知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)稼げる特許「名品特許」の重要性

2025年05月14日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.200)
ジェトロ・ソウル 副所長 大塚 裕一(特許庁出向者)

2025年に入りまして、韓国特許庁から相次いで「名品特許」についてのプレスリリースがなされています。「名品特許」は、日本では聞きなれない用語ですが、簡単に言い換えますと「稼げる特許」ということになります。より具体的にどのような特許が該当するのか、以下詳細について解説を行います。

1.知財を好循環させる革新的エコシステム

韓国特許庁は3月26日、「知財戦略研究会」(以下、「戦略研究会」)を立ち上げ、第一次会合を開いたと発表しました。戦略研究会は、「名品特許」で知財政策のパラダイムを変える方策について議論を行うもので、ペク・マンギ韓国知識財産研究院理事長が委員長を務め、企業・研究機関・学界・法曹界など17人の主要人物が参加したとのことです。この戦略研究会で、知財を好循環させる革新的エコシステムについて、議論が行われました。
研究開発の段階では、昨今韓国や日本でも研究が進められているIP R&Dを活用して、特許情報等を分析することによって、研究開発の方向性を検討し、その結果の成果物の品質向上に寄与することが重要となります。次に、R&Dの成果物として特許出願を行うにあたって、企業や代理人などの出願人が作成する出願品質の向上が重要となります。これは、いかに優れた発明を行ったとしても、特許権として不十分な内容で出願してしまうと、その後のビジネスモデルに合致しないなどの理由で、十分に特許権の力を発揮できない可能性が存在するため出願品質は重要となります。特許出願された後、特許庁による審査が行われます。この段階では、革新的技術を「名品特許」とするための審査が求められます。一般に特許権は、広い権利範囲として設定登録されればビジネスにおいても幅広く権利の活用が可能となります。一方で広い権利範囲である場合、先行技術が存在している可能性も高まり、権利付与後に無効審判等において、権利が無効化されるリスクも高まります。このような背景もあって、特許庁の審査段階においては、いかに広く・安定した権利設定を行うのかが重要となってきます。そして、審査の後、場合によっては審判手続きとなりますが、審判段階では、権利についての審査結果が確定した後の審理となりますので、特許権の安定性を高めるための確かな結果を導く制度が重要となります。そして、権利が確定された後は、出願人側において、その「名品特許」を経済的な利益につながるような事業化・輸出等を行い、その利益を活用してさらなるR&Dにつなげるという流れが、知財を好循環させる革新的エコシステムとなります。またこのエコシステムに付随して、権利侵害などの訴訟は、裁判手続きにおいて行われますが、この段階においても、知財の価値を正しく保護する必要性も存在します。戦略研究会では、これら知財エコシステムの全般において重点課題を洗い出し、企業・研究機関などの技術革新の主体や専門家からの意見を幅広く取り入れて政策の実効性を高めていくよう議論が進められるとのことです。

2.中堅企業と名品特許

韓国特許庁の4月3日付のプレスリリースによりますと、韓国中堅企業連合会と知財懇談会を開き、「名品特許」を生み出す環境づくりに向けた業務協約を締結したと発表されました。韓国で中堅企業の数は5,868社と全体企業数の1.4%に過ぎないものの、平均51.5件以上の産業財産権(特許、実用新案、デザイン、商標)を保有しており、それを基に韓国における全体輸出の17.8%(1,123億5,000万米ドル)、全体売上高の15.2%(984兆3,000億ウォン)、全体雇用の13.6%(170万4,000人)を占めることから、韓国経済の核心的主体であり、産業エコシステムの中心であると認められます。一方で最近は、中堅企業における主力技術と特許出願の動向が鈍化しており、特許・実用新案権分野の貿易収支の赤字幅が拡大傾向にあるため、中堅企業の質的成長に向け高品質の特許権を確保する重要性が浮上しています。トランプ政権が掲げるアメリカファーストに基づいた通商政策では、知的財産権の保護が重要な課題として取り上げられているため、米国市場への輸出の割合が56.8%と大きくなっている中堅企業には保有技術や製品について知的財産権の確保から、原材料・部品などバリューチェーンの中での知財侵害の可能性まで視野に入れた徹底した対応が迫られているとの認識が示されています。

まとめ

稼げる特許「名品特許」は、単純に技術開発だけの話にとどまらず、研究開発から、出願、審査、審判、事業化・輸出、裁判と総合的な対応が求められます。世界的にも関税に関する対応が必要となる中、今後の知財戦略を考えるうえで、「名品特許」の在り方が重要性を増しており、今後の韓国における政策を注視したいと思います。
今回で、本記事のFile No.が200となりました。本知財記事をご覧いただいております皆様に厚くお礼申し上げます。今後とも、何卒宜しくお願い致します。


今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 大塚 裕一(日本国特許庁知財アタッシェ)
2002年日本国特許庁入庁後、特許審査官・審判官として審査・審判実務や管理職業務に従事。また特許庁 総務課・調整課・審判課での課長補佐、英国ケンブリッジ大学客員研究員、(国)山口大学大学院技術経営研究科准教授、(独)INPIT知財人材部長等を経て現職。

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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