知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)誰かが勝手に商標を登録?―「冒認商標」への対策―
2013年02月13日
The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.53)
日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 岩谷 一臣
ビジネスパーソンならご記憶の方も多いと思うが、一時期、日本の地名が中国などで勝手に商標登録されているという事例が話題になった。このように、本来権利を有していない者が商標を勝手に出願し権利化してしまうことを「冒認商標」と呼ぶが、もしかしたら、御社の商品名やサービス名も誰かが勝手に商標登録してしまっているかもしれない。
「冒認商標」とは
聞きなれない言葉ですが、これは、本来権利を有していない者が他人の商標を勝手に出願・登録してしまうことを意味します。自国・他国問わず、ビジネスを行う上で商標登録を行うことは常識です。例えば、日本で商標登録済みでも、韓国で登録を行わずに商品やサービスを販売・提供した場合、商標権侵害で訴えられる可能性が極めて大きくなり、損害賠償はもちろん、当該商品などの提供ができなくなったり、名称を変更しなければならないなど、甚大な被害が生じ得ます。
そのため、韓国においても商標登録を行うことが絶対必要ですが、それでは、他人が自社の商標を勝手に出願、登録していた場合、どうすればよいでしょうか?
「冒認商標」への対策
多くの問題と同様、「冒認商標」対策も、早期に行えば行うほど安価、かつ容易に対策が可能です。例えば、韓国への進出計画の初期に出願しておけば、そもそも他人に勝手に権利を取得されてしまうこともないかもしれません。あるいは、他人が勝手に出願した後であっても、韓国特許庁において審査中であれば、商標権として登録されないよう、簡易な手続きで対策を講じることが可能です。一方、すでに商標登録済みとなると、当該権利を消滅させる必要がありますが、その対策は、比較的困難なものになってきます。
(1)情報提供
この制度は、商標出願が韓国特許庁において審査中であり、登録前であればだれでも利用することができます。韓国の商標法では、日本の場合と同様、韓国においてすでに登録している自社商標や、すでに韓国内で使用しており韓国の需要者によく知られている自社商標と同一・類似な商標は、登録を受けることができません。また、仮に自社商標を韓国において登録・使用していない場合であっても、日本など他国でよく知られている商標を不正の目的で第三者が出願した場合なども、やはり登録を受けることができません。
そこで、この制度を利用し、韓国特許庁に対し、出願中の商標がこれらの要件に当てはまっている旨の情報を提供すると、審査の際、審査官がその内容をきちんと考慮し、判断をしてもらうことが可能となります。
(2)異議申立
この制度は、審査官が商標出願を登録する旨の決定を行い、その公告をした後、2カ月以内に申し立てを行うことが可能です。上述(1)のような事情(いわゆる「拒絶理由」)がある場合、異議申立書にその理由と証拠を記載し、特許庁に提出すると、3名の審査官の合議により当該異議の審査が行われます。この手続きは、通常書面で行われますが、異議申立書や意見書の提出など、情報提供よりは複雑な手続きが必要となります。
(3)無効審判
すでに相手方の商標出願が登録されている場合、無効審判、または後述の取消審判により当該登録商標を消滅させる必要があります。無効審判を請求する理由は、一部を除き上述の拒絶理由の場合とほぼ同様ですが、審判請求書など必要な書面の提出のほか、審判廷に出廷し、意見陳述などを行う必要があります。
(4)取消審判
無効審判とは別に、登録された商標を取り消すための手段として、取消審判があります。この審判では、1)出願日1年以内に自社の代理人であった者などが日本などで登録されている商標を勝手に出願した場合(だだし、当該商標登録日から5年以内に要請求)、2)当該登録商標が3年以上使用されていない場合、3)商標登録権者などが当該登録商標を故意に他社商標と誤認混同するような形で使用している場合の3種類について、登録商標の取り消しを求めることができます。
むすび
韓国市場は、日本と嗜好(しこう)性が比較的似ている上、日本製品には安全・高品質といった印象があるため、商品やサービスに日本的な名称を付ける例が散見されます。その上、近年、食品や流通産業など知的財産になじみの少ない企業の進出も増えているようです。
ジェトロソウル事務所では、韓国における商標出願・登録の調査や、商標出願の基礎的な情報、その他日本語対応が可能な現地特許法人などの情報を掲載しておりますので、ご参考にしていただければ幸いです。
今月の解説者
日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 岩谷 一臣(特許庁出向者)
92年特許庁入庁。96年に審査官昇任後、特許情報課、特許審査調査室、調整課人事担当、ヨーロッパ特許庁派遣、2007年に審判官昇任。その後、審判課法規担当、主任上席審査官昇任を経て、2011年6月より現職

本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。
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