知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)自分の発明を他人が勝手に特許取得したら?

2016年09月21日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.96)
特許法人ムハン 代表弁理士 千 成鎮(チョン・ソンジン)

私の発明を他人が私の許可を受けずに韓国に特許出願をして特許登録がなされた場合、どうなるのだろうか。正当な権利者が行った特許出願ではないため、特許無効になるのだろうか。私は私の発明に対する特許を受けることができるのだろうか。
近年、これに関連する事件に対し、韓国最高裁判所の判決が出され、更にこの問題についての法律改正もなされた。本稿では、韓国におけるこの問題への従来及び今後の取り扱いについて紹介する。

1.事件の概要

企業Aは、2008年に1つの携帯電話に2つ以上の電話番号を付与して使用できる「two-phone service」技術について特許登録を受けた。ところが、企業Bは、この技術は自分たちが開発したものであり、企業Aにサービスの提案をしてその技術を説明したにもかかわらず、企業Aが単独でその技術に対する特許出願をして登録を受けたとしながら、2011年に上記の特許に対する特許権移転の請求訴訟を提起した。

これに対し、1審、2審、及び3審(最高裁判所)は企業Aに軍配を上げた。韓国特許法では、正当な権利者(発明をした者又はその承継人)でない者が行った特許出願に対して特許権の設定登録が行われた場合、特許無効理由に該当し(第133条第1項第2号)、そのような理由によって特許を無効にするという審決が確定された場合には、正当な権利者は、その特許の登録公告があった日から2年以内、及び審決が確定された日から30日以内という期間内に特許出願をすることにより、無効にされた特許の出願時に特許出願が行われたとみなされて救済を受けることができる(第35条)と規定している。

そのため、韓国最高裁は、「たとえ原告がこの事件の特許発明に対して特許を受けることができる正当な権利者で、被告は無権利者であるとしても、原告は、その原因を基にこの事件特許に対する登録無効審判を提起し、この事件特許を無効にする確定審決を受けて一定の期間内に特許出願をすることによって出願日の遡及が認められる方法で自身の正当な権利を回復しなければならず、この事件特許に対する被告に直接移転を求めることはできない」として原告(企業B)の主張を棄却した。

即ち、正当な権利を有さない者(無権利者)が特許出願をして登録された場合、その特許は無効審判によって無効にすることができるものの、正当な権利者は、特許登録の公告日から2年以内「及び」無効審決の確定日から30日以内に特許出願をすることによってのみ特許登録を受けることができるというものであった。

しかし、上記の事件の場合には、企業Bが企業Aの特許登録日から3年が過ぎた後に企業Aの特許登録を発見したものと思われる。企業Bが企業Aの特許登録日から2年以内に発見したとすれば、韓国特許法の規定に従って無効審判を提起し、該当特許を無効にした後に、自身が特許出願をして特許を受ける方法を選択したと考えられるためである。企業Bの立場では、企業Aの特許登録日から3年が過ぎていたため、無効審判を提起する方法では救済を受けることができないため、裁判所に特許権移転の請求訴訟を提起したものと考えられる。しかし、韓国の裁判所は、特許法に無権利者の特許出願に対して正当な権利者を保護するための法律が規定されているため、その他の方法(特許権移転の請求訴訟)によって正当な権利者を保護することはできないと判断した。

2.今後の取り扱い(改正法を受けて)

上記のように、これまでの法律は、正当な権利者を十分に保護できないものであった。そこで、本年、この件と関連する特許法の規定(前記特許法第35条)が、無権利者の特許に対して無効審決が確定した日から30日以内に正当な権利者が特許出願をすることによって、救済を受けることができると改定された。即ち、無権利者の特許に対して、特許登録から2年以内という制限無しに、いつでも無効審判を提起して救済を受けることができるようになった。さらに、追加の改定として無権利者に対して正当な権利者が特許権移転の請求訴訟を提起することも可能になった。

従って、今後は、無権利者が私の発明に対して特許を受けたとしても、いつでも特許無効審判又は特許権移転の請求訴訟によって、正当な権利者が保護されるようになった。例えば、企業Aと企業Bが共同研究開発をしたが、企業Aが企業Bの許可無しに単独で特許出願をして特許登録を受けたような場合にも、企業Bは特許無効審判又は特許権移転の請求訴訟によって権利を保護することができる。

参考までに、本改定は、2017年3月以降に韓国特許庁で設定登録される無権利者の特許登録に対して適用される。

今月の解説者

特許法人ムハン 代表弁理士
千 成鎮(チョン・ソンジン)
1994年弁理士試験合格(首席)。95年ソウル大学工科大学院コンピューター工学科卒業。
95年~99年サムスン電子に研究員勤務。2000年~02年金&張法律事務所に勤め、02年に特許法人ムハンを共同設立。
現在、特許法人ムハン代表弁理士。韓国情報工学会、韓国弁理士会(KPAA), AIPPI, APAA活動。
(監修:日本貿易振興機構=ジェトロ=ソウル事務所 副所長 笹野秀生)

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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