知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)2019年に新しく変わる知的財産制度 ―イノベーション成長支援と公正経済の実現―

2019年02月13日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.125)
日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 浜岸 広明(特許庁出向者)

韓国特許庁は「2019年に新たに変わる知的財産制度・支援施策」を発表しました。この新しい知的財産制度・支援施策は、イノベーション成長支援や公正経済の実現に焦点を当てたもので、今年1月より実施済みもしくは今年半ばまでに実施される予定となってい ます。本稿では、新しく変わる知的財産制度の概要について、ご紹介します。


社会的弱者支援とユーザーの利便性向上

特許審判への国選代理人選任制度の導入:

知的財産保護に脆弱な社会・経済的弱者(注1)を対象に、国選代理人の選任の支援が行われるとともに、国選代理人を選任する当事者の審判手数料が減免されます。(2019年7月施行)

注1:小企業、大企業と紛争中の中企業、若手起業家、障害者など

過誤納特許手数料の自動返納:

過誤納特許手数料の返金手順が改善され、出願人が払戻口座を事前に登録した場合に、別途返金請求することなく返金されるようになりました。(2019年1月施行)

国際特許出願手続きの簡素化:

PCT出願(国際特許出願)の手続きが、e―PCT(世界知的所有権機関(WIPO)が提供するオンラインサービス)で一度にできるようになりました。(2019年1月施行)

中小ベンチャー企業のイノベーション成長支援

IP担保・保証貸出の活性化:

スタートアップ向けIP保証商品の保証割合の引き上げおよび貸出金利の引き下げ商品が発売され、優秀なIPを保有する技術集約型中小企業など向けのIP担保貸出を実施する銀行が拡大されます。(2019年上半期予定)

特許共済事業の施行:

中小企業が海外出願、特許訴訟など、知的財産の資金リスクに効果的に備えられるように「先に貸与し、後で分割返済する」形式の特許共済が導入されます。(2019年上半期予定)

共通の中核技術へのIPR&D支援:

多くの中小企業が共通して必要とする新技術や難関技術に関する特許分析を体系的に行うことにより、各分野の企業群全体の技術習得及び特許競争力の強化を図ることとしました。(2019年1月施行)

職務発明補償金の非課税限度額拡大:

職務発明補償金の所得税非課税の限度額が従来の300万ウォンから500万ウォンへと引き上げられます。(2019年2月施行)

技術奪取の根絶に伴う公正な経済の実現

懲罰的損害賠償制度の施行:

他人の特許権や営業秘密を侵害する場合には、損害額の3倍以内で損害賠償額を認めることを可能とし、侵害者が得た利益全額を特許権者に返す制度が導入されることにより、知的財産権の侵害に対する損害賠償が強化されます。(2019年7月予定)

営業秘密管理の負担軽減:

中小企業による営業秘密の立証要件が緩和されるとともに、刑事処罰の類型を拡大し、罰則が強化されます。(2019年7月予定)

特別司法警察の取り締まり範囲の拡大:

商標権の侵害事件に限られている特許庁の特別司法警察の捜査管轄が、特許・営業秘密・デザイン侵害にまで拡大されます。(2019年3月施行)


韓国特許庁では近年、中小・ベンチャー企業の知的財産の更なる競争力強化のための知的財産制度・支援施策の拡充に力を入れています。
懲罰的損害賠償制度や営業秘密管理の負担軽減など、注目すべき制度・施策も導入される予定となっており、これらが実際に中小・ベンチャー企業における知的財産の競争力強化につながるようであれば、日本の今後の知財施策の参考になると言えるでしょう。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所 副所長 浜岸 広明(特許庁出向者)
1998年特許庁入庁。情報処理分野の審査官・審判官、国際課課長補佐、審判課課長補佐、知的財産活用企画調整官等を経て、17年6月より現職

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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