知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国における特許取消申請審判の現況

2021年03月10日

File No.150
特許法人We The People
金東燁 (キム・ドンヨプ)首席弁理士

韓国の特許取消申請制度は、登録された特許に新規性違反及び/又は進歩性違反等の特許取消申請事由がある場合、取消申請人がこれを理由として特許審判院に申請すれば、特許審判院がこれを審理して特許取消又は特許維持の決定を下す制度であって、日本の特許異議申立制度と類似性のある制度と考えることができます。

2017年3月の施行以降4年間の韓国特許審判院での特許取消申請制度の運用状況を調べることにより、特許取消申請に係る実務への理解を深める契機になることを願います。

特許取消申請及び審決(決定)の現況

過去4年間の特許取消申請件数と韓国特許審判院での審決(決定)件数の推移は次の表のとおりです。

過去4年間の特許取消申請件数と韓国特許審判院での審決(決定)件数の推移
2017 2018 2019 2020
申請件数(件) 110 154 176 155
審決(決定)
件数(件)
5 67 190 198
処理期間(月) 0.8 8.9 11.3 9.3

2019年から韓国特許審判院で特許取消申請に対する審決が本格的に進められており、2019年には11.3ヶ月かかった処理期間も2020年には9.3ヶ月に短縮されました。

技術分野別の特許取消申請の現況

2020年12月31日までの審決(決定)された計460件に対して取消申請された特許権の技術分野を見てみると、化学・薬品分野が全体の55.2%を占めていることを知ることができます。

化学・薬品分野は特許権の設定による企業の利害関係が鋭く対立するためであると思われます。

出願人国籍別の特許取消申請の現況

登録特許出願人の国籍別に特許取消申請が提起される割合を見てみると、韓国(246件、53%)-日本(125件、27%)-米国(45件、10%)-ドイツ(14件、3%)-オランダ(10件、2%)の順で出願人の特許取消申請が提起されたことを示します。

日本国籍の出願人の韓国における特許登録占有率は2019年に9%であるのに対し、特許取消申請の割合が27%であることから、韓国では、日本企業の登録特許に対する再検討の要求が、米国等、他の国の企業の登録特許に対する再検討要求よりも相対的に大きいということが分かります。

特許取消率の現況

特許取消申請による審決(決定)によって登録決定された特許権が取り消される割合は30%前後です。

特許取消率の推移
2017 2018 2019 2020
特許取消率(%) 23.4 33.9 30.5

この推移は、無効審判による特許権無効率40~50%よりは低いですが、一定程度高い割合であるといえます。

日本国籍出願人の登録特許取消率は25.0%で、韓国国籍の出願人と米国籍出願人の特許取消率、各33.8%と35.7%に比べて低いといえます。

まとめ

特許取消を申請しようとする者が特許取消申請制度をうまく活用すれば、低コストと比較的簡単な手順で登録されるべきではない特許の権利化を阻止することができます。

一方、所定の過程を経て入念に獲得した登録特許を守る立場の特許権者は、適切な訂正 請求と技術説明会及び審判官面談を含む積極的な意見開陳により自分の権利を守ることが好ましいと考えられます。


今月の解説者

特許法人We The People金東燁 (キム・ドンヨプ)首席弁理士
元特許庁審査官、特許法院技術審理官、特許審判院審判官(監修:日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所副所長 土谷慎吾)

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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