知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)日本の著名地名の無断商標出願、拒絶される

2015年07月02日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.82)
崔達龍国際特許法律事務所弁理士 崔 達龍

日本の著名な地名が、韓国人により韓国特許庁に商標出願されていた問題について、異議申立を経て、2015年6月初めに拒絶決定が確定した。日本と近い韓国等ではしばしばこのような問題が見られるが、今回韓国特許庁が下した判断は、類似の事例にも参考になるものと思われるため、以下で紹介する。

1. 出願の概要

十勝(TOKACHI)は北海道内の地理的名称で、日本国内で最大の農畜産業食糧供給地でもあり、十勝川温泉等の観光地域としても有名である。ところが、韓国人個人が韓国特許庁に十勝のアルファベット表記である「TOKACHI」という標章を、十勝地域の特産品を含む、第29 類の牛乳・乳加工食品、及び第30 類の菓子・ガム・パン・チョコレート・キャンデー・韓菓を指定商品として2014 年2月に商標出願した。

2.「TOKACHI」商標出願に対する情報提供

2014 年3月に上記出願の事実を把握した北海道はJETROソウル事務所に相談をし、さらに弊所との相談の末、審査過程で拒絶されることを期待して、情報提供が行われた。拒絶されるべき理由としては、韓国商標法第6条第1項第4号(顕著な地理的名称等のみからなる商標)、第7条第1項第11 号(商品の品質を誤認させ、又は消費者を欺瞞するおそれのある商標)を主要な要旨とした。しかし、意外にも情報提供は採択されず、商標登録を行う旨の公告決定がなされた。

3. 異議申立準備

公告決定というニュースは、関係者にとって非常に衝撃的であった。急ぎ異議申立をすることにして、北海道道知事、帯広市市長、帯広物産協会、十勝農業協同組合連合会、十勝町村会などから委任を受けた。証拠資料は、十勝地域が顕著な地理的名称であるということと、十勝地域の特産品と今回の出願商標「TOKACHI」の指定商品が直接的に関連があるということを証明するためのものを中心に、異議申立人から何回にも分けて山のように受取った。

4. 異議申立

2014 年11 月に異議申立をし、2014 年12 月に異議申立の理由及び膨大な量の証拠資料を提出した。異議申立の理由は、情報提供の際に主張した2つの理由に加えて、国内又は外国の需要者間に特定地域の商標を表示するものであると認識されている地理的表示と同一類似の商標であって、不当な利益を得ようとする等の不正な目的を持って使用する商標であるという理由(商標法第7条第1項第12 の2号)を強調した。また、地名の顕著性の主張を補強するため、インターネット検索でも多数の韓国語のサイトが検索される点及び漫画『銀の匙』が日本だけではなく韓国でも人気を博していることを強調し、2010 年12 月1日付で日韓の特許庁長間で交わされた協定覚書の内容を追加した。この覚書については、両国で互いに保護を受けることを願う地理的名称を含む商標等のリストを相互交換し、審査に活用することを目的としたもので、この相互交換したリストには「TOKACHI」関連商標も4つ含まれていた。

5. 出願人の答弁

出願人は異議申立者の主張に対して、「TOKACHI」は日本の地名のうちの一つであるだけで韓国においては顕著性がないという点、それゆえ出所の誤認・混同のおそれがないという点、「TOKACHI」という標章については独自の観念及び意図によって本願商標を選択しただけで北海道の「十勝」とは無関係であり、いかなる不正な目的もないという点等々で反論をしてきた。

6. 異議決定(拒絶決定)

しかし2015 年4月末に最終的に「本件異議申立は理由がある」という決定とともに、「TOKACHI」商標出願は拒絶決定され、審判請求が無かったため2015 年6月初めに確定された。異議決定の主要要旨は、「本件出願商標は、その出願当時に日本の需要者間に特定地域の商品を表示するものであると認識されている地理的表示と標章が同一類似であり、経済的牽連関係が認められる指定商品を含んでいる商標であって、先使用標章の名声に便乗して不当な利益を得ようとする等、不正な目的で出願されたものと判断されて商標法第7条第1項第12 の2号に該当し、他の理由については調べる必要がない」というものであった。

7. 終わりに

今回は韓国特許庁が、他国で顕著な地名と同一の標章を、その特産品を指定商品として出願した以上、不正目的が認められると判断したことがポイントである。出願人がその出願意図について不正な目的はなかったと主張したとしても、結局そのような目的に使用される可能性が十分にあると思われ、商標制度の健全な発展のためにこのような商標の出願は拒絶されるべきであるという警告としても、本異議決定は意義があると思われる。また、インターネットでの当該地名の検索結果については、韓国国内での顕著性の根拠となり得るとの判断は示されなかったが、顕著性と関連した商標審査基準も、インターネット時代に合わせて変わっていかなければならないように思われる。

今月の解説者

崔達龍国際特許法律事務所弁理士 崔 達龍、漢陽大学校電子工学校卒、弁理士試験合格(1982 年)、前アジア弁理士会韓国協会会長
(監修:日本貿易振興機構=ジェトロ=ソウル事務所副所長笹野秀生)

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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