知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)特許侵害差止の仮処分申立が特許権者にブーメラン?!

2013年08月02日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.59)
特許法人NAM&NAM 鄭 賢珠

特許侵害が発生したとき、あなたはどのように対処するだろうか。侵害訴訟を行うには、相当な時間がかかる。そこで、侵害品の差し止めなどを行う迅速な措置として、仮処分申し立てがしばしば行われる。ところが、仮処分申し立てにより、特許権者にとって法的リスクが拡大する場合があることをご承知だろうか。
迅速な措置が期待されるため、ともすれば乱発されがちな仮処分であるが、その申し立てには、慎重を期すべきであろう。

仮処分申し立ての実効性

仮処分は、特性上、その申し立てが認容されると、債務者(侵害者)にとって差止めなどの致命的な損害を被るおそれがあり、逆に、その申立が棄却されると、債権者(特許権者)にとって実質的に特許権による保護が受けられなくなるなど、訴訟による判決を受けていないにもかかわらず、両当事者に及ぼす影響が非常に大きいものとなります。そのため、仮処分における審理は、審問期日を開いて慎重な審理が行われており、本案訴訟に劣らず長期化する傾向が現れています。

一方、仮処分の審理では、申し立て理由の立証のハードルが本案訴訟よりも低く、法官が一応確からしいと推測できる状態まで疎明すれば足りるため、例えば、侵害者が相手方の登録発明に対し、過去において知られた技術であり、特許として無効であるなどと主張した場合、それを必ずしも十分証明しなかった場合であっても、法官がそれにより特許が無効となる蓋然(がいぜん)性があると判断すれば、仮処分申し立ては棄却される可能性があります。

このように、仮処分申し立ては、審理期間が長期化していることに加え、本来訴訟を提起すれば勝てるような事件であっても、その申し立てが棄却される可能性があるという点にまず留意する必要があります。

特許権者の法的リスク拡大の可能性

ところで、仮処分申し立てが認められ、その執行をした後に、特許権者が特許権侵害訴訟で敗訴したり、特許権が無効となった場合、特許権者は、当該仮処分の執行による相手方の損害に対し、賠償責任を負うことになるのでしょうか。これに関し、大法院判例では、仮処分などが執行された後に、本案訴訟で特許権者の敗訴が確定した場合、特別な事情がない限り、相手方が仮処分により被った損害を賠償する責任があるとしています(大法院2002.9.24.宣告2000DA46184判決等)。

加えて、近年の高等法院の判決(2009.1.13.宣告2007NA105732, 2007NA105749判決)では、特許権の仮処分申し立てによる執行の後に仮処分の不当性が明らかになった場合は、特許権者が本案訴訟で敗訴が確定していなかったとしても、当該仮処分により相手方が被った損害を賠償する責任があると判示しており、さらに、最近の大法院(2012.1.19.宣告2010DA95390)による全員合議体判決では、特許発明に対する無効審決が確定する前であっても、特許発明の進歩性が否定されて特許が無効審判によって無効となることが明らかな場合、特許権に基づく侵害差止めまたは損害賠償等の請求は、特別な事情がない限り、権利乱用に該当し許容されない旨判示しており、このような特許権の行使に対し、従前より厳しい見解を示すようになっています。

仮処分申し立ての際には慎重なアプローチを!

それでは、このような問題を回避するために、特許権者はどのような点に注意すべきでしょうか。
まず、特許権侵害を発見した場合、あわてて仮処分の申し立てを行うのではなく、先行文献等の調査を行い、自分の特許権が無効とされる可能性がないか、十分吟味する必要があります。次に、侵害行為が将来持続する可能性があるのか、それにより被る被害規模はどの程度なのかなど、事件の切迫度を綿密に検討し、仮処分の実効性の判断を行うべきです。た例えば、侵害者が侵害行為をこれ以上続ける意志がなかったり、終局的に特許権者が得る利益が大きくないことが予想されるのであれば、仮処分申し立ては、必ずしも適切な手段ではないかもしれません。

さらに、ビジネス的に見ても、仮処分申し立ての乱発は、コスト高であるばかりではなく、公正競争を阻害し、企業イメージの低下などを招きかねませんので、その申し立てには、しっかりとしたアプローチが必要でしょう。

今月の解説者

特許法人NAM&NAM
弁理士 鄭 賢珠(電子チーム長)
2001年延世大学校電子工学科修士卒。97年弁理士試験(34期)合格。98年から特許法人元全に勤務。2001年より現職。大韓弁理士会員
(監修:日本貿易振興機構=ジェトロソウル事務所副所長岩谷一臣)

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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