知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国がGIIでアジア地域1位獲得

2025年10月15日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.205)
ジェトロ・ソウル 副所長 大塚 裕一(特許庁出向者)

韓国特許庁は9月16日、世界知的所有権機関(WIPO、WorldIntellectualPropertyOrganization)が発表した「2025グローバルイノベーションインデックス(GII、GlobalInnovationIndex)」で、韓国が139カ国のうち総合4位、アジア地域で1位となったと発表しました。韓国がアジア地域1位となった要素として、人材育成が大きく影響しています。今回は知財分野の人材育成を中心に解説を行います。

1.グローバルイノベーションインデックス(GII)

韓国はここ数年、GIIにおいて上位10位に入る状況でしたが、今回はアジア地域で1位、総合で4位という高順位となりました。アジア地域では、昨年1位だったシンガポール(アジア地域2位、総合5位)に続いて、中国(アジア地域3位、総合10位)、日本(アジア地域4位、総合12位)という順になっております。WIPOの発表によりますと、GIIは、1.制度、2.人的資本·研究、3.インフラ、4.市場高度化、5.企業高度化などの投資部門の5つと、1.知識·技術の算出、2.創意的算出などの算出部門2つの計7分野と、計78の細部指標を総合して算出される指標となります。2025年度、韓国は投資部門で4位、算出部門で6位となり、人的資本·研究分野では7年連続で世界トップとなりました。 78の細部指標につきましては、国内総生産(GDP)比特許出願、情報通信技術インフラの中での政府オンラインサービス、企業の研究能力など3つの指標で世界1位と評価され、GDP比国際特許(PCT)と意匠出願においても世界3位の最上位圏と評価されました。

今回のGIIの結果を通して、韓国におけるイノベーション力の高さは、人材育成とインフラ構築に基づいた、高い能力を持った知財人材の育成に成功している点や、情報通信技術等に関する積極的な投資が評価された点などが、IP5としても世界的な存在感を有する韓国知財の高い評価へとつながっていることがわかります。

2.産業財産権出願における女性の割合

GIIから韓国は現在、知財人材の育成において世界トップレベルの状況にあることがわかりますが、年齢・性別に関係なく知財人材の育成を推進しているところ、女性による出願が増加している点も興味深い要素となっています。韓国特許庁が9月15日に発表した「女性による意匠出願が25年間5倍増」というプレスリリースでは、韓国における意匠権の出願人3人のうち1人は女性であることがわかったと述べられています。女性による意匠出願の割合は、1999年には、全体の7.6%に過ぎなかったものが、2024年には35.4%と急増し、2025年上半期も同じ割合で、25年間で5倍近く増えたことになります。同期間においては、特許·実用新案も女性による出願の割合が5.2%から20.7%に増加し、商標においても14.3%から38.0%と増えていることが報告されました。この結果から、同じ人材からの出願が継続しているというよりも、年次経過にともなって、出願している層が変化しており、これは知的財産を創出する人材の広がりや多様性が進んでいることの現れだと考えられます。先述のプレスリリースには、30代以下の女性による意匠出願が全体の半分以上を占める点も説明されており、いわゆるMZ世代と呼ばれる若者を中心とした女性による出願件数が増加傾向にあり、デザイン業界の新しい成長エンジンになっているとの報告もありました。相対的に、現在より産業財産権の創出から出願に至る活動が少なかった女性層も含めて、幅広い人材育成が功を奏して、産業全体の創出につながり、GIIへも貢献していることがわかります。

3.日本の目標

日本においては、6月3日に知的財産戦略本部から「知的財産推進計画2025」が発表され、この中で以下のようにGIIの目標が設定されました。

「知財・無形資産投資の促進や人工知能(AI)等の先端技術の利活用の推進等を通じ、知的創造サイクルを加速化することにより、2035 年までに、WIPO の「グローバルイノベーション指数」の上位4位以内を目指す。」

これは、過去の最高順位が4位ということもあり、それを上回る順位を目指すという趣旨の目標となります。GIIでの上位順位を獲得するには様々な要素での高評価が必要となりますが、アジア地域での最高順位を獲得した韓国の取り組みは参考になる部分が多く、知財分野における人材育成に力を入れる必要性が高く感じられます。特に、既存の知財創出層のみに限らず、新たな層の知財人材の育成を行うことが将来のGIIでの高評価につながる可能性が高く、そのための取り組みが求められます。

まとめ

イノベーションの創出にあたって、環境やトレンドの変化が過去に比べて早くなっている状況下において、新しいアイデアを様々な層から導き出すことが重要であり、そのためには人材育成も様々な層で行われることがイノベーション大国となるために必要ではないでしょうか。


今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 大塚 裕一(日本国特許庁知財アタッシェ)
2002年日本国特許庁入庁後、特許審査官・審判官として審査・審判実務や管理職業務に従事。また特許庁 総務課・調整課・審判課での課長補佐、英国ケンブリッジ大学客員研究員、(国)山口大学大学院技術経営研究科准教授、(独)INPIT知財人材部長等を経て現職。

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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