弁理士、法学博士、前慶煕大学校法大教授、大韓商事仲裁人協会知識文化産業フォーラム委員として活動中
(監修:日本貿易振興機構=ジェトロ=ソウル事務所副所長 笹野秀生)

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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