知的財産に関する情報(The Daily NNA【韓国版】より)韓国における審判請求期間、再審査請求期間の延長

2021年11月10日

The Daily NNA【韓国版】掲載(File No.158)
ジェトロ・ソウル 副所長 土谷 慎吾(特許庁出向者)

2021年10月19日、韓国の改正特許法、デザイン保護法(日本の意匠法に当たる)、商標法が公布されました。本改正は、審判請求期間、再審査請求期間の延長という、実務上の影響が大きく、知財関係者が待ち望んでいた内容を含んでいますのでご紹介します。

1.拒絶査定(拒絶決定)不服審判制度について

特許庁に特許、意匠(韓国ではデザイン)、商標の各出願を出願し、審査の結果、権利化が認められず、拒絶査定(韓国では拒絶決定)がなされることがままあります。
拒絶査定(拒絶決定)の内容によっては、権利化が相当難しく、断念せざるを得ない場合もありますが、その判断に不服がある場合、あるいは、権利範囲を補正することで権利化を見込める場合には、日韓ともに審判を請求することができます。
審判は、知的財産の世界において、裁判の一審に相当する手続きで、日本では特許庁審判部、韓国では特許審判院の通常3人の審判官による合議体が担当し、拒絶査定(拒絶決定)の内容が適切だったか否かを厳正に審理し、その結論として審決を行います(裁判官が判決を出すのと似ています)。
審判制度は、日韓で似通った仕組みになっていますが、特許、意匠(デザイン)に関しては大きな違いがあります。日本では、権利範囲(特許の場合について、明細書、特許請求の範囲または図面、意匠の場合について、図面、写真、ひな形または見本)を補正する場合としない場合とに関わらず拒絶査定不服審判を請求するのに対し、韓国では、権利範囲を補正する場合は再審査を請求し、補正しない場合に拒絶決定不服審判を請求する点です。

2.韓国の制度における実務上の問題点

拒絶査定(拒絶決定)を受けてから審判請求または再審査を請求するまでの期間は国ごとに一定の期間が定められています。
日本では、平成20年法改正(2009年4月1日施行)により、審判請求期間が30日間から3か月に延長されたことによって、期間に余裕を持って審判請求できるようになり、また、現在、米国、欧州、中国等の主要国においても外国人に対する審判請求期間は3か月以上となっています。
一方で、韓国の特許、デザイン、商標の拒絶決定に対する審判請求期間および再審査請求期間は、現在もなお外国人による出願の場合でも30日間です。言語の壁がある日本の出願人にとっては、検討時間が短いという問題があり、国際的に見てもアンフレンドリーといえる状態でした。
現在でも、審判請求期間および再審査請求期間は、2回に限り30日間ずつ延長可能であるため、延長を行えば問題がないという考え方もできますが、延長の都度、手続きの負担が発生するとともに、韓国特許庁および代理人に対する費用負担が発生するという問題があり、知財関係者の間では、延長に依らず長い期間を設定して欲しいという強い要望がありました。

3.今般の法改正の内容と今後の予定

今般の法改正により、特許、デザイン、商標の各出願について審判請求期間および再審査請求期間(再審査は特許、デザインのみ)が30日間から3か月に延長されることになりました。改正特許法、デザイン保護法、商標法は、2021年10月19日に公布がなされたところで、施行日は2022年4月20日の予定です。
改正法が施行されれば、手間と費用のかかる延長手続きなしで、韓国特許庁に審判請求、再審査請求ができるようになり、日系企業にとって大きなメリットがあります。
本改正については、これまで日系企業、知財関連団体が韓国政府への建議事項等を通じて要望していた経緯があり、実現したことを喜ばしく思います。

今月の解説者

日本貿易振興機構(ジェトロ)ソウル事務所
副所長 土谷 慎吾
2001年日本国特許庁入庁。通信・半導体分野の審査官・審判官、情報技術統括室室長補佐、審判課課長補佐、主任上席審査官等を経て、2020年7月から現職

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本記事はジェトロが執筆あるいは監修し、The Daily NNA【韓国版】に掲載されたもので、株式会社エヌ・エヌ・エーより掲載許諾をとっています。

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